大晦日結界復旧作戦~愛していると、この夜に~
祠は潰されたままだが、流れの修復はできた。
椿は仕上げに小さいが強力な浄化水晶球を置く。
そしてすぐに麗音愛の方に向き直ると、麗音愛が少し血を吐きグラリと倒れそうになっている。
「麗音愛!!」
「大丈夫だ……」
麗音愛は自分を抱きとめようとした椿を逆に抱え、雪に座り込んだ。
マントがあるので濡れはしない。
「麗音愛……!」
ぶすぶすと麗音愛の身体から修復の煙がたっている。
椿が紫の炎を出そうとしたが、手のひらを優しく握った。
「俺に炎を使わなくていい、自分の回復のために温存しないと」
椿の血のついた頬を麗音愛は指先で拭う。
「でも……」
「俺は大丈夫、お願い。言うこと聞いて」
「……麗音愛……うん」
「少し休憩……こうしていたら癒やされるから」
ぎゅうと抱き締られ、椿も麗音愛を抱き締めた。
想い合う気持ちが伝わってくるようだ。
「……無理ばっかり……」
「だって……世界で1番、椿の事を想ってるから」
ぎゅっと椿の首元に顔を埋めるような仕草と言葉に、椿はドキリとする。
少し離れて、椿の炎が麗音愛の黒曜石のような瞳に映って見つめ合った。
憂いを帯びるような表情に、また椿の心臓が高鳴る。
「椿……世界で俺が1番、椿を愛してる」
「……麗音愛……」
血や妖魔の死骸が転がった真ん中、炎が2人を照らす。
雪だけが白い。
心に染み渡る言葉。
椿がクシャッと微笑むような、涙ぐむような顔をした。
「こんな時に……こんな夜に、ごめん」
「ううん、嬉しい」
妖魔の穢れを消すように、空から雪が降り注いで2人を白く染めていく。
「あの闘真の薔薇園で、闘真が椿を愛してるって言った時も相当イラついたし……
あいつ、さっきも簡単に……」
「薔薇園で」
麗音愛が急に割って入ってきたのはそうだったのかと、椿は思い出す。
あの時から、そんな風に思ってくれていたのかと、またじんわり胸が熱くなる。
「俺みたいなガキが……言ってもいいのかなって思ってたけど、
闘真に言わせっぱなしなのは、もう嫌だ」
「闘真達に言われるのは嫌だよ……」
「うん。椿が傷つく事なんて、もう無くしたい
心も……俺が守りたい」
「守ってもらってる……さっきの嫌な気持ち、もう消えちゃった」
「よかった」
少し2人は目を閉じて抱き合い、幸福と自分の回復を感じた。
「あの……私も……言ってもいい?」
「もちろん、言ってくれたらすごく嬉しいよ」
「麗音愛には……沢山愛してくれてる御両親や御家族がいるから……
私が1番なんて言えないけど」
「え、そこは椿が1番って言ってよ」
「え! ……言っていいのかな」
「うん、言ってほしい」
椿らしい、と麗音愛は思う。
目を合わせては言えないだろうな、と抱き締めたまま頭を撫でた。
「……せ、世界で1番、麗音愛の事……」
「うん」
「……愛してい……ます」
「……うん」
恥ずかしそうに、でも嬉しそうに椿の声で聞こえた愛の言葉。
本当は酷い痛みがまだ身体を襲っているが、それでも椿を少しでも守れて良かったと思う。
お互いまた求めるように抱き締めあった。
不思議に抱き合うと呪怨の統制も楽になる。
椿の優しさが流れてくるようだ。
「幸せだよ。ありがとう愛してる」
「えへへ」
「……ちょっと恥ずかしい」
「うん、私も」
お互い照れて少し笑った。
「これでまた、頑張れる」
「うん」
お互いに瞳を見つめ、そっと顔を寄せ合った時、麗音愛の携帯電話に呼び出し音が鳴る。
椿は慌てて、離れてしまった。
相手の名をAIの音声で確認し、麗音愛は少しため息をついて通話ボタンを押す。
「はい、咲楽紫千です」
『こちらはE地点の絡繰門です。妖魔は制圧しました』
「了解です。絡繰門さん、こちらに研究課の人を寄越してくれませんか」
『研究課? 何か問題が』
「特殊能力のある紅夜会のナイトの腕を斬り落として保存しています。
調べれば、何かわかるかもしれない」
『それは、かなりの情報源になるでしょう。すぐに向かわせます』
麗音愛がそんな事をしていたのかと、椿が目を丸くした。
保存した場所を指示し会話は続く。
『A地点は剣一部長、F地点は加正寺さんが対応している』
B地点は最初。D地点はここだ。
「A地点とF地点に増援は必要ですか」
『加正寺さんの方には僕が行く。剣一君は大丈夫だと思うよ。
ここも一応浄化班がいるけれど、申し訳ないが椿さんに頼む事になりそうだ』
「はい、了解です」
「それではC地点に向かい妖魔を殲滅、浄化した後にE地点に向かいます」
『お願いするよ、それでは』
雪春との通話が終わった。
「キスの邪魔された」
「えっ」
「冗談だよ」
麗音愛は立ち上がり、椿の手を引いて立ち上がらせた。
ぎゅっとマントを握られる。
椿の潤む目を見て、麗音愛は椿にそっと口付けた。
触れる冷たい唇と暖かい唇。
「さぁ、もう少し頑張ろう」
「うん!」
抱き上げて飛ぶと、どこからかの除夜の鐘が街に響き始めていた。
◇◇◇
『どうだ、亜門。わかりそうか』
先に林の中で闘う剣一からの通信。
佐伯ヶ原は暗視スコープで美子の結界の中から林を伺う。
ザクザクと初めてのかんじきを履いて2人は歩いている。
「かなりドギツイ呪いが撒かれていますけど……なんとか……
剣一さんは大丈夫ですか。この瘴気……」
『聖騎士、舐めんなよっと』
美子の視覚では真っ黒な霧に覆われた林中だ。
剣一の攻撃なのかキラキラと光が見える時もある。
冬用ブーツしか履いていないはずなのに、どうやって飛び回っているのか。
「剣一君、戦闘員少なかったんじゃ……この3人といっても闘うの剣一君だけじゃ……」
『俺の心配はいい、祠を見つける事に専念を!!』
「おい、動くぞ。あっちの方角に何か見える」
「わ、わかったわ。移動式結界は難しいんだから……! きゃ!!」
『2人とも、目を潰れ!!』
美子が張った結界に妖魔が喰い破ろうと牙を剥いた。
が、雷のような轟音と衝撃が走り、妖魔は塵と消える。
「天啓式聖雷法……すごいな。さすがサラのお兄さん」
「剣一君は、もともとすごいのよ」
「お前もこのくらいできるようになれ、ほら行くぞ」
「そこは、佐伯ヶ原君がなるようになるんじゃないの……その短刀だって」
佐伯ヶ原は腰に短刀を差している。強い雪と風が吹いてマントが翻った。
「同化なんて絶対にしないし、こんな短刀で闘えるかよ」
「まぁ……そうよね」
「お前は同化しろなんて絶対言わないだろうから、気楽でいいわ」
「なんだかムカつくわ」
「はは、おい図書部長、3時の方向だ。まぁ浄化を頑張ろうぜ。小猿の負担が減るだろう」
『うわ! 見た事ねぇ妖魔までいやがる。頑張ったらラーメンおごってやるよ』
「お正月なのに……あ、除夜の鐘」
「さっさと終わらせるぞ。さみぃ」
剣一が妖魔を蹴散らすなか、佐伯ヶ原と美子は祠を目指した。
いつもありがとうございます!
唐突な激甘回になってしまいました!
次回は剣一・佐伯ヶ原・美子回です!
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