大晦日結界復旧作戦~現時点をもって!!琴音ふぃ~んっちとの婚約を破棄するよぉおおおおお!!~
佐伯ヶ原の住む高層マンションの下に剣一が車を停めた。
「佐伯ヶ原! 乗ってくれ」
「はい」
団服の上にコートを着た佐伯ヶ原が後ろ座席に乗り込んだ。
「あぁ? なんで藤堂まで」
「私も白夜団なんだけど……」
既に座っていた美子も団服だ。
「戦闘になったらどうすんだよ」
「佐伯ヶ原君が来れる任務なら、私でも大丈夫かなーって」
「けっ、お守りなんてごめんだぞ」
「自分だって戦闘しないくせに……それに剣一君がいるも~ん」
「はいはい、じゃあ2人とも地図見て~雪でかなりタイムロスになるな……」
数年ぶりの降雪。
事故で至るところで渋滞や通行止めが発生していた。
そして警察や消防にはいつも以上に、事故や騒動、怪我の通報が相次いでいる。
妖魔絡みなのか、負の感情が増した人間が起こした事件なのか
そちらの調査にも呼ばれ白夜団は全員動いている状態だ。
「外れの林の中ですか」
「あぁ、この雪だし
どうも紅夜会が一帯に邪水を撒いたらしく楔ポイントの場所が特定できない。
お前なら、余計な呪いに邪魔されず場所が特定できるんじゃないかと思ってな」
「えぇ、やるだけやってみますよ」
「そうすれば、玲央の負担も減る」
「はい!」
「男を守るのは不本意だが、俺が守ってやるよ」
「頼みますよ、俺腕怪我したらヤバイんで」
「特務部長を舐めるんじゃないよ
よっちゃんは結界頼むね、しっかり俺が守るから」
「うん、ありがとう。頑張る」
剣一と美子も、仲の良い幼馴染のように明るい雰囲気だ。
もうその間に苦しい恋心はないように見えた。
「たく、クソな事しやがって紅夜会……」
地図を消した佐伯ヶ原の携帯電話の待ち受け画面には、麗音愛のスーツ姿が光っていた。
◇◇◇
加正寺家、副当主の立場にいる琴音は大学の広い敷地内にいた。
人払いは済ませてある。
ウヨウヨと妖魔がいる中、結界内で泣き叫ぶのは加正寺家次期当主の崇だ。
結界の真ん中に座り込み震えて通話している。
「びぇええええ!!!
嫌だぁあああああああああ!!
僕には無理! 無理!! 兄さん無理だよぉおおおおおお
僕が死んでもいいの!?!? いいって!! 酷いよぉおおおお!!」
携帯電話で話している相手は加正寺家の長男だろう。
長男は、当主の名は欲しいながらも会社も経営しており闘いたくもない為
とりあえず他の弟妹も同意し末子の崇に継がせる事に決めたようだ。
「……崇さん……」
「無理無理無理無理!!
来週公開の映画楽しみにしてるんだよ僕は!!」
ミラクル過激殺戮少女の映画公開のことだ。
何度も聞いていたが、琴音はため息をつく。
「……崇さん……」
「同化なんかしたくないよ!!」
「それでも、あなたは当主ですか!?」
「と、当主なんて、言ったって僕が無能だから押し付けてるの知ってるんだからなぁあああ」
「……知ってたんですか」
「ひぃ! 酷いよぉおおおおおお」
崇は更に涙を流す。
「まぁいいですよ。酷くても結構
それでも婚約者の私が闘うんですよ?
早く行かなければ!!」
「嫌だよ!! うわ!!」
結界をガツンガツンと食い破ろうと牙を剥いた獣型妖魔に、崇はもう怯えパニックになっているようだ。
「婚約者が闘うんですよ!?」
「じゃあ……加正寺家次期当主の崇は!!
現時点をもって!!
琴音ふぃ~んっちとの婚約を破棄するよぉおおおおお!!」
「あら……婚約破棄……!!
じゃあ、だれがその剣を使うんですか??」
もうすでに崇は手放している加正寺本家の明橙夜明集『骨研丸』が
抜身でそのままギラギラと光っている。
「ふえぇえええええ、だ、誰でもいいよ!!」
「当主を降りると……?」
「いいよ! 降りる降りる!!」
「追放されますよ?」
この段階で当主にならないという決断をすれば、加正寺家から、冷遇されるのは目に見えている。
最悪、死んだ事にされるかもしれない。
「いいよいいよ……うっぷ……この空気、気持ち悪い……」
乱され増幅された邪流や妖魔の気に、崇は影響されているようだ。
「……そうですか?……私には心地よいくらいです」
風が吹いて、雪が舞い琴音の髪を揺らす。
琴音は爽やかな風を感じるように深呼吸する。
「君みたいな女とは婚約破棄だよぉおおお!! 怖い! 死にたくない!!」
「仕方ないですね」
琴音は崇から携帯電話を奪うと、さっきの着信履歴でまた長男に電話をした。
「あ、潔様ですか?
はい、崇様は当主も降りるし婚約破棄もすると言ってますが、はい」
「だから三次元なんて嫌なんだよぉ……」
「はい、ならばこうするのはどうでしょうか?
当主は潔様で、この『骨研丸』は私が継承するというのは」
「ぼええええ!? 琴音ふぃ~んっちが……?」
「使える者が、いないとして
白夜団に返還するよりは……いいかと思うのですが。
えぇ……今回の戦場で仕方なく……と団には報告致しますわ」
琴音は微笑みながら、通話をし
なおもまだ結界を破ろうとする妖魔を右手の黄蝶露で切り捨てた。
「婚約破棄の慰謝料として受け取ります……はい……
同化継承は……どうでしょうか、前例がありませんものね
一族で本家分家で二刀あるのも加正寺だけです」
琴音が振ったので黄蝶露に付いた妖魔の血が、崇の顔に飛び散る。
「なんの社会的地位もいりませんわ、ただ団内での強さは欲しいのです。
本当ですか、ありがとうございます。
それでは……」
切った携帯電話を崇に放り投げると、琴音は骨研丸を左手で持ち上げる。
「ほ、本家のこっちを使うっていうの?」
「まさか、私の愛刀は黄蝶露。
こっちは……ほら、左手でしょう?」
右手に黄蝶露、左手に骨研丸を持ってニッコリ微笑む。
「……サーベル二刀流? む、む、無理だお」
「この骨研丸は、黄蝶露の補助の役割になるのですよ。
それではここを早くお離れになってください、あなたは追放されます。
ここでの戦闘で死んだ事になるそうですよ。もう会う事はないでしょう」
「こ、琴音ふぃ~んっち……」
「なんですか……」
「ぼ……僕を好きなんじゃないのぉ?? 一緒に田舎で暮らそうよぉお
キッスしたじゃない~~僕た……ひぃ!!!」
黄蝶露の切っ先を、崇に向ける琴音。
「お前のような糞豚中年……誰が好きになるって言うんですかぁ?
キス……とか口に出したら……本当に事故死しますよ??
指一本触れてない……そう記憶しなさい!!!!」
「ひ……ひぃいいい」
「私が好きな人はね……咲楽紫千玲央先輩……ただ1人です」
骨研丸も首に当てられサーベル2本で威圧された崇は、ついに失禁した。
その途端、琴音は結界を解除した。
「く、くそぉ……メスガキ許すまじぃ……!!」
「どうぞ玲央先輩くらい強くなって、ざまぁしに来てくださいな」
ふふ……と琴音は微笑み2人に襲いかかる妖魔を二刀で切り刻む。
弾け飛ぶ妖魔の血を浴びながら崇は泣いて逃げていった。
「全て予定通り……ふふ。いくわよ……黄蝶露
どちらが上か骨研丸を調教する。お前の悲願を叶えてあげる……!」
マントを翻し琴音は妖魔の群れに向かって夜の闇を駆ける。
いつもありがとうございます!!
今回更新が1日遅れになりました。失礼しました。
剣一からの琴音回でした!
ますます強くなる琴音です!
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