増えてく欲望~17歳男子です~
台所で抱き締め合う、麗音愛と椿。
今まで何度も、2人でこの台所でコーヒーとココアを淹れたり
トースト焼いたり、うどんを茹でたり、お菓子を出したりしていたのに
椿を抱きしめてるだけでドキドキして自分の家にいる気がしない。
「麗音愛、大好き……」
「うん、好きだよ」
ドキドキしているが、呪怨を統制しているので麗音愛の心臓の音は椿には聴こえていないかもしれない。
椿は照れたように、嬉しそうに離れる。
「えへ、麗音愛ヒーリングチャージできた」
家族のハグみたいに思っているのかな、と思ってしまう。
椿は今までの経験で、男達から触られようとして嫌悪してきたから
そういうものへの苦手意識は強いだろうと考えている。
ただ男達が実際何をしようとしていたか、なんて詳しい事は知らないだろう。
椿の友人達も椿の前では刺激の強い話は控えているようだった。
実は汚い男達だけではなく
目の前の元親友の恋人にもそういう欲はあって
そんな事を考えている男と2人きりだという自覚はあるんだろうか
――ないだろうな。
「麗音愛?」
動かない麗音愛に、椿がまた声をかけてきて正気に戻るよう深く息をした。
「いや、沢山食べよう!」
「うん!」
この皆が平和を望む状況で、紅夜会が攻撃を仕掛けてくる事は可能性が高いが
とりあえずは大晦日の食事を楽しむ。
一瞬先の未来を常に不安に思っていたら生きているのも辛くなる。
2人でそういう今を一緒に笑って乗り越えてきたのだ。
乾杯して豪華な食事。
年末年始はご馳走三昧で嬉しいが、去年は白夜団も知らず
両親も年末年始は家にいて家族で過ごしたのを思い出す。
友達と行った初詣には何を願ったか……。
「おば様達に何をお返ししよう。こんな素敵な物頂いて
こんなにご馳走も」
「いいんだよ。大人からの好意なんだから」
「でも」
「母さんも椿が着てくれたの見たら喜ぶよ」
「それだけでいいのかな……」
「じゃあ年明けに、何かちょっとしたものでも買い行く?」
「うん!何がいいかな……お話したいな……。
何時ころ帰ってくるかな御二人とも、剣一さんも」
「夜中だと思うけど
じいちゃんは……22時くらいかなぁ」
なんだかんだワイワイ2人で食べて少し片付けをしたらもう21時。
「またサイダーにする? ソファ座ってて」
「うん、ありがとう」
椿がポスっとソファに座る。
スッと伸びたストッキングの脚をつい見てしまった。
いつもの靴下より……なんだか艶めかしい。
自分は変態にでもなってしまったのか、いや健全な男子だ、
ストッキングはそういうものだ、と麗音愛は言い訳を頭で並べた。
「はい、サイダー」
「ありがとう」
テレビでは大晦日の歌番組をやっている。
「……こんな大晦日になるなんて」
「ん?」
「1年前は楽しい春や夏や秋がくるなんて
素敵なクリスマスや、こんな大晦日が……」
「椿」
同じ事を考えていたようだ。
でも椿の方がどれだけ激動の1年だっただろうか。
椿の目は潤んでいる。
あの屋敷の事や紅夜との死闘も思い出しているだろう。
「恋をして、こうやって好きな人と過ごせるなんて、思ってもなかった……」
2人で過ごした季節が、蘇るように心に咲く。
手を握り合っていた。
「俺も」
「……後悔してない?」
「してないよ。同じ記憶があっても、何度だってこの道を選ぶ」
「うん」
「そして、また椿に告白するよ」
「……うん」
また泣きそうになりながら微笑む椿。
「そしたら、またオッケーしてくれる?」
「もちろんだよ……嬉しい」
守りたくなる、切ない笑顔。
「俺も嬉しい」
激動の今こんな甘い時間があってもいいだろう、と思ってまた抱き寄せた。
「とても幸せ……」
女の子は、椿は華奢なのにそれでもすごくふわふわ柔らかくて
男とは全然違うんだなと、毎回思ってしまう。
「うん……幸せだよ」
だけど、もっと幸せになりたい。
顔を寄せると、椿も上を向いてくれるのが嬉しい。
背の高さの違いがもどかしくなってしまう。
キスも何度したか、もうわからなくなった。
触れる唇は、気持ちよくて
椿が思ってるチュで終わるキスなんて、もう足りなくなってきた。
この前まで手を繋ぐ事も
抱き締め合う事すら奇跡だったのに……
どうしてこう、欲は留まる事を知らないのか。
離れようとする椿をまだ……ともっと抱き寄せる。
この隙に呪怨に殺されたら敵わない。
だからどこかは冷静でいないといけない。
それが椿を守る事にもなっていると思うが……。
椿の熱っぽさが伝わってきた。
ぎゅっと腕を掴まれる。
もう少しだけ、
もう少しだけなら許してもらえるかも……と
触れたまま唇を開きかけた時。
『~♪』
テレビから、イントロ曲が流れる。
「え」
「この曲……!」
2人は離れテレビを見た。
『年末の大晦日! 発禁曲とまで言われた大流行のこの曲の音源入手!
なんと独占生放映です!』
着飾ったアナウンサーが嬉しそうに話す。
「麗音愛……!」
麗音愛の呪怨が牙を向く。
いつもありがとうございます!
れおつば回……からの! でした。
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次回は……大晦日バトルになりそうです。