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第二部・第二章大晦日にいきなりドキドキ2人きり

挿絵(By みてみん)

「大晦日結界復旧作戦」始まります!


作:みやこのじょう先生

 

 ――大晦日。

 今年は大雪らしく、雪の情報が大晦日のテレビ番組に混ざって映る。


「すごい雪……」


 咲楽紫千家のリビングのカーテンの隙間から椿が降り続ける雪を眺めた。


「こんな雪に降るのは俺も、子供の頃以来かな」


 後ろから麗音愛が言う。

 あの同化剥がしの時に、美子の世界で見た雪景色の時だ。


「私の故郷は沢山降ってたよ」


「そっか……」


 詳しく聞いていいのかな、と麗音愛は少し迷うと

 椿はそれに気付いたようだ。


「雪遊び楽しかったよ」


「うん」


 微笑む椿を抱き締めたくなるが――。


「こんな大雪の大晦日、雄剣も直美さんも仕事とはなぁ~剣一もだが……」


 咲楽紫千家のリビングには剣五郎もいて、熱い茶を啜った。

 年末に3人の男性が行方不明になったという。

 しかし自発的な失踪と片付けられてしまい家族が捜索をテレビやSNSで訴えた。

 それがどうも直接ではないが、私立病院の関係者ではないかという事で白夜団でも調査をするらしい。


「咲楽紫千家の皆が働いているのに、儂がぬくぬくしているのも

 落ち着かないの……」


「じいちゃんはいいんだよ。今までずっと働いてたんだから」


 剣五郎は前線で闘ってきた団員だったが、紅夜復活で妖魔も凶暴化した今は若手の指導などにまわっている。


「あの、おじいさま」


「どうした椿ちゃん」


「おじいさま達が紅夜を滅ぼしたと言われる闘いは

 13,4年前なんですよね」


「あぁ……そうだ。

 篝さんが椿ちゃんを産んだ後も紅夜は現れるだろうと……罠を張り続け

 勝ったと思ったが、やつはただ惰眠をむさぼっただけだったんだな……。

 本当にすまない事をした」


「いえ、そんな……」


「きっと篝さんには、紅夜は滅んでいないとわかっていたのかもしれないな

 儂もほとんど会えず話もできなかったが……」

 

「……この大雪を見ると、母様が……

 紅夜がまた来ると言っていたような気がして……白夜神様びゃくやのかみさまが……

 いたっ」


 椿が頭を押さえる。


「椿、大丈夫!?」


「うん、思い出そうとすると頭が痛くなる」


「無理しないで、ソファに横になる?」


「ううん、大丈夫。情けないね。大事な事かもしれないのに」


「いいんだよ、思い出せる時に思い出せるさ」


 椿をソファに座らせ、麗音愛は水を汲みに行った。

 心配そうに椿に声をかけた剣五郎は、椿が大丈夫だと告げると立ち上がりイスにかけてあったコートを羽織る。


「あれ? どっか出かけるの?」


「ごめんな。急なんだが、明日のお節を取りに行きがてら

 小料理屋で白夜の昔馴染と少し話でもしてこようと思ってな」


「そうなんだ」


「何か昔のことで

 対紅夜の事がわかるかもしれん。あとは七当主の動きもな」


「うん、でもせっかくの大晦日なんだもん楽しんでよ」


 剣五郎は目の前に立った孫を見つめる。

 春から随分と成長した。優しさに強さも備わった男になったと思う。


「れおんぬちゃん……なんて、もう呼べない程立派になったな……うん」


「なんだよいきなり」


「いや……今日の洋食のオードブルや寿司は届いてあるから好きに食べなさい。

 2人も夜中には帰宅するだろう。剣一も帰ってくるかもしれないから」


「うん、わかったよ」


「椿ちゃん、明日はお年玉あげるからね」


「え! そ、そんないいんです。おじいさま楽しんできてください」


「椿ちゃんも、儂の大事な孫なんだよ

 じゃあ行ってくる。鍵閉めておいてくれ」


「うん、いってらっしゃい」「いってらっしゃいませ」


 2人で剣五郎を見送って、冷たい風が玄関に流れドアが閉まった。


「……」「……」


 リビングから、テレビの音が聴こえてくる。

 いきなり2人きり。


「あ、つ、椿、頭大丈夫?」


「えっ!?あ、頭大丈夫だよ」


「えっあ……はは。大丈夫か頭は」


「ぷっ、麗音愛ったら酷い」


「間違った」


「もう!」


「ごめんって!」


「ひどーいっ」


 椿がキャッと笑って、リビングに歩いていく。

 椿は昨日も今日の昼間も本部へ行って、青い炎の保存が可能ではないか色々と試していた。

 それに加え紅夜会にわかるように妖魔討伐にも出て忙しい。

 麗音愛も同様だ。


 2人きりの時間はとれなかった。

 これからも大晦日、正月に2人になれる事はないと思っていた。


「椿」


「はい」


 笑顔で振り返ってくれる。

 今日の椿はセーターにまたスカートを履いていた。

 胸元にはブローチ。

 一式、直美からのクリスマスの贈り物だ。

 両親は新年を迎える頃には帰宅すると言っていたので、着てきたんだろう。


 黒いストッキング? なんてものを履いているのも初めて見て

 今日家に来た時からドキドキしていた。


 自分がそんな気持ちになる度に、呪怨に隙きを突かれて怪我をしていたら

 まるでスケベ調査でもされている気分になる。

 いくらなんでも17歳男子には入り込まれたくない領域だ。


 最近は自己でも特訓を続けて修行旅行の時よりは統制力は格段に上がっている。

 と自信を持っていたいのに、可愛い恋人と2人きりになっただけでこの緊張だ。


「麗音愛?」


「あ、じゃあ夕飯にしようか。

 サイダーでも飲んで、大晦日なんだし」


 椿はこんな大晦日も初めてだ。

 かろうじて夜に蕎麦だけは食べていたらしいが嫌味のように短く切られた蕎麦だったという。

 麗音愛は直美に話をして1番美味しいと思われる蕎麦を用意しておいた。


「お蕎麦も楽しみにしておいてね」


「うん、ありがとう」


 無垢な笑顔。

 2人で今日のご馳走を食べる準備をする。


 なんだか、一緒に暮らしているようだ、なんて乙女のような事を考える。

 前も朝ごはんの用意をし合っていたのに、今はまた意識が違う。

 チラッと椿を見ると目が合って顔を赤くして目を逸らされた。


「どしたの?」


「う、ううん」


「何考えてたの?」


「えっ、えっと……一緒に準備して、楽しいなって」


「うん、俺も思った。一緒に暮らしてるみたいって」


「う、うん……うん」


「高校出たら、一緒に暮らしてもいいね」


「ひょ!?」


 椿が驚きの声をあげた。


「……ひょって……嫌?

 大学行っても、白夜で働いていれば収入はあるし」


 紅夜をもし討てたとしても妖魔は自然にも発生するし穢れの浄化や呪い解術など仕事はある。

 麗音愛にも働いてもらう事になるだろうと、兄から聞いていたのだ。


「嫌だなんてそんな事……わ、私……あの、あの」


 勢いでつい、言ってしまったが、

 椿は顔を赤くしてちょっとパニックになっている。


「ちょっと言ってみただけだよ」


 未来が考えられない椿と、未来の話をしたいとは思っているけど

 自分としても、きちんと将来の話を伝えてもいないのに急すぎたかなと思う。


 照れくさくなって2人分だけ綺麗に盛り付けた皿をリビングのテーブルに運ぼうと台所から出ようとすると『麗音愛』と裾を掴まれた。


「びっくりしちゃって……」


「うん、わかってる」


「あの……」


「怒ってないよ」


「うん……」


 椿はホッとした後に触れたいって顔をする。

 何か言いたいけど、言えないような目がちょっと潤んで切ないような顔。

 恋人同士になって、意味のわかった椿の表情。

 今までもこんな顔をしていた事があったなと思うのは自惚れか。

 きゅっと裾を掴む仕草も可愛くて、麗音愛の胸も熱くなる。


 自分もいつだって触れたい、抱きしめたい。


「なっなんでもない……」「椿」


 台所にいたまま、皿を結局元の場所に置いて椿を抱き寄せた。

 まだ、19時だ。




いつもありがとうございます!!


素敵すぎるイラスト!みやこのじょう先生ありがとうございました!!

みやこのじょう先生はなろう内でも多数執筆されております。


大盛り上がりの「大晦日結界復旧作戦」読んで頂けると嬉しいです!!


前回まで琴音、紅夜が続いたので、れおつば回でした。

次回も大晦日のドキドキお届けしたく思います!


皆様のブクマ、評価(下部星マーク)、感想、レビューが励みになっております!

気に入って頂きましたら是非お願い致します。


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