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僕は加正寺崇。次期当主だよ

 

 本部での会議後。

 剣一の運転するRV車。

 助手席に乗せてもらった椿。

  

 もう暗い林道を走る。


「なにか美味しいものでも食べて帰るー?

 それともテイクアウトにするかい?」


「私はどちらでも大丈夫です。

 ……あ、あの剣一さん

 この前はありがとうございました。

 直接は御礼できていなかったので」


「ん?」


「あ、あの……麗音愛が迎えに来てくれた時の……」


 椿が寂しさに揺れていた時、剣一が頭を撫でて『任せろ』と言い

 その日のうちに麗音愛が椿の元に現れた。

 おかげでキスする事ができました、とはまさか言えず椿は口籠る。


「あ~!! いや、玲央が気付いて良かったよ。仲良く戻れて良かったね」


「は、はい」


「いっぱい仲良くなっちゃった?」


「えっえっ」


 あの日のキスを思い出してしまい、顔が熱くなる。


「あはは可愛いなー! なんて言ってたら玲央に殴られるな」


「けっ剣一さんっ」


 麗音愛から剣一は交際の事は知ってる、と言われていたが

 改めて2人きりになると椿は少し緊張してしまう。

 応援してくれている……でも兄として家族として

 弟が紅夜の娘と交際している事をどう思うのだろうか。


「玲央の事、頼むね」


「えっ」


 思いがけない言葉に椿は驚く。


「私の方がいつも、麗音愛に助けられているんです」


「いやぁ、あいつの方が椿ちゃんいないとダメでしょ

 だから、傍にいてやってね」


「……傍にいても……いいんでしょうか」


「そりゃもちろん」


 当然のように返された言葉に、椿は胸がいっぱいになる。

 もちろんそれは嬉しさだったが言葉にできない気持ちだった。

 

「何食べたい?」


「じ、じゃあ……いやの屋の牛丼がいいです!」


「えー!? 全く欲がないんだから

 じゃあ豚汁にサラダもつけよう!!」


「はい!」


 無邪気に笑う椿の温かさを感じ剣一も笑う。


「今、桃純家の文献を色々調べててさ」


「はい」


「あの福火渡しの儀式のように、椿ちゃんの浄化の炎を力はそのままに

 保存して他方へ広めることができれば妖魔を防ぐ結界のような役割になり得るんじゃないかと」


「はい! 私にできる事はなんでもします」


「返答が早いね」


「いつも自分にできることはもっとないのかと思っているんです……

 なんだか皆さんより全然働いていない気がして

 ただでさえ厄介な存在なのに……」


「君の存在は俺達にとって希望の光だよ」


「そ、そんな……」


「んじゃ勝利の女神様かな~?

 よし、じゃあ牛丼食べて少し実験に付き合ってもらうよ!」


「はい!」


 車内の明るいポップな曲そのままに、剣一は笑って車を走らせた。



 ◇◇◇


「咲楽紫千さん、お疲れ様でした」


「お疲れ様です。ありがとうございました」


「こちらこそ、いいデータが取れました!

 外のイスで少しお待ちください」


 麗音愛は研究科で『明けの無い夜に』を聴きながらの実験テストを受けたが呪怨を暴走させる事はなかった。

 しかし電気屋のテレビが一斉に流したような状況になると、影響も増強される事がわかる。

 それは麗音愛だけの影響にはとどまらない。

 一般人役として参加した団員は実験に不平不満を言い出した。


 バタバタと忙しく動く研究員に礼を言われ、とりあえず廊下のベンチに座った。


 時間はもう21時過ぎ。

 携帯電話を見ると、椿から咲楽紫千家にいるというメールが来ている。

 返信をしていると、何やら廊下の奥から声がした。

 

「しっかりしてください!」


 聞いた事がある声が聞こえ顔をあげると、琴音が中年ぽい男と歩いてくる。


「で、で、で、でも。どう、同化なんてするのは今の、今の時代ナンセンスというか」


 おどおどした声で話す小太りの男は、ハンカチで汗を拭きながら琴音に言い訳をしている。


「何を言っているんですか、同化継承する者こそ当主ですよ

 あ! 玲央先輩!?」


 隠れる場所もないので、そのまま琴音にも見つかってしまい麗音愛は挨拶をして頭を下げた。

 男は礼も返さず、思い出したように指を指してきた。


「あ!? 

 き、君さ、咲楽紫千家の人だよね」


「え……はい」


「ど、同化剥がしの時に、出てた人でしょ

 咲楽紫千家の明橙夜明集継承者は、当主じゃないんだもん。

 うちだって……ぼ、僕がなる事ないんだと、思うんだおね……」


 どうやら、この男は加正寺家の当主になる男、末子の加正寺崇かしょうじたかしらしい。

 つまりは琴音の婚約者だ。


「玲央先輩、失礼しました。この方は加正寺崇さんです」


「あ、そう。僕は加正寺崇。次期当主だよ」


 むふふん、とその時は誇らしげに話しニタニタする。


「僕は咲楽紫千玲央です……よろしくお願いします」


「君、当主じゃないよね」


「はい、今は父が当主です」


「玲央先輩のお父様の雄剣様も大変なお仕事をされておりますが

 玲央先輩が実質当主のようなものですよ!

 ご家庭で違うのは当然です」


 咲楽紫千家としては、今は雄剣が名前を登録している。

 次期当主は兄の剣一と話し合い決めなさいと言われているが剣一には以前に、麗音愛が当主のようなものだ言われていた。

 麗音愛も当主という名前には興味はないが、椿との交際を考えると当主になるべきなのかと最近は考えている。

 が、まだ父には伝えてはいない。


「だ、だけど、僕、戦うなんてさぁ……無理だし、痛いのイヤだし」


「私も数ヶ月前まではそうだったんですよ」


 見た目からして、中年には間違いないのに態度はまるで幼子だ。


「でも琴音ふぃ~んっち……」


「琴音ふぃ~んっち……??」


 突然の謎の呼び名に麗音愛はつい、声を出してしまった。


「琴音ちゃんって、ミラクル過激殺戮少女のアーリフィーンっちに、似てるよね!? 似てるよね!?

 琴音ふぃ~んっちって呼んでるんだ。僕」


「え? あ、あ~」


 ミラカゲと呼ばれている大人向け大人気美少女アニメだな。と麗音愛は思う。

 西野に聞いた事がある。


「知ってるぅ?」


「あ、はい少し」


 琴音は、うんざりしたような顔をしたが麗音愛と目が合うと慌ててニッコリと微笑んだ。


「さ、咲楽紫千家の次男って、かなりヤバイ奴だって思ってたけど

 け、結構、話せるガキじゃん」


「ガ、ガキ」


 目の前の大人にガキと言われ、麗音愛は驚いてしまう。

 今まで会った大人のなかで誰よりもこの崇が『ヤバイ奴だ』


「ちょっと……玲央先輩に失礼な事を言わないでください……」


 琴音は黄蝶露を具現化し、帯刀していたがそれを抜かんとばかりに殺気を放つ。

 生命として、そこに存在していればその殺気は警笛を鳴らすレベルだろう。

 崇はヒィと声を漏らし、怯えた。


「これから立ち会いの元、同化継承の実験があるんですよ。

 同化できれば、すぐにでも妖魔を殲滅する闘いに出なければ」


「加正寺さん……そんなに急がなくても」


 この怯えた男は、同化できたとしても闘えるのか?

 誰でもそう思うだろう。


「『明けのない夜に』の話は聞いてますよね?

 当主が同化しながら、自分達だけ安全な場所にいる時代は終わったのです」


「ひぃ……」


「闘わざる者に力をもたせる必要はありません。

 アーリフィーンっち? も闘ってるんでしょう。さぁ時間です。実験闘技場2番に行っててください!」


 尻を蹴らんとばかりに、琴音が言うとまたヒィと呻いてドタドタと重たい身体を揺らして歩いて行った。

 その姿を見て、あれが琴音の愛する婚約者、自分は前に好きだと言われた男。

 何か共通点があるんだろうか……とドンヨリと考えてしまう。


 何故か、琴音は麗音愛の前に留まったままだ。


「……行かないの?」


「玲央先輩には知っていてほしくて……」


 哀しく揺れながらも訴えるような瞳で、ジリ……と琴音は麗音愛を見つめる。

 無機質な研究所の廊下、崇の姿は見えなくなり2人きりになった。



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― 新着の感想 ―
[一言] おのれ琴音またもや(#^ω^)ピキピキ 絶対あれだけじゃ終わる気ないんだろうなーと思ってたら! 何故か紅夜会のほうが良い集団かなみたいに思えてきてしまう不思議( ˘ω˘ ) 悪女や~~
2021/06/20 19:50 退会済み
管理
[一言] 琴音が自分の家の投手のことが好きなわけはないと思っていたけれど……やっぱりね。 余計なことを麗音愛にいいそうな雰囲気に辟易してしまう。 何を考えているのか分からないと言うより、麗音愛を手に入…
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