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『明けの無い夜に』

 

 麗音愛の携帯電話から流れ出した動画の音楽。

 その伴奏には確かに、哀響の笛の音が使われていた。


「何故、哀響が!?」


 明橙夜明集の1つ『哀響』

 姿は横笛。

 その音色で本来は、敵の妖魔を混乱させたり味方の力を上げたりと補助的な武器だったが

 紅夜会はそれを奪い、麗音愛の呪怨を暴走させる使い方をした。

 呪怨が暴走した麗音愛は喰われ、椿はその呪怨の牙に腹を撃ち抜かれた過去がある。


 それがあって麗音愛は修行に励み、強い呪怨の統制力を手に入れたのだ。


「くっ!」


 まさか、動画配信の音色に呪怨が影響するとは!!

 一瞬でマンションを覆っている呪怨の結界が大きく歪んだ。


 しかし麗音愛も統制力を大幅にあげた。


「言う事を聞け!!」


 動画は一時停止をすぐに押し、呪怨を統制する。

 何箇所か喰い付かれ血が流れたが、すぐに回復が追いつき血は止まった。


 これは自分を攻撃している――。


 それはすぐにわかった。

 椿からの着信だ。


『麗音愛?? 何かあった?? 今、なにか……呪怨が……』


「……あぁ……椿、ごめん。あとでしっかり説明するから待っていて。

 友達から何かURLが回ってきても、動画配信は見ないで」


 そう言っているそばから、椿フレンズとカッツー達と前に作ったPLINグループトークにも

 あの動画のURLが載せられワイワイと盛り上がり始めた。


『麗音愛大丈夫!?』


「うん、待っていて。母さん達に報告したらそちらにも行くよ

 鹿義達は、まだいないの?」


『さっき帰ってきたよ』


「よかった、2人のそばにいるんだよ」


『うん、わかった』


 疲れて帰宅しただろう直美が、笑う声が聞こえてきた。

 それを中断させるのは胸が痛んだが、麗音愛は白夜団団長に報告すべくリビングへ向かう。


 クリスマスソングが流れる聖夜の影に

 不協和音の歌が響く――。


 ◇◇◇


「配信元はもう、この動画を削除しているのですが

 拡散力が凄まじいですね」


 クリスマスイブから数日経った12月26日。

 白夜団本部(旧・加正寺家別荘)には

 団長の直美、麗音愛、椿、剣一が集められ今回の調査をした雪春が説明を皆にしていた。


「とりあえず、この哀響を使った歌『明けの無い夜に』の製作者は不明、配信元も特定できず」


「色んな術式が混ざっている……歌詞だけでも歌えば、結果的に術になる……それも呪詛側の」


 椿は歌詞カードを見てそう言う。

 浄化結界の中に入れられたモニターに映像は流れている。

 音を消したままでの映像も術が散りばめられているらしい。


 確かに麗音愛には見ても聴いても、呪怨は暴れ突き刺さるような不快感を感じる。


「放送停止措置がまた話題を呼んで、どんどん拡散かぁ

 幼稚園児まで歌いだすぞ、このままじゃ……」


「剣一……特務部長や、絡繰門さん、桃純さんは影響は?」


「俺は不快ではあるけど、流せる範囲かな~」

「私もです」

「はい! 私も今のところは……」


 剣一に続き、雪春も椿も答える。


「ただ、玲央君は呪怨に影響があるだろうね」


「俺も平気です。

 この程度で呪怨を暴走させる事はもうないですから」


 はっきり言っておかなければ。また椿から離されたくはない。


「そうは言っても……周りで友達が聴いてる状態が続くのも辛いよな」


「冬休みで良かった……」


 心配そうに、椿が麗音愛を見る。

 皆の前だが、安心させるように微笑んでみせた。


「これからの大晦日、正月に向けての国内の人の移動。

 この曲を聴いて妖魔が活発化する恐れがあると研究課から言われているので……

 事故防止に努めましょう」


 もちろんこの曲が有害な事は、国に対しても伝えてはいるが

 剣一が言ったように、インターネット上では

 『封印された激ヤバ曲』『国を破滅させる曲!?』『終局PV』

 など抑える事のできない状況にわずか数日でなってしまった。


 ただでさえ、最近の『世紀末』のような雰囲気を表すような曲として若者達の心を掴んでしまったようだ。


 直美が、会議の自動録音を止めた。

 もう、今までのようにうるさい老人共は聴く余裕もないだろうが一応は続けている。


「少しずつでも、このブームを終わらせるしかないわね」


「こんな攻撃を紅夜会がしてくるなんて……」


 ため息をつく直美の前で、椿が顔をしかめる。


「時代が変化し、攻撃も多様化しているね」


「なんにせよ、玲央、お前への攻撃という事は明らかだ。

 これから用心しないとな」


「わかってる」


 麗音愛的には、わかっていれば脅威ではない。

 だがこれからこの曲が、どんな影響を及ぼしていくかわからない不安はある。

 この後は、研究課に連れて行かれ音量や多方向から等データを集められるらしい。

 腕時計を見れば、18時。


「年末年始もありますが、これからも白夜団として、どうか力をお貸しください」


 直美が頭を下げるように言う。


「も、もちろんです……私こそ……すみません」


「椿ちゃんが謝る事何もないぞ」


「そうです、何百年も続いている闘いだといつも言っているでしょう

 椿さんは何も関係ないんですよ」


 年上2人に先を越され、麗音愛は少し悔しく思う。


「そうよ、皆さんの言うとおりです。

 椿ちゃんは桃純家の故郷に帰省……するのかしら?」


「あ、いえ。少し考えはしたのですが、やっぱり帰らない事に」


 一度、帰郷を考えていた椿だったが麗音愛が止めた。

 自分は着いてはいけないだろう。

 もし雪春が自分が行くと言い出したら2人での旅行なんて心配だし嫉妬する。

 と素直に伝えたら、椿は頷いてくれたのだ。


「そう……さすがに、この状況での帰省は少し不安があったから……。

 鹿義さん達は帰省だものね。逆に東支部でなにかあれば頼むつもり。

 ゆっくり過ごせるかわからないけど、年末年始はうちへいらっしゃいね。

 おせち料理なんかは頼んであるから」


「椿ちゃんのいる大晦日に正月に楽しみだなー!」


 そうは言っても、このままでは咲楽紫千家の人間もどれだけ家で過ごせるかわからない。


「私……お邪魔では……」


「おいでよ、椿がいたら楽しいよ」


 麗音愛的には大晦日から椿が家に来てくれるのは

 とても、かなり嬉しいことだ。


「この前まで、一緒にご飯食べていたじゃないの、遠慮する事ないのよ

 あ、すみません……絡繰門さんの前でお正月の話なんて……」


 直美が、雪春に謝ったが雪春はすぐ首を横に振る。


「いえ、絡繰門家の事ですから。何もお気遣いなく」


 雪春は笑って見せる。

 突然の絡繰門前当主の惨殺に相当な混乱があるかと思えば、特に混乱はなかった。

 雪春が地道に家のなかで築き上げてきた人脈あってこそだろうか。


「素敵な大晦日とお正月を過ごしてください椿さん。

 君達が出動する事のないようにしたいところです、ね。特務部長」


「え~俺も出動したくないぃいいい」


 グダグダと暴れる剣一の制服は、自分で改造したのかマントまで羽織ってる。


「じゃあ、玲央君は研究所の方へ……椿さんは

 剣一君が送ってくれるのかな」


「あの……私、舞意杖を使って街を空から眺めたいんです。

 麗音愛……(くん)に連れてってもらってもいいですか。少しだけ」


「空を?」


 その椿の言葉に驚いたのは、麗音愛以外全員だった。

 此処に来る前に、椿から相談をされていたのだ。


「舞意杖は、人の心の灯火や闇がわかる気がして……

 この歌が与えている影響を知りたいんです」


 そんなものは、こっそり2人で見てみようと麗音愛は言ったが

 椿はしっかり団長の許可の元で見たいと言った――。


「人の心の灯火……。そう……えぇわかったわ。許可します」


 まるで椿の言葉を、懐かしむように直美は考え許可を出した。



いつもありがとうございます!


クリスマスが終わってしまいました。

これから、また闘いも始まります!


皆様のブクマ、評価、感想、レビューが励みになっております!

是非お願い致します(#^.^#)

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― 新着の感想 ―
[良い点] ここのアイディアはなかなかいいですね…… でも、どうやって収拾をつけるのか……
[良い点] ビストロ・ノクターンとのコラボ良かった! お店が自然な感じで作中に登場してた〜 多少無理なお願いでも聞いてくれそうなの分かる〜 クリスマスデート無事に終わってホッ(*´◒`*) しかし。…
[一言] 紅夜会の攻撃が始まりましたね。 戦い方が複雑になってきましたが、白夜団は老人たちがいなくなって動きやすくなったとはいえ、対抗手段はあるのでしょうか? 麗音愛に対して一点攻撃してくるとは思わ…
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