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メリクリ不協和音


 遊園地の観覧車、椿を後ろから抱きしめて想いを伝え合う幸せな時間。

 椿の頬を幸せの涙が伝う。


「大好き……麗音愛」


「ありがとう、俺は幸せだよ」


「私も……一緒にいてくれてありがとう」


 涙を拭うようにして、椿の頬に口づけると

 椿が麗音愛の方を向いたので唇を寄せ合い、キスをした。


 少し唇が離れたが、またつい口付けてしまう。


「ん……れ、麗音愛……」


「ごめん……びっくりさせたね」


「う、ううん」


 つい、熱い想いが湧き上がってしまった。

 地上が近づいてきて、冷静になるように息を吐く。


「も、もうすぐ着くね」


「う、うん」


 急に照れて、2人ではにかんで。でも手は握ったまま。

 降りていく少しの時間、外を見つめた。

 小さな遊園地の、小さな観覧車とは思えない幸福感に包まれる。


「乗り物全部乗ろう!」


「うん! 乗りたい!」


 転びそうになった時は、しっかり手を握って麗音愛が支えて

 ずっと笑顔で遊び尽くした。

 閉館はいつもより長く22時。


 新しい腕時計を見て椿が驚く。


「わ! どうしよう門限が……」


「実際、龍之介達も羽目外しまくってどうせ今日もオールだろうに……」


「うん……でも、おじいさまはお家にいるし

 おばさま達も、今日はクリスマスでお二人共もう帰ってるかも……麗音愛が遅くて、もしバレたら……」


「……バレてもさ、大丈夫だよ。身分差気にしてるだけなんだし、今時そんなの古い」


「……うん……」


 椿としては、多分そうは思えないんだろう。

 不安そうな顔をする。


「じゃあ人気のないとこまで歩いてそこから飛んで帰ろうか」


「うん」


 楽しい時間はあっという間。

 思い出にしたいと、椿は最後に昔風の遊園地のキャラキーホルダーを欲しがったので買ってあげた。

 麗音愛が椿を抱いて、飛び立つ。

 


 ◇◇◇


 同じ頃、麗音愛の父・雄剣が本部から直美を乗せ車で走っていた。


「遊園地のイルミネーションを車からでも見るかい」


「クリスマス……だものね……」


 笑顔で帰路につく人達を、直美はまるで別世界の住人のように助手席から見つめる。


「家族でのクリスマスが遠く感じるわね……」


「そうだね、あっという間に大きくなって、恋人と過ごすようになったか……」


「そうね」


 ふとイルミネーションの奥に、何か羽ばたくような影が見えた。


「……黒い……天使……?」


 いえ、ただのカラス……そう直美は首を振った。


 ◇◇◇


「寒かった?」


「平気! ありがとう」


 そっと、椿をベランダにおろす。

 さっき待ち合わせて会ったばかりなのに、もう別れの時間。

 本当はこのまま、連れ去って朝まで一緒に……。

 ドクンと心臓が変な音を立てて、慌てて煩悩を払う。


「麗音愛……今日は、ありがとう

 本当に、本当に幸せでした」


「椿が喜んでくれて俺もすごく嬉しかったし

 すごく幸せだったよ」


「うん……」


 ぎゅっとコートの裾を握られる。

 最近、椿が口には出せない想いがわかるようになってきた。

 少し周りを見回したあとで、愛しい恋人を抱きしめた。


 あったかい……2人から白い息が漏れる。


 何度目でも、じわりと心に広がる幸福感。

 でも、これで今日はお別れと思うと寂しくて切なくて――。


 このまま椿の部屋でまた2人で……。

 でもそんな事をしたら、きっと冷静じゃいられない。

 溢れ出てくる煩悩を打ち消していく。


 椿はどこまで、わかってるのだろうか。

 自分が抱いている、この欲望を。

 その瞳は何も疑っていない、純真無垢な輝き。


「麗音愛……」


 今キスしてしまったらまずい……と思い椿のおでこにキスをする。


「おでこへのキスは愛しい人っていう意味なんだって」


「そうなの?」


 椿がまた変に不安にならないように、伝える。

 本当はあまり意味はわかっていない。


「じゃあ私も」


「え」


 随分背の違いがあるので、麗音愛はしゃがみこむ。

 ちゅ……とおでこに椿がキスをしてくれた。

 まるで子供になったような気分。


「……大好き」


「うん。大好き」


「……今日、また電話してもいい?」


「うん、眠くなるまでしよう」


「うん……!」


 こんなにも幸せな気持ちを世の中の恋人達は味わっているのか。

 と思うくらい幸せな1日。

 最後、またねだるような目で見られたので

 軽く口付けてクラクラしながら麗音愛は自分の家へ戻った。


 部屋に入る前に、そこから見える街を眺める。

 何事もないように静かな街。

 今日のこのクリスマス・イブに何事も起きなかったのは奇跡なのか。


 一応、梨里には一緒にいる事にしておいてもらっているが一体どこへいるのやら。

 シャワーを浴びて出ると、直美と雄剣が2人リビングにいた。


「あ、お、おかえり」


「メリークリスマス。玲央君、ケーキあるわよ」


「あ~、お腹いっぱいなんだ」


「楽しかったか? お前は真面目だな。きちんと門限を守って」


「あなた、門限は守るのが当たり前なんです!

 鹿義さんに何をあげたの……?プレゼント交換したんでしょ?」


「え!? えっと……」


 まさか、そんな質問をされると思っていなかった。

 何か適当に言っても、現物を見せろと梨里に言われても困る。

 瞬時に頭を働かせた。


「なに?」


「……アムゾンギフト券」


「えぇ……」


「い、1番いいってさ! 喜んでたよ」


 かなり落胆した眼差しを麗音愛に向ける直美。


「いや、今の若い子はそうなのかもな」


「あはは、そうそう!!」


 なんとなく、佐伯ヶ原に感謝した。


「遊園地なんて……行ってないわよね?」


「遊園地!? まさか、そんなとこ鹿義は喜ばないよ」


 咄嗟に出た嘘だが、多分当たってる。


「……そう、そうよね。

 たまに家族ででも行ったわね、あそこのイルミネーション通ってきたの

 カップルいっぱいいたわよ」


「え!? あ、そうだったんだ!!

 あそこね~全然最近行ってない、若い人行くかな?」


 バレてもいいと思ってはいるが、急な言葉にまた焦ってしまう。


「母さんと父さんは、よく行ったわよ。若い頃」


「そうだな……3人で……」


「3人……?」


 急に雄剣から出た違和感のある言葉に麗音愛は反応してしまう。


「い、イヤね! あなた! 誰の事よ」


「あぁ、ごめんごめん、父さんの学友さ、ハハ。さぁ母さん、ワインでも飲もう」


「じゃあ、俺、部屋に戻る。任務もあって疲れてるから、おやすみ」


「今日もありがとう、お疲れ様」


 まぁそんな両親との会話など、すぐ忘れ部屋に戻るとすぐ携帯電話を見る。

 椿からのメールかと思ったが見覚えのないメールアドレス、そこに1つのURL。


『タスケテ』の文字も書かれていた。


「……なんだ」


 かなり怪しい。詐欺メールだろうか。

 とりあえず、暇な時にでも詐欺メール情報でも調べてみるかとそのメールは閉じた。

 

 すると今度はPLINだ。いつものメンバーでのグループトーク。


「カッツーか……」


『メリークリスマス!! 幸せになれよ!! なんて誰が言うか世紀末ぅ!!! 滅びよ!!』


 そんなメッセージとURL。どうやら動画配信サイトらしい。


『カッツーやめろよ、玲央も石田もまだ色々やってるかもしれないだろー

 というか、俺もそれ見たぞー!! 不気味さもあるけど結構いい歌じゃね?

 流行りそうだ』


「色々やってるって……」


 苦笑しながら、また動画配信で歌が流行るのかと麗音愛もURLを踏んだ。

 アニメなのか3Dなのか、麗音愛にはわからないが

 可愛い女の子と男の子が踊りながら曲が流れ始める。


「……!?」


 その瞬間に、麗音愛の呪怨が暴れだす。


「哀響……の音色……!?」


 その音色は、以前紅夜会のヴィフォが奏でた明橙夜明集の笛『哀響』の音色だった。



いつもありがとうございます!


そろそろ平和も終わりでしょうか。

いつも皆様のブクマ、評価(下部の星です)、感想、レビューに励まされております!

続きが読みたいと思ってくださいましたら是非お願いします!!





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― 新着の感想 ―
[良い点] 麗音愛めちゃくちゃ素直になったね! よかった!ちゃんと言えるようになって本当によかったよ〜 このまま平和な日々を過ごしてほしいぜ…ウッ(´;ω;`)
[一言] まさかの両親とのニアミス! 先に帰って良かったよ!麗音愛! 三人でよく行ったというのは、きっと椿の母親のことですよね。 彼女との付き合いは深いとすれば、色々と見えてくるものがあると思うので…
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