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残酷なクリスマスメッセージ ◇挿絵あり

 

 夜、雪の舞うなか、にこにこと焼き芋を抱えて椿が家路を急いでいる。

 冬休みを前に、久しぶりに友達とモールに長居した。

 初めて遭遇した焼き芋屋さんで嬉しくて買ってしまったのだ。


 麗音愛は今日も帰りが遅い。

 温めなおし方も聞いたので、剣五郎がいる咲楽紫千家にも届けようと思っている。


「わぁ、雪が積もってる」


 ムートンブーツで、雪を踏みしめながらザクザクと歩く。

 たまに足跡をつけてみたりして、1人で雪を楽しむ。


 明日は終業式でその後佐伯ヶ原のアトリエで白高メンバーでのクリスマスパーティー。

 その3日後はクリスマス・イブ。

 日中は任務が入ってしまったが、夜は2人で……。


 忙しい日でも、メールや電話をする事に決めた。

 寝る前には必ず声が聞ける。

 今日もその事を思うと、にやけてしまい腕の中にある温かい焼き芋をまた優しく抱きながら

 暗い路地を歩いた。


 何度も麗音愛と通った道。

 そこに……違和のある、影が立つ。


 一瞬にして、椿は緋那鳥を構える。


「……いい御身分だね……」


「……天海紗妃……」


 紗妃はまるで、女子高生のように茶色いブレザーを着て赤いチェックのスカートを履いていた。

 ポニーテールにハイソックス。

 ただ、この寒さには軽装過ぎる姿だ。

 だが凍える様子もなく平然としている。


 椿はカバンを雪の上に置いて、温かい焼き芋をその上に置き紗妃へと向き直した。


「浮かれやがって、何がクリスマスだ」


「……私もあの家から出て初めて知ったよ……」


「嘘ばかりつくな!」


 紗妃は椿が、秋穂名家で優遇されて生きてきたと信じ込み

 不遇の対応をされ続けてきた事を椿のせいだと強く憎んでいる。


「何をしに来たの?」


 無関係の人間を巻き込みたくない。

 巻き込むなと言えば、逆に紗妃は椿を苦しめるために周りを傷つけそうだ。


 しかし、生き返ったとは聞いたが本当にそうだとは……。

 あの時に絶命したと思った。

 麗音愛に人殺しをさせたと、悔やんでいた。


 黙って睨み続ける紗妃に、椿はまた口を開く。


「今度は必ず、私があなたを殺す」


「……なんだって」


「私はあの屋敷で、優遇なんてされてない。

 あそこであなたを虐げていたのは、秋穂名家の人間で私は関係ない」


「お前……」


「それを信じないで、私を殺そうとするのなら

 私も、あなたを殺す。次は躊躇しない。私はあなたに殺されてなんて、あげない……!」


 椿が手を翻すと、緋那鳥ではなく槍鏡翠湖(そうきょうすいこ)が握られた。

 紗妃の武器は鎌だ。

 槍の槍鏡翠湖で相手をする。


「はん……お前は殺さない」


「え……?」


「紅夜様がお前を犯し尽くすのを見て楽しむさ」


 口を開くと、蛇のように舌を出した。

 それを見て紅夜を思い出しゾッとする。


「……やめて……」


「お前が嫌がり、恐怖し、泣き叫ぶのを見るのが楽しみだ」


「私を紅夜の元に連れて行くために、来たの?」


 かき消すように強い風が吹いて、雪が舞った。

 それでも、目は瞑らない。

 紗妃を見つめていると、そっと口が開いた。


「……娘が、愛を知った事を喜ばしく思う……」


「え?」


「想い人と愛を重ねる喜びを知った事を嬉しく思う……」


「なに……?」


「人間の聖夜という輝く時を愛する男と過ごし、また愛を育むといい……

 我が娘、寵……」


 それが紅夜からの伝言だと気付くと、椿の足が震えた。

 それが単純に父親の愛だと思うわけがない。


「……更に美しくなり、お前が私の花嫁になる日を楽しみにしている……」


 麗音愛と好き合った事を知って、それでも自分を……。

 寒気と吐き気が襲う。


「これが、伝言。くくく……あはは

 メリークリスマス、(めぐむ)


 そう言うと、紗妃はまた暗闇に消えていく。

 顔は満足気で、喜びに満ちていた。

 パシャパシャとフラッシュが光り椿を写真に撮ると

 最後にはしゃいだ子供のような笑い声が聞こえ消えていく。


 ザクッと槍鏡翠湖を雪に突き刺し身体を支えたが

 それでもペチャンと座り込んでしまう。

 冷たい雪でスカートが濡れて、立ち上がろうとしてまた転んだ。


 まだ温かい焼き芋を抱え、椿は家へと歩いていく。

 堪えても、涙が溢れてくる。

 拭った頬に冷たい風が当たり、冷えて痛んだ。


 ◇◇◇


「メリークリスマス~~!!」


 佐伯ヶ原のアトリエで、またいつものメンバーが集まる。


「お前ら少し静かにしろ! バレたらまずいんだから」


 いつの間にか、パーティー仕様になっているアトリエを見回す龍之介。

 机の上にはクリスマスの紙皿や紙コップも並び、クリスマスの飾りもある。


「なんだかんだ、やる気じゃんアモ~~ン」


「勝手に図書部長が来て、勝手に毎日準備してやがったんだよ」


「いつもの汚いアトリエじゃケーキを置く場所もないじゃない」


「あれはなぁ計算しつくされた俺の資料なんだよ……!」


 ぎゃあぎゃあと一層うるさい佐伯ヶ原を見て

 麗音愛は横にいる椿を見た。


「……椿、大丈夫?」


「え? うん大丈夫だよ」


「やっぱりなんだか少し元気ないよ」


 昨日の夜中の電話で麗音愛は椿の声のトーンが少し暗いと思い、何かあったか聞いたが

 椿は紗妃に言われた事など伝えられず言葉を濁した。

 今日も笑顔は見えるのだが、ふとした時の表情が気になる。


「大丈夫だよ~!!」


「本当に?」


「うん!」


「姫こっち~着替えるよー!!」


 梨里が用意したというサンタコスを着替えに、パーテーションの中に行く椿。

 何か紅夜会から接触があったんだろうか……と麗音愛は思う。

 この幸せな時期に、椿を苦しめようとする可能性は多いにある。


「え!? これがサンタさんなの!?」


 前のように手紙で、それとも、電話……?


「は、恥ずかしいよ~~!」


 まさか紅夜会が直接会いに誰かが来たのか……。


「こ、こんな短いの、着れないよぉ! 肩まで……!? キャー」


 一体どんなサンタコスなんだ。


 つい、意識がそっちにいってしまう。

 とりあえず、今日のパーティーの後。

 また明後日のクリスマスの時にしっかり話をしよう。


 結局、椿は梨里に無理やりひん剥かれ着替えさせられているようだ。

 しかし時たま笑い声も聞こえ、椿のセーラー服がパーテーションから飛び出してきて麗音愛と龍之介は目を見開く。

 佐伯ヶ原が『やれやれ』と拾って畳んだ。


「今から出るから~バカ龍、クリスマスソングかけて~」


「あぁ!? カメラ使えなくなるだろうが……」


 ぶつぶつ言いながらも、携帯電話でクリスマスソングを検索し流し始める……。

 それと同時に、女子3人が出てきた。


「じゃあ~~~ん!」


「ちょ、ちょっと恥ずかしい……」


 椿がおずぞずと現れた。

  

 梨里が椿に選んだサンタコスは肩出しのミニスカワンピだ。

 恥ずかしそうに出てきた椿はサンタ帽をかぶり、華奢な肩が出て短いスカートは

 フレアになっていて跳ねれば下着が見えそうだ。


挿絵(By みてみん)


 確かにサンタっぽくはあるが、こんな高校生男子に刺激的なサンタはいない。


 梨里はもっと露出度の高いビスチェタイプ。

 もう水着のような肌に密着したタイトなミニスカワンピだ。

 美子は自分で選んだらしく、半袖のふんわりしたワンピース。

 2人とも自分のイメージを損なわない格好。


 一気にクリスマスムードが高まった。


挿絵(By みてみん)


「ほらぁ、なんか言う事ないわけぇ?」


 麗音愛の前に椿を、ぐいっと梨里が配置した。


「あ、えっと……」


 頬や肩にパールのパウダーを塗られたのか、キラキラと輝いている。

 恥ずかしそうに、椿がうつむく。

 華奢な綺麗な鎖骨にドキリとした。


「あの……メリークリスマス……麗音愛……」


「メリークリスマス……椿。えっと……可愛い」


「えっ」


「可愛いです」


「ひゃ~」


 恥ずかしさが極まって、椿が変な叫び声をあげる。

 麗音愛も相当恥ずかしいが、浴衣の時の二の舞にはならないようにと決めていたのだ。


「姫、可愛いです!! 頂きましたぁ!!!」


 梨里が椿に抱きつき、龍之介がシャンメリーを急に開けワイワイとパーティーが始まった。

 麗音愛も頭にサンタ帽をかぶせられ、佐伯ヶ原はニヨニヨと頬を染めている。


 椿もとりあえず、何もなかったように楽しそうに笑っているので麗音愛も安心し乾杯をした。


「はい、椿ちゃんはチョコケーキね」


「ありがとう! 美味しそう~~!」


 美子が用意してくれたケーキが配られた。

 なんだかんだ任務で忙しい皆の代わりに色々と準備してくれていたようだ。


「でも、提案した人が来られないなんてね」


 そう、パーティーを提案した琴音はパーティーには来なかった。

 加正寺家当主が亡くなったからだった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] いやーん 椿サンタかわいい~ りりちゃんと美子ちゃんの絵もあってうれしい(´∀`*) 2人とも豊かですね(どことは言わない) 一方、琴音たゃそはどうなってしまうんだ…:( ´ω` ):
[一言] 椿のコスチュームが可愛いです! 成る程……三者三様のサンタコス!確かに性格を表してもいるような♪(๑ᴖ◡ᴖ๑)♪ 紅夜のメッセージは、麗音愛の心を逆撫でする感じですよね。 確かにこれは麗音…
[良い点] 琴音への期待がいやがうえにでも高まる!
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