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咲楽紫千家のご夕食

 

「ええ!? 母さん大丈夫なの!?」


「まぁ……もう言ってしまった事だもの」


 直美はピザを頬張り、ワインをグイッと飲み干す。


 モールでクリスマスプレゼントを選んでいたところに急に両親からの電話。

 椿と一緒にいる事を伝えると、夕飯を家で食べないかと誘われた。

 家に帰ればピザやサラダやジュース、ワインが用意され

 まるでパーティーのようで何かの祝いかと思ったが事の顛末を聞いて、麗音愛は驚きを隠せなかった。


「もう、あとはどうにでもなるわぁ~」


 少し自嘲気味ではあるが、実際に組織内でも何もしない老害達への不満は溜まっていた面もある。

 それは、今まで罰姫と呼ばれていた娘が桃純家当主になり

 自らも前線に立って健気に闘う場面を見た者が増えた事も関係していた。


「それにしても鹿義さんが来られなかったのは残念ね。

 クリスマス前だっていうのに、彼女と一緒にいないだなんて大丈夫?」


 直美は、もちろん梨里と龍之介も誘ったのだが

 2人はそれぞれいつもの取り巻きと羽目を外しに行ったようで、この夕食会には来られなかった。


 テーブルには、雄剣が買ってきた小さなクリスマスツリーが輝いている。


「いや……えっと……大丈夫」


 彼女ではない、と喉から出かかるが椿との交際がバレないように考えた手だ。

 隣の椿も、ヒヤヒヤしているのがわかる。


「椿ちゃんも、沢山男の子に誘われるでしょう? ダンスパーティーの時なんてすごかったんじゃない?」


「えっ……あ……全然です」


 2人の脳裏にダンスパーティーでの事が浮かぶ。

 そして、昨日のキス。今日握った手。

 嘘をつくのは苦手な2人だ。変にハラハラしてしまう。


「母さん、そういうのもセクハラだって」


「もう、なぁに~玲央、あなたも椿ちゃんの幸せに協力しないと

 自分だけ恋人つくって」


「だから~……父さんもなんか言ってよ」


「直美、自分でもおばさん趣味だと言ってただろう。椿ちゃんも困っているよ」


「あなたまで~! でもそうね、余計な心配をごめんなさいね」


「いえ、ありがとうございます。心配してもらって……」


「何か恋の相談があったらいつでも言って」


 にっこり微笑まれ、椿の心がチクリ痛む。


「ほら、椿ちゃん、こっちのピザも美味しいから食べなさい」


「は、はい」


 雄剣が自分の方にあったシーフードピザを椿に寄越した。

 まだ剣一がいれば、盛り上がった話ができたかもしれないが、

 あいにく仕事で祖父の剣五郎もいなかった。


 椿もこの4人での食事は初めてで、ピザという軽い食事ではあるが

 隠れてお付き合いをしている相手の両親との対面は、落ち着かない。

 が努めて笑顔でピザを頬ばった。


「せっかくだから、あのワインも開けようか」


「いいの~? 嬉しいわ」


 優しい雄剣に甘えたようにほろ酔いの直美が微笑む。

 いつも白夜団にいる時のような張り詰めた雰囲気の団長とは別人のように見える。

 大変な失態を犯したともいえる1日だが、直美的にはスッキリした想いのほうが大きいのかもしれない。

 そんな直美を見て、雄剣も微笑み返す。


 まるでホームドラマのような2人に椿は見惚れた。


「……素敵な御夫婦ですね」


「えっ?」


「あ、す、すみません。仲が良くて、素敵だなって……」


 椿はもちろん両親が揃って仲良くしてる姿など、咲楽紫千家に来て初めて見たのだ。

 屋敷の秋穂名家の老夫婦はいつも罵り合い、そのとばっちりをよく受けた。


 咲楽紫千夫妻は純粋に、憧れてしまう理想の夫婦に見える。


「ふふ、ありがとう~雄剣さんのおかげなのよ……」


 台所に行った雄剣を遠く見つめるようにして直美は言う。

 確かに雄剣は、穏やかで優しく直美のサポートをしているようだ。

 椿も雄剣を見てからふっと前を見ると、直美が椿を見つめていた。


 急に目が合ってドキリとする椿だったが、その瞳。

 憎んだり畏怖の瞳ではない。

 深い……瞳。

 だが自分を見ているわけではない、そう椿は察した。


 その瞳をする人は、自分の中の母を見ている。


 白夜団を統括する桃純家当主でありながら

 紅夜の子を宿し、産み、追放され、目の前で自害した美しい母、桃純篝。


 それに似ている椿の奥の篝の姿を、直美は見ている――。


「どうしたの?」


 見つめ合う2人に麗音愛が声をかけた。


「あ、いいえ! なんでもないのよ」


 弾かれて魂が戻ったかのように、直美は笑う。


「母さん、疲れてるんだよ」


「そうだろうね。玲央も椿ちゃんも任務ばかりですまないな」


「父さんが謝る事じゃないよ……。

 父さんの方は、どうなの? 新しい協力者見つかった?」


 雄剣は特殊文化財保護管理部の部長だ。

 特殊文化財、つまり明橙夜明集の管理や今では白夜団から離れている一族に

 また協力を求めたりと白夜団の団員の調整などをおこなっている。


 紅夜が復活して闘いが激化してきた今、逃げ出す一族も多いのだ。


「浄化班なら……という方は数名。

 特務、戦闘に加わりたい人など……いないね、もう」


 空けたワインと新しいグラスを持って、雄剣がまた座った。


「だから加正寺琴音さんには本当に感謝しているのよ。

 彼女が任務をしてくれて、意識が少しあがったものね」


「それはあるね」


 元々若者の間では有名だった加正寺琴音が副当主となり

 使う者が現れなかった黄蝶露と同化継承した話は

 椿の話同様に、白夜団内では士気を高める話題になった。


「晒首千ノ刀と一緒に闘うと、すごい戦果があがるって報告書で読んだわよ」


 息子とずっと顔を合わせていなかった直美は、興味深そうに麗音愛に言う。


「え……」


 そんな話は初めて聞いた椿が、少し驚いて下を向いた。


「いや、それは彼女が勝手に……」


 慌てて麗音愛が説明しようと声を出した時、ピンポーンと呼び鈴が鳴った。

 話を聞いていただけの雄剣が応答すると、


「こんばんは」


 モニターに写っていたのは、加正寺琴音だった。




いつもありがとうございます!!

5月23日にキスの日ということで

麗音愛と椿がただイチャイチャするだけの600~800文字程度の掌編小説を

二作、短編としてアップしております。

タイトル部分のリンクでカラレスの短編に飛ぶ事ができますので

読んで頂けると嬉しいです。


皆様のブクマ、評価☆、感想、レビューを励みにしております。

気に入って頂けましたら是非お願い致します!




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― 新着の感想 ―
[一言] 白夜団の内情が少し見えて、ちょっと複雑な気持ちになってます。 確かに先頭切って戦いを好んでやるものは少ないのは理解できる。琴音が狙っていたのはこのことなのかと…… どうにも琴音には執念ばかり…
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