白夜威流神様
「おはよう! 麗音愛っ」
「おはよう」
ニコニコ顔でマンションのエントランスに現れた椿。
昨日キスをした後、薄暗い部屋で話をしていたが
抱きしめあっているうちに、危険な煩悩を払いきれなくなりそうになったので
一度着替えをした後に2人でファミレスで夕飯を食べた。
「紅夜会の事も1人でそんなに気負わないで。お願い麗音愛」
そう言われて、色々思うところはあったが頷いた。
食後にまたポテトをつまみながら
テスト勉強を軽くおさらいして、帰りも送った玄関前でキスをした。
恥じらいながら微笑む椿を見て、世界で1番幸せな気になった。
寒い冬の朝でもぴょんぴょんゴキゲンで歩く姿を見ると、自分も嬉しくなる。
学校の玄関で椿の手を握った。
少し驚いた顔をされるけど、離さない。
「手、繋ごう」
「……うん!」
なかには椿のファンで睨んでくる生徒もいるが、気にしない。
自信をもって椿の彼氏でいよう、そう決めた。
「朝からラブラブじゃーん」
椿の教室まで行くと椿フレンズにひやかされたが、照れながらも椿は嬉しそうだ。
「じゃあテスト頑張るよ」
「うん、また放課後に」
昨日の夜中に帰宅した剣一には、頭を下げて礼を言った。
剣一は笑いながら、からかってくるだけでその後任務の新しいシフト表を渡された。
兄が誰からも慕われるのがよくわかる。
いつもなら、そこでダメな自分を卑下していたが今回は感謝だけにした。
テスト最終日の今日も休みになっていた。
「って、なんでみんなも来るんだよ……」
「いいじゃーん、テスト終わって打ち上げ~」
コーヒーショップ・ムーンバックスで梨里が、フラペチーノで乾杯する。
「玲央てめぇが琴音とガンガン任務入れてる間に椿をおとす算段だったのに
なにシフト変えてんだ」
「俺は加正寺さんと入れてたわけじゃない。誰が椿を渡すか」
「れ、麗音愛」
「はっきり言わないとわかんないから、龍之介は。これからはハッキリ言う」
「バカ龍だかんねーキャハハ」
「玲央梨里てめこの!」
「こんな場所でやめて頂戴、玲央も言うようになったわね」
ホットカフェモカを飲みながら美子が笑う。
「強気なサラも最高です。今の睨み……もう1度……」
結局、白夜団の高校生メンバーでのテスト後の打ち上げ。
「小猿も死にそうな顔してたのに、今日はまたお天気娘に戻ったな」
「む、むぅ」
チョコフラペチーノと一緒に頼んだガトーショコラを口に入れた椿は呻く。
「椿ちゃん、何か心配事でもあったの?
気付いてたなら声かけてあげればいいのに」
「毎度毎度やってられっか。俺もテストと絵で忙しかったんだ」
「もう、大丈夫だから!」
「解決したの?」
「うん」
麗音愛が椿を見ると、椿もチラッと見て
お互いにキスが脳裏をよぎって頬が熱くなる。
皆が一斉に2人に注目した。
「あ、えっとあの」
「な、なんでもないよ
そ、そういえば明橙夜明集ってなんで呪いの刀とかあるんだろうなぁ
一体どうやって誰が作ったんだよって思うよね」
誤魔化すつもりでボソッとつぶやく。
「え?」
全員が驚く顔で麗音愛を見た。
「お前……知らないで……」
「玲央ぴ意外に天然?」
「座学してなかったの?」
「サラ……キュンとしました」
「……そういえば誰も麗音愛に教えてないのかも」
「……え? 知らないの俺だけ?」
全員が頷く。
「明橙夜明集は白夜団の開祖・白夜威流神様が創ったって言われているんだよ」
「ビャクヤタケルノカミサマ……」
『タケル』という名前に少し驚いた。
「玲央が昔名乗った名前ね」
「そうだね、だから母さん……あんなに怒ったのかな」
隠している白夜団の開祖の名前を急に名乗りだして焦ったのかもしれない。
自分もどうして、そんな名前にしたのか
ただカッコいいくらいの気持ちだったはず……多分。
「タケルって名乗ってた小さい頃の麗音愛に会いたかったな……」
同化剥がしの時に美子の心の中で会ったのは顔がぼやけた麗音愛だった。
麗音愛も屋敷で見た、椿の3歳の写真を思い出す。
「俺も小さい頃の椿に会いたかった」
「麗音愛……」
「うん……」
「2人の世界創ってっし~!」
「あ……悪い。つい」
「そ、それで!! 白夜神様が紅夜や妖魔を倒すために人に与えた武器と言われてるんだよ」
「そうなんだ……まぁこんな武器、人間が創れるわけはないよね。
でもどうして綺羅紫乃みたいな綺麗な刀だけじゃなく
晒首千ノ刀みたいな呪い刀なんて創ったんだろう」
「人である事の全てをもって淀み穢れの妖魔を斬る。
愛や喜びだけじゃなく、恨みや哀しみも必要な事だと……」
「まぁ言いたい事はわかるけどね」
それにしても呪い刀は貧乏クジだと思ってしまう。
「晒首千ノ刀は白夜神様の刀っていう説もあるんだよ」
「え、それを受け継いでる咲楽紫千家が没落扱いだなんて酷い話だ」
「継承者が出てこないんじゃ仕方ないよねぇ~
剣兄ですら出来なかったわけだし」
この呪い刀を兄が継承しなくて良かったと思う。
聖騎士のような兄との相性は最悪だろうし、力がついて少し感情が戻ってきている部分はあるが
それでも失っているものは多い。
毎秒ごとに喰い殺そうとしてくる呪怨と死ぬまで闘い続けなければいけない。
そんな運命を兄には背負ってほしくない。
「どうしたの?」
「あ、いや。また、詳しく知りたいな」
「うん、私の明橙夜明集禄を今度一緒に読もうね」
ふと、屋敷での事を思い出す。
神話のように語られる人間と敵対する妖魔王・紅夜
それが自分の父親だと言われる気持ちはどんな辛さだろうか。
この自分の中に眠る刀で、その因縁を断ちたい。
「お前んとこって父ちゃんが婿養子なの? 母ちゃんが団長でさ」
「ん? いや、違うよ。母さんが団長をやっているのは父さんが動き回れた方がいいからって……。
社長の奥さんが事務仕事してるみたいな感じって言ってたよ」
「なるほどな、一族同士の干渉とかしないからな
梨里んとこくらいしか内情知らね」
「まぁ……俺も家族の事だけどずっと知らなかったし
最近ますます会えてないしな」
それでも、今は椿との交際もあってそれほど会いたいとも思っていないのだ。
酷い息子だと自覚はしている。
「あ~この前、団長に玲央ぴとの事聞かれたから
順調ちゅっちゅしてまーすって言っておいたよ」
「言い過ぎだっ!」
椿を見ると、気にしていないように微笑む。
でも、きっと気にしてる。
「必ず紅夜を滅ぼして、みんなに認めてもらう」
「……麗音愛……うん」
テーブルの下で、椿の手を握った。
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れおつばのキス回(前話
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