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触れる唇  ◇

 

 強く抱きしめてくる椿を、包むように抱きしめ頭を撫でた。

 ホッとしたように椿の身体から力が抜ける。


「……椿に釣り合う男にならないとって焦ってた」


「私は……今の麗音愛が好きなんだよ」


「うん……ありがとう……」


「やっぱり付き合った事を後悔してるのかなって思ってた

 2人きりにもなりたくないのかなって……」


 思いも寄らない言葉に、麗音愛はギョッとする。


「ま、まさか! 逆だよ!!

 後悔なんてするわけない!!」


「よかった……」


「俺の方が嫌われてない?」


「大好き」


「良かった……」


 少し離れ、椿の目を見た。


「俺に言いたい事、全部言ってほしい」


「……寂しかったの……」


「ごめん」


「メールとか電話してもいいのかわからなくて」


「いつでもしていいよ!」


「麗音愛から来ないから……」


「……迷惑かなって、ごめん」


「謝らないで……私もそう思ってたから」


 椿に手を握られ、握り返すと柔らかく微笑んだ。

 幸せ物質が出てきているような、安らぎを感じる。


「椿が彼女になってくれて俺すごく幸せで……」


「私も」


「でも、自分に自信がなくて……」


「どうして? 麗音愛は誰よりもかっこいいって私は思ってる……」


 心に沁みる言葉。

 椿を泣かせてまで何が欲しかったのだろうか。


「……俺は本当に大バカだね

 椿といる事が幸せなのに……」


「私も……そんな幸せに浸ったら駄目だってわかってるのに」


「……ごめんね

 駄目じゃないよ、大事なものを見てなかった

 俺が浮かれていられないとか言ったせいだね」


「ううん、わがままでごめんなさい」


「椿のわがままいっぱい聞きたい……思ってる事全部言って……?」


 指を絡めるように、手を握る。小さな手。


「いっぱい、一緒にいたい……」


「うん……俺も一緒にいたい」


「お昼ご飯も一緒に食べたりしたい」


「俺もだよ……椿の学校生活、友達との時間が大事かなって思ってたんだ。

 この前のお弁当すごく嬉しかった」


「また作るね、階段で楽しかった」


「俺も」


「手も繋ぎたい……学校で」


「うん、学校では繋ごう」


「ワガママかな……」


「めちゃくちゃ嬉しい」


「1番、ぎゅ~っていっぱいしてほしい」


「……それは……」


「困る?」


「まさか、嬉しすぎてヤバイ……けど我慢できなくなりそう」


「我慢?」


「……キスしたくなる」


「……えっ」


「ご、ごめん。変な事を言った!」


 椿が黙ったので、焦る。

 胸の中にはいてくれているが、怖いと思われただろうか。


「……したくないんだと、思ってた」


「え!?」


「……麗音愛に見られてるから、汚いと思ってるんじゃないかなって」


「何を? 椿が汚いだなんて思うわけがない」


「口に……紅夜に……」


「くち……あ」


 あの紅夜と対峙した時に、口づけされた事だろう。


「……嫌だよね」


「嫌なわけないし、汚いなんて思うわけない」


「……でも」


「あんなのはキスじゃない、椿の初めてのキスの相手は俺だよ」


「れ、麗音愛……」


 恥ずかしさでお互いに沈黙してしまった。


「私、避けられてると思ってた……」


「そ、それは、あの……女の子は

 こう、ロマンチックとか気にするのかなぁって……俺は頑張って我慢してて

 クリスマスに……って」


「そんな風に考えてくれてたんだ……」


「うん、浮かれないようにとか言っておきながらいつも考えてた……椿にキスしたいって……」


「……逆だと、思ってた……」


「俺は情けないね、椿にそんな風に思わせてたなんて……

 せっかく幸せに浸れる時間をいっぱい無駄にしてごめん」


「ううん……今一緒にいてくれるだけでいいの」


「うん、椿の初めてのキスは俺がもらう」


「……麗音愛」


 見つめ合った椿の瞳が潤んで輝いたあと、そっと瞑られた。

 痛んでいた心臓が、今度は破裂しそうな程高鳴っている。


 少し鼻を寄せた。


 手を握りなおして、自分も目を瞑る。

 コツンと額が触れて、擦り寄せるように唇を寄せた。


 優しい優しい、ただ触れるだけのキス。


 ドキドキが重なる。

 ふんわり、柔らかな唇。


 唇に、恋人を感じる。


 何度も思い描いてたキスとは全然違ったけれど

 溢れる愛おしさ……。


 ドキドキが離れて、お互い見つめ合った。

 椿の目がもっと潤んで、暗闇の中キラキラしている。

 可愛くてたまらなかった。


「椿、大好きだよ」


「私も……大好き」


「もう二度とこんな思いさせない、ごめん」


「もういいの、話さなかった私も悪いんだもん」


「言えないような状況にした俺がわる……」


 両手で頬を挟まれ、ちゅ……と椿からキスされた。


「もう、謝らないで」


 そう言うと、恥ずかしそうにまた胸元に抱きつかれる。

 頭がおかしくなりそうなほど、幸せを感じた。

 慌てて呪怨を統制する。


「私……こうやって、彼女になれたらこうやって

 いっぱいくっついていられるのかと思ってて……」


「う、うん……そうだよね。そう思うよね」


「大好きっていっぱい言えるのかと思ってて……」


『ごめん』と言うかわりに、ぎゅうっと抱きしめた。

 こんなに細くて、小さくて、暖かい。

 目が熱くなる。

 なんだか涙が出そうになる。


「大好きだよ」


「私も大好き」


「さっきまでの俺を殴りたい」


「だめだよ……もう今すごく幸せなんだから……」


「うん、幸せ過ぎてどうにかなっちゃいそう」


「……あと……あのね」


 不安そうな声を出したので、頭を撫でる。


「どうしたの?」


「琴音さん……」


 急に琴音の名前を言われると、変に現実に戻される感覚だ。


「加正寺さんに、何か言われた?」


「会ってないけど……まだ絶対、麗音愛の事が好きだと思う」


「えぇ? そんなことは」


 まさかと思うと同時に、どうしてその事を知っているんだろうと少し焦る。


「一緒にいるって思うと……心臓がモヤモヤ痛くなるの……」


「椿……」


「可愛くて、人気者で……普通の女の子で……麗音愛もきっと好きになっちゃうって……」


「なるわけがない」


「でも、私なんかより全然」


「俺には椿しか見えない。椿が1番」


「……う、うん」


 照れたのがわかった。

 自分も恥ずかしい、それでも。


「言葉で言わないと、伝わらないってわかった」


「私も……」


「俺も、いつも椿が他の奴にとられてしまわないか、不安だよ」


「それこそ罰姫を好きになる人なんていないよ。みんな本当のことを知ったらすぐに逃げていっちゃう」


「雪春さんは、椿の事が好きそうだなって」


「え? まさか……」


「負けたくなくて」


「……麗音愛」


「嫉妬だよ」


「……私達一緒だったね……勝ってるもん。私も、麗音愛しか見えない」


 自分だけを見つめてくれる瞳。

 焦りも苛立ちも怒りも、そんな気持ちが溶けていく。

 ただ自分を愛してくれる存在に胸がいっぱいになって、3度目のキスをした――。



挿絵(By みてみん)

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[良い点] いやーん 甘々!! キッスしたぜええぇ三└(┐卍^o^)卍ドゥルルル 剣一さんGJすぎる!! 琴音が椿に謝る場とか作って欲しくないなぁ 謝られたら許さないといけない 絶対悪いとか思ってな…
[良い点] やはし剣一くんは出来る男…! 多分みんなが言いたかったことをズバッと言ってくれてありがと〜! ラブい、とてもラブい( ˘ω˘ ) すぐにムーン展開を期待してしまうのでピュアなふたりがなんと…
[一言] おめでとう!おめでとう!╰(*´︶`*)╯♡ 今日は一人で祝杯をあげる!(๑•̀ㅂ•́)و✧
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