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欲しいものは

 


 琴音との任務は滞りなく終わり

 日付が変わる頃に、家に着く事ができた。


「じゃあ、今日はお疲れ様」


「はい、先輩お疲れ様でした……あの、椿先輩に謝ったら許して貰えるでしょうか」


「……それは椿の意志次第だけど、誤解が解けたなら伝えてほしい」


「はい」 


 帰りのバスでもちらほら世間話をしてしまったが、緊張したような無言よりは麗音愛も居心地が良かったと思う。

 琴音は微笑んでバスは去っていった。


 椿がもし琴音を許すなら

 高校でも白夜団としても後輩として上手に付き合っていけるだろうか、と思い歩く。


 椿の部屋の窓は灯が着いていない。

 まだ帰宅していないのか、これから帰ってくるんだろうか。


 寒さの中、駐車場の花壇のレンガに腰掛けて電話してみた。

 何度かコールしても出ない。

 諦めかけたが、携帯電話が鳴った。


『ごめんね! さっき着いてシャワー浴びてたの』


「いや、遅くにごめん。帰ってきてるなら良かった」


『うん、麗音愛はどこ?』


「下の駐車場」


『え!? 寒いのに……』


「これから帰ってくるなら待っていようかと思ったんだ」


『……あの、今から家に来る?』


「いいの?」


『うん!』


 車内で身体は拭いたが、一度家に戻ってからまた外出するのは難しいような気がして

 麗音愛はそのまま3階の椿の部屋へ行く。


「お疲れ様、麗音愛」


 玄関を開けてくれた椿。

 湯上がりでまだ髪が濡れている。

 びっくりする程いい香りがした。


「疲れてる時にごめんね、椿もお疲れ様」


「麗音愛の方が疲れてるよ。私は全然……」


「それならよかった」


 椿は見た事のないパジャマを着ていた。

 艶々している生地で、また萌え袖になっている。

 胸元が大きく開いていてキャミソールが見えた。

 すごくドキドキしている自分がいる。

 呪怨に食いちぎられないように、冷静さを保とうと深呼吸した。


「玲央ぴ、おっつ」


「夜中に悪いけどお邪魔するよ」


「おう」


 リビングには梨里も龍之介もいた。

 梨里も同じパジャマを着ている。

 海外ブランドなので椿には大きかったようだ。

 龍之介はさすがにジャージを着ていてホッとする。


「……部屋に行く?」


 ドキッとした。

 湯上がりでパジャマ姿で、微笑む可愛い恋人。


「あ、こ、此処でいいんじゃないかな」


「えっ……」


「テ、テレビも大きいしさ」


 戦闘のあとは、変に気持ちが高ぶってしまう時もある。

 それに加えて可愛い椿を見て、かなりドキドキしている。

 こんな状況で2人きりになってしまったら……

 抱きしめたい衝動がきっと抑えられない。

 そんな自分を見せて椿を傷つけてしまうのは怖い。


「……うん、そうだね

 麗音愛ゲームする? テスト前だけど、ふふ」


 少し黙った椿はすぐ、微笑んだ。


「うん」


「よっしゃ!! 柿鉄するべ!!」


「いーねぇ~!あたしもやるぅ!」


「俺明日も任務あるんだって」


「あたしらもだしー」


 テスト前だというのに結局、皆で笑って夜中の2時まで皆で電車ゲームをしてしまった。

 椿が玄関まで、見送ってくれる。


「椿、クリスマスプレゼント何が欲しい?」


「え?」


「クリスマスのプレゼント」


「みんな色々お話してるね、私クリスマスって初めてで……」


 恋人とのクリスマスが初めて、ではなく。

 軟禁された状況で、楽しいクリスマスパーティーなどあるわけがなかった。

 そんな行事がある事も最近知ったのだ。


「楽しいクリスマスにしようね、2人で色々考えよう」


 そうは言っても、今日も結局話をする時間もなかった。

 でもエスコートする為に色々調べている。

 めちゃくちゃロマンチックにして、ムードを作って。

 そうしたら、その唇に触れるのを許してもらえるかも……。


 椿と目が合って、ハッと煩悩を払う。


「何が欲しいか考えたら教えて」


「私は……何にもいらないよ」


 椿は困った顔をする。


「え? なんでもいいんだよ。今月すごく頑張ってるからなんでも買えるよ

 アクセサリーでも、服でもカバンでもさ。財布でもなんでも、香水とかでも」

 

「そんな……」


「たまには、遠慮しないで! 美味しいものも食べよう」


「……うん……じゃあ麗音愛も考えてね」


「俺かー……うん、考えておくよ

 そういえば今日は雪春さん……調査で?」


「ううん、雪春さん絡繰門家の明橙夜明集と同化したの。すごく強かった……」


「え」


「だから今日は私、全然働いてないくらいなんだ」


「そ、そうなんだ……」


 思いも寄らない言葉に動揺してしまった。

 病院での戦闘では、摩美相手にも苦戦していた様子だったのに。

 椿が認める強さで、絡繰門家当主で、頭も良くて、大人で……。


「……麗音愛?」


「いや、なんでもない

 テストもあるし、本当頑張らないとだ」


「麗音愛、お願い、あんまり無理しないで」


「全然大丈夫!! じゃあプレゼント考えておいて

 おやすみなさい」


「おやすみなさい」


「あ、寒いからここでいいよ」


「でも」


「あ、あと……加正寺さんが椿に謝りたいって言ってたよ」


「えっ……そう……なんだ」


「誤解が解けたならいいなと俺は思ってる」


 俺の彼女は世界一魅力的だって……言えたらいいが、言えはしない。

 でもきっと、椿には伝わっていると思う。


「そう、だね」


「じゃあ、おやすみなさい」


「……うん、おやすみなさい」


 バタンと閉まった玄関の重い扉を椿は、しばらく見つめていた。


 ◇◇◇


 昼休み、椿が教室を覗くと麗音愛が参考書を開いたまま机で眠っていた。

 椿は誰にも気付かれないように教室に戻る。

 テストはこれからなのに、クリスマスの事を話す人が大半だ。

 椿は黙ったまま参考書を開く。

 佐伯ヶ原は絵画の仕上げラストスパートという事で学校を休んでいた。


 麗音愛を学校前で待つ豪華なバス。

 それは加正寺家のサロンバスだという事を知った。

 ゲームをしてから、麗音愛との時間はない。


「あれ、椿ちゃん」


「剣一さん」


 テスト期間になり早く帰宅した椿と剣一がマンションの玄関でばったり会った。

 ラフな格好だが、片手には綺羅紫乃が入っているジェラルミンケースを持っている。


「なんか久しぶりに感じるね」


「はい」


「いっそがしいんだよなぁ~玲央は?」


「テスト中なのに、今日も学校前から任務に行きました……」


「……大丈夫? 椿ちゃん」


「え? 私は全然、麗音愛の方が心配で……」


「俺は椿ちゃんの方が心配だよ」


「私も夕方から任務なんですけど、結界の補助くらいなので大丈夫ですよ」


「違う、泣きそうな顔して歩いてた」


「えっ」


「玲央と話してる?」


 椿は顔を横に振る。

 その手は麗音愛から貰ったマフラーを握りしめた。


「あ、でも学校行く時は話してます……」


「それだけ? あいつ……」


「れ、麗音愛は何も悪くないんです」


「よしよし、いい子いい子。兄ちゃんに任せとけ」


「でも」


「大丈夫大丈夫」


 剣一はそれ以上、何も言わずにただニカッと笑った。




いつもありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[一言] 麗音愛の椿に対するドキドキが伝わってきて、一人でニヤニヤしてしまったけれども…… 麗音愛君!君ね、伝わってるはずだと言うのはないんだよ! 言いたい時には言いなさい!綺麗だとか、何より可愛いと…
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