雪が、舞う~雪春一閃~
戦闘のためか、雪春は今日はメガネをかけていない。
長めの前髪が風に揺れて、誘魔結晶が飛散する。
キラキラと輝き、椿と雪春の足元に落つる頃には付近に潜伏していた妖魔は雁首揃え
2人を狙いゆらゆらと地と空で蠢いていた。
椿は、錫杖『朗界』をアスファルトの上に突き刺す。
妖魔が干渉しないよう、朗界にも結界を張り右手に細剣・緋那鳥を出し構える。
雪春は、太刀『雪春』をスラリと構えた。
美しい太刀だった。
柄の先端からぶら下がる腕貫緒が本来の長さよりも長く
紐の量も多くまるで意志をもつイソギンチャクのように光を放って揺らめいている。
普段の場所より北だ。雪が舞い散ってきた。
椿は自分の足元に、炎を出現させる。
妖魔に対しての餌を、少女の血肉を浮かび上がらせる、戦闘の合図。
一斉に妖魔がわけもわからない雄叫びを上げ、椿に襲いかかった!!!
恐れる事無く椿は、ジャリッ……っと足を広げ踏み込む体勢をとる。
一瞬。
「えっ」
緋那鳥を振るおうとした椿は暖かい風を感じた。
いや、冷たく頬を刺したかもしれない。
暖かさの中の鋭さ、寒さの中の一筋の光。
それを感じた時、椿に襲いかかろうとしていた無数の妖魔は既に地に落ちていた。
「雪春さん……!」
「さぁ、早く終わらせようか」
雪春が握っている太刀『雪春』がキラリと輝く、春の光のように――。
そして切り刻まれた妖魔は雪のように散っていった。
「……すごい」
これが調査部部長だった男なのかと
椿は暖かさと冷たさを感じながら、息を呑んだ。
◇◇◇
加正寺家所有のサロンバスに麗音愛は乗っていた。
椿との任務がなくなったショックもあったが、
琴音との任務も知られてしまった……負い目を感じる必要はないが感じてしまう。
今日は、クリスマスに何が欲しいか聞くはずだった。
2人きりになれない日が続いている。
お弁当のお返しも結局、人気店の焼菓子を学校で渡したが、カップルスポットには行けなかった。
会いたい、抱きしめたい。
そう思うが、それを口に出せるわけはない。
絡繰門雪春。
あいつはそんな事は言わないだろう。
きっと、今も余裕の笑みで椿の隣に……。
今日の任務も完璧にこなさなければ――。
苛立ちを鎮めるように、麗音愛は息を吐いて携帯電話を見た。
サロンバスは真ん中のテーブルを囲むようにイスが配置されている。
目の前には琴音が座っているが、気にしない。
クリスマスプレゼント。
椿は何が喜ぶだろうか……。
もふもふ君グッズはクリスマスには少し子供っぽいし
ゲームもおかしい気がする。女の子ならアクセサリー?
『クリスマス アクセサリー』で出た検索画面を見た。
「アクセサリーって好みがありますよ」
「うわ!?」
気付けば隣に来ていた琴音に驚き、麗音愛は座席に倒れ込みそうになる。
「あ、すみません……書類を渡そうと思ったら見えちゃって……」
いたずらっぽく琴音は笑う。
自分が聞こえず無視していたのかもしれないと麗音愛は書類を受け取った。
「クリスマスのプレゼントですか?」
「あ……うん」
「欲しい物をきちんと聞いた方がいいですよ~」
「……そうかな」
「そうですよ、いらないもの貰っても嬉しくないじゃないですか」
琴音はハッキリそういう。
「確かに。サプライズ的なのは?」
「男性からのサプライズとか、基本的には女の子にとって嬉しくないものばっかりなんですよね~」
「そ、そうなんだ」
言ってはみたが、初めてのイベントでのサプライズプレゼントはハードルが高いのもわかっていた。
「でも椿先輩なら、なんでも喜びそう」
「……うん」
いつでも笑ってくれる椿の笑顔を思い出す。
こんな話を琴音の前でしてしまった、と顔を見るが琴音は気にしないようにニコニコしている。
「一緒に買いに行ったらどうですか」
「休みがないんだよね」
自分から率先して入れた任務に加えて、更に緊急任務も入ってしまい
クリスマスまでの土日がもう埋まってしまった。
「そっか~子供達が1番大忙しですよね~
お給料はいっぱいですけど……」
命を賭けた闘い、世間での名誉もない。
見合った対価といえば、やはり金になる。
それは未成年の麗音愛達に対してももちろん支払われていた。
金だけはどんどん増えていく。
どんな物でも椿に買ってあげられる。
それは他の高校生とは違って、少し誇らしく思えた。
喜ぶ笑顔が見たい。
椿は何を欲しがるだろうか。
「もうすぐ着きますね。
早く終わらせて、椿先輩に少しでも会えるといいですね」
「ありがとう」
麗音愛と一緒に闘うと、琴音の戦闘力は増すらしい。
2人での戦歴が、評価されていると剣一からも聞いた。
だが守るために抱き留める事もしばしばあって、その度に琴音に強く抱き締められるのが麗音愛的には少し悩みでもあった。
しかし椿が恋人だとわかっているようだし、クリスマスプレゼントの相談にも微笑みながら乗ってくれた。
今も協力的だ。
告白された事もあるが、それはもう過去になったのかなと麗音愛は少し安堵した。
「女の子ってロマンチックを望む生き物なんですから、先輩も気をつけてくださいよっ」
「うん」
「男の欲望ギラギラ! とかドン引き!
椿先輩もそういうの嫌がりそう」
「女の子は、みんなそうかもね」
椿が、色んな男達に乱暴されそうになった事は知っている。
多分、誰よりもそういった事には敏感に嫌悪するだろうと思っている。
絶対に傷つけたくはない。
「白夜のみんなで〜クリパとかできたらいいですねー。時間ないかなぁ〜でもプレゼント交換くらいしたいですね」
「そうだね」
今度こそ、誤解なく椿が皆に好かれるのは呪いの魅了などではない事をわかってくれそうな気がした。
「先輩は何が欲しいんですか?」
「ん~……時間かな」
「それ高校生の発言じゃないですよ!」
麗音愛が笑うのを見て、琴音も笑った。
急に車の窓に雨混じりの雪が打ち付けた。
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