オフィス街での戦闘
「まさか、街中に妖魔を放つなんて……!」
「この一帯は、対妖魔の結界を張ってたはずなのに
更に強いということか……」
窓から飛び立った麗音愛と椿。
すぐに高層ビルの上空に妖魔の群れが確認できた。
麗音愛から呪怨の結界が吹き出すように飛散する。
「俺が結界を張る」
ビル上空に妖魔と自分達を入れるカゴだ。
地上の人間は急に日が陰ったと思うだけだろう。
そこに降り立つ。
現れた2人を前に大小様々な形の飛空タイプの妖魔は、ゆらりゆらり蠢いている。
まるでどう動こうか思案しているようにも見えた。
「椿」
「はい」
「必ず守る」
「はい!」
久しぶりの2人での戦闘――。
それでもまるで身体に染み込んでいるかのようにお互いの動きがわかる。
麗音愛が作る妖魔の隙きに、すかさず椿が炎を撃ち込む。
不快な黒い呪刀が、妖魔すら地獄へ引き込んでいく。
実戦はできずとも訓練は続けてきた椿も炎の威力は増し、剣技も冴え渡った。
しかし、妖魔も戦闘力と物体面での頑丈さが増している。
可能だと思った緋那鳥の斬撃が妖魔を貫通しない!!
「くっ!」
妖魔の牙が襲いかかる!
「椿!」
すぐに麗音愛が呪怨で追撃し、椿を左腕で抱き上げた。
2人を、残る妖魔が囲み……様子を伺うように動く。
「連携しているな……」
「うん……知恵が……あるみたい」
考える事などせず、そこに命があれば喰らおうとするような妖魔の進化。
紅夜が蘇ってからの、この数ヶ月での進化。
一体、何を企んでいるのか。
いつかの研究施設を思い出し、ゾッとする。
あの時、致命傷を確かに負ったはずの天海紗妃も生きていた……。
それからの、あのおぞましい治癒能力……。
「あ!」
麗音愛の結界の上に堕ちた妖魔の死骸が、呪怨に食い尽くされる前にまたジクジクと動き浮かび上がった。
「再生能力……!?」
「蒼い炎を!」
「でも、結界に穴が開いちゃう、ビル街に逃げられたら――!」
『大丈夫、椿ちゃん』
「!? 剣一さん!?」
それは椿のジャケットの首元から聞こえてきた。
『今、お前たちのいる結界に1番近いビルの屋上来ている』
「兄さん」
『おう、穴から下に落ちてきた妖魔は俺に任せろ。天啓式聖雷法も最近習得したしな!!』
「了解」
復活しようとする妖魔を、椿が蒼い炎で焼き尽くしていく。
だが麗音愛の呪怨結界とは相性が悪い。共に焼かれ穴の開いた部分から
何匹かの妖魔が狂ったように飛び出して行った。
兄を信じ、麗音愛はまた晒首千ノ刀を一閃する。
知恵など付け焼き刃、それを上回る黒の斬撃で妖魔に留めを刺す!
「きたか……使わなくて、いい未来なんてやっぱ来ないかぁ」
煌めく聖刀・綺羅紫乃を構え高層ビルの屋上に立つ剣一。
聖なる力に愛される男は聖流の集まりやすい場所を見極めていた。
護符と水晶球を指に挟み、空を睨む。
剣一に目掛けて牙を向く妖魔に、ビルを破壊しようとする妖魔。
詠唱を唱え、剣一が術を発動すると
天から雷のような衝撃が走り、妖魔は粉微塵に消滅した。
「へっへ!」
真っ黒い雲のような麗音愛の結界が消えていく。
蒼い炎も燃え尽き全て消えて
青空のなか、麗音愛が椿を抱いて降りてくる。
「逃した妖魔はいなかった?」
「あぁ被害はゼロだ。この状況でよくやった」
「兄さんも」
「しかし、鬼畜な事しやがるぜ。お前らいなかったら相当死人が出ただろう」
「……私のせいで……」
「紅夜のせいだよ」
椿を抱いたままの腕に力を込めてもっと抱き寄せた。
「麗音愛……」
「何も気にしなくていい」
「……うん……」
またボロボロになった学ランの胸元に椿も頬を寄せた。
「にやにや」
「あっ!」
剣一の視線を感じ、椿は慌てて離れた。
「にやにや言うなよ」
「にやにやし続けていたい気もするが、まずは戻るぞ白夜は大混乱だ」
「あぁ……七当主が殺された」
「雪春さんのお父さんが……」
「とんでもない事になるぞ、紅夜の笑いが目に浮かぶ」
白夜団のオフィスビルのガラスが割れた事でパトカーや救急車が鳴り響いている。
◇◇◇
今回の襲撃で、白夜団の本部は
その日の晩には町外れの山中にある加正寺家の別荘に移される事になった。
用心深い加正寺家の厳重な警備が重要視されたのだ。
絡繰門家当主が殺害され、今後の殺害予告と引き換えに4人の当主で椿の任務復帰が決定された。
しかし本人達からの言葉もなく、紅夜会に命を狙われたと加正寺も含め当主達は雲隠れしてしまった。
また椿を糾弾してくるのでは、と心配していた麗音愛にとってはそれは悪い事とは思わなかった。
絡繰門鐘山の生首は、解剖のために研究施設へ運ばれたという。
密談をするために作られたのか厳重な二重扉の洋間。
当主に任された秘書や、代理が新本部に集まってくる。
そのなかには雪春もいた。
いつもシワひとつないスーツには血痕もまだ残っていた。
もともと線の細い美青年は青白い顔で、どこかを見つめるように部屋に入ってきたが麗音愛と椿に気付く。
「あぁ……玲央君、椿さん。君達も来ていたんだね」
麗音愛と椿も、直美達の警護として付き添ってきたのだった。
「……雪春さん……あ、あの」
椿も麗音愛も言葉は出てこない。
あの首がダミーでは無いことは確実だろう。
血のついたスーツ、ということは切り離された胴体を雪春は見たのかもしれない。
「いいんだよ、何も、気にしないでくれ。
……さすがに僕も……困惑しているけどね」
「雪春さん、少し休んでは……」
椿の言葉に、雪春は微笑んだ。
「ありがとう、でも休む暇はないかな……」
雪春の言葉通り
絡繰門鐘山の死亡が確定され、雪春が絡繰門当主を継承する事になった。
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