生首との引き換え条件
絡繰門鐘山の生首を見て、全身が粟立ったまま晒首千ノ刀をカリンに向ける。
警備員は悲鳴をあげてオフィス内に逃げて行った。
「お前ら……!!」
「あら、ダークネスは
姫様に酷い扱いをした、汚らしい老人の首が惜しかったの?」
「……そういう問題じゃないだろう!
それが土産とはどういう事だ」
「団長とお話をさせてくださいませ
でなければ、七当主含め幹部の皆様の首を……晒し首に致します……うふふ」
面白い洒落を言ったように、カリンはくすくす笑う。
「なんだって」
「その中にはあなたのお母様ももちろんおります」
「ふざけるな!」
「麗音愛!! ……なっ!」
椿も緋那鳥を構え、麗音愛の横に来たが生首を見て動揺を隠せない。
「姫様、ごきげんよう
また変わった出で立ちで……」
新制服は男性用と同じジャケットだが、下はプリーツスカートにスパッツ、ニーハイロングブーツを履いている。
カリンは使い捨てのフィルムカメラを向け撮影する。
「やめて!」
「我が姫様に、センスの悪いものを……」
「……椿、母さんを、団長を呼んでくれ」
「まぁ、こんな場所で立ち話もなんですから、お茶でも出してくださいませ」
「まずそれを包め、母さんが気を失えば話もできない」
「そうね、汚らしい首を見て飲むお茶はまずいでしょう」
カリンはまた生首を風呂敷で包むと、持ち上げオフィス内に向かって歩きだす。
◇
仮眠から飛び起きた直美と麗音愛、椿、剣一、とカリン。
広い会議室に輪になって置かれたテーブルとパイプ椅子。
離れ向き合うように座った。
「……絡繰門さんが殺害された……」
「えぇ、どうぞ。絡繰門鐘山の首です」
まるで饅頭でも差し出すように、長テーブルに生首包みが置かれた。
直美の顔は蒼白だ。
「ふぅ、お茶を出す習慣もないのですか、ここは」
「……用件は、なんなのですか」
「幹部の首との引き換え条件は、姫様の任務復帰です」
「え!?」
椿が驚きの声をあげる。
「戦いのなかでこそ、美しく羽ばたく姫様を
籠の鳥にするのは好ましくないと紅夜様は申しております」
「あなた方が、この子に危害を加える事を恐れての判断なのですよ!?」
「おばさま……」
「それすら美しさに変えてこそ、だと紅夜様はお考えです。
この要件は、全幹部にこの生首写真を添えて通達しております」
直美の携帯電話はバイブが振動しっぱなしだった。
険しい顔をして、直美は確認をする。
「私はもちろん、復帰します。
紅夜に帰って伝えなさい」
「椿」
「椿ちゃん!」
「他の誰かを傷つける妖魔の牙を全部、私に向けなさい。
すべてこの緋那鳥で殲滅し、お前を滅ぼしに行く――
そう、帰って伝えなさい」
椿の気迫が、形になって見えるようだった。
カリンが息を呑んだのがわかった。
「び……白夜団団長の決定はどうなのです?」
「……私に権限などないわ。
もう、既に当主間で復帰は決定されました」
直美が携帯電話を机に放り、頭を抱える。
「おばさま、大丈夫です……ご心配ありがとうございます」
「椿は俺が守る」
「……麗音愛」
「紅夜様は、姫様のプライバシィというものを考え
今の護衛という見張りに心を痛めているのです。
咲楽紫千麗音愛、お前は許可します」
「お前らに言われなくとも、許可されなくても守り抜く」
麗音愛の眼光は見ないように、カリンはヘッドドレスのリボンをいじり、横を向いた。
「椿ちゃんと同居の2人は……」
「まぁ許容範囲といえるでしょう。殺しはしません
あなたもね、咲楽紫千剣一」
完全に、紅夜の手のひらの上なのかと剣一は奥歯を噛みしめる。
「お前は幸せなのか、カリン」
白夜団の混乱を満足気に見つめていたカリンは、麗音愛を見た。
「なに?」
「こんな道具のように、使われて……
いいのか、それで」
「何を言っているの、道具はダークネスお前じゃないの?」
「……俺は俺の意志で選んだ
お前達もそうなのか?」
「当たり前でしょ。何言ってるの」
「だけどこんな事を続けて……」
「ふふ、私を懐柔しようとしても意味ないですわよ
それでは姫様、復帰おめでとうございます」
そうカリンが言った瞬間に会議室の窓が爆破されたように飛散した。
「うわっ!?」
「きゃああ!!」
直美の叫び声が響き、麗音愛は呪怨の羽を広げ皆を庇う。
「終わったか? カリン」
「うん、終わった」
飛ぶ妖魔を従えた闘真だった。
薔薇の花束を持っている。
そのまま笑顔で妖魔から飛び降り会議室に入ってきた。
「姫様!」
「闘真! また……」
「姫様、お祝いの花束です。まさか直接渡せるなんて!
また姫様が闘う事を皆が喜んでいますよ」
場違いな可愛らしいピンクやオレンジの薔薇に、椿は顔をしかめる。
「……いらない」
「姫様が闘いを望んでいる事を、紅夜様は理解してくださったんですよ」
「わ、私は!」
「さすが紅夜様の姫様です!
闘いの中でこそ輝く存在なのですよね!
それでは、花束ここに置いておきます」
にこにこと、花束をガラスが飛散したテーブルに置く。
「闘真、行くわよ。お前の軽口で私まで怒られたら嫌だわ」
「あぁ……おい、咲楽紫千!」
「なんだ」
「姫様に馴れ馴れしくするな、殺しに来るぞ」
「いつでも来い」
睨み合う2人。
麗音愛もみすみす逃したいわけではないが、場所が悪すぎる。
強い風が、割れた窓から入ってカリンのメイド服のフリルを揺らし
ひょいと妖魔に飛び乗った。闘真もあとに続く。
「100メートル先の交差点の上空に
妖魔32体を放ちます。姫様の復帰祝いですね
どうぞお受け取りください」
「なんだって!!?」
「お前ら!!」
「じゃあねー10秒後でーす。ばいばーい」
「それでは、姫様!
お楽しみくださいね!」
闘真とカリンを乗せた妖魔は、激しい風を起こし消えた。
「俺は下で避難誘導と援護する!」
即座に剣一は走り出す。
「わかった! 椿!!」
「はい!」
「行くぞ!」
椿が伸ばした手を掴み、麗音愛は呪怨の翼を広げ
そのまま窓から飛び降りた。
戦闘が始まる――!
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