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幸せな君へ  「色の無い夜に 第一部・完」

 

 ダンスパーティーのある程度の片付けを終え

 麗音愛は椿の待つ教室へ急ぐ。


 音響係達に、あの企画は当初は川見で開催する予定だった。

 しかし川見と数人の生徒から椿を、と提案され数日前に変更したと謝罪を受けた。


 その中には琴音の姿もあり、きっと椿も泣いて喜ぶだろうと後押ししたという。

 それを聞いて、椿も複雑な顔をしたが謝る音響係にすぐ笑顔で応えた。


「色々あったけど、麗音愛が来てくれたから……気にしないでください」


 かなり冴えない男として見えているだろう麗音愛に

 椿が愛しそうに微笑んだのを見て、皆が驚いた。


『見かけで判断しない椿ちゃんって、やっぱいいなぁ』

 と、どうやら椿の株がまた上がったようだ。


 その会話が聞こえつつも、椿が見つめてくれるだけで

 ずっと、心にあった惨めさや不安が今は消えていく。

 想い人が恋人になった、その奇跡がただ幸せに思える。


 ただ教室のドアを開けるだけでも、その先に待っている人がいるだけでこんなにも嬉しい。


「椿、お待たせ!」


「お疲れ様!」


 明るい教室でも、ドレス姿の椿につい見惚れてしまう。


「ごめんね、待たせて」


「ううん、全然。今の間に雪春さんに電話してやめるって伝えたの。

 まだ誰にも話を通してなかったから何も心配いらないって」


「そうか、良かった」


「うん……でも迷惑かけちゃった……」


「全部俺のせいにしていい」


「そんな」


「いいんだよ」


 誰もいない事は知っていたので

 傍に来た椿を、つい抱きしめてしまった。


「……麗音愛」


「あ、ごめん……!」


 いくらなんでも、がっつき過ぎだと慌ててバッと離れた。


「どうして、謝るの?」


「え、いや……」


 離れた麗音愛の腕に、椿はそっと手を伸ばし掴む。


「嬉しい……もん」


「……椿……」


 学校を出れば、友人のフリをしなければならない。

 それでも今は……抱きしめる。

 途端にぐ~~っ! と2人のお腹が鳴った。


「きゃ! やだぁ……」


「あは、ほとんど何も食べてなかった」


「私も」


 ぐ~っと、また鳴ってしまい2人で大笑いする。


「何か食べて帰ろうか

 ドレス汚れちゃうかな」


「牛丼なら平気!」


 食べたいと思っていた、と麗音愛も頷く。

 牛丼が大好きなお姫様が照れたように笑う。


「じゃあ行こうか」


「うん!」


 玄関まで、手を繋いだ。

 さっき見た中庭のイルミネーションはもう消えていてる。

 貰ったマフラーは、椿の首元に巻いてあげた。


「あ……雪……綺麗……」


「うん、もう……冬だね」


 寒い夜、それでも2人の心は暖かい。


「どんな冬に……なるんだろう」


「一緒に、いい冬にしよう」


「うん! ……麗音愛……」


「ん?」


「私、幸せ」


「……俺も」


 手が離れた距離でも、もう寂しくはない。

 微笑みだけの、幸せな時間……。


 だが、その夜の闇に蠢くものがいる――。

 人を喰らう妖魔が今日も誰かを襲う。


 ◇◇◇


「えぇ……絡繰門です。はい……えぇそのとおりに……」


 白夜団本部で話し終え、電話を切る雪春。

 暗闇の中、パソコンの光が無表情な雪春の顔を照らす。

 そして、着信したメールを見る。

 そこには『加正寺琴音』の名が光っていた。


 ◇◇◇


「母さん……? 何、今から本部に?」


 久しぶりの休みだと言っていたはずの直美。

 スーツを着て軽く化粧をしているのを剣一が声をかけた。


「えぇ、玲央の話を聞くの楽しみだったのに、行ってくるわ。

 お父さんも部屋でお仕事中。

 剣一、もし緊急任務が入ったら頼むわね」


「うーっす。了解」


「いつも頼ってごめんなさいね」


「なんか、動きあったん?」


「……えぇ、妖魔の動きが激化してきたわ……

 でも逆に紅夜会の、紅夜が何を企んでいるもかもわかるかもしれない」


「そろそろ、こちらからも一泡吹かせてやりたいもんだな

 サクッと紅夜を滅ぼす方法ないもんかな~~~」


 白夜団が結局、紅夜会が起こす事件の対処しかできていない事実は

 剣一にも歯がゆい事だった。


「……私はね、そんな事は望んでいないのよ」


「え?」


「……あれは、紅夜は妖魔の王。

 この世の淀みが集まり生まれた紅い闇……それでも存在は神のようなもの。

 人間が……敵う相手なんかじゃないのよ」


 直美は自嘲するように微笑む。


「……母さん」


「ふふ、こんな発言を聞かれたら退団処分ね。

 でもお母さんは、こんな仕事を子供にさせておきながらも

 あなた達の幸せが1番だと考えているわ」


「あぁ、わかってる」


「命を懸けるような事は絶対にしないでちょうだい」


「もちろん

 俺は自分のできる事をできる範囲でやるってのがポリシーだから」


 剣一が冗談めかして笑った。


「そうね、じゃあ行ってくるわ。

 玲央君、鹿義さんとうまくいってるといいわね

 それとも加正寺さん??

 椿ちゃんも、釘差君とすごくお似合いよね?」


「はは、だねー。じゃあいってらー」


「そうよね、行ってきます」


 苦笑いには気付かぬまま、直美は出て行った。

 梨里から夜通し龍之介と遊ぶと連絡がきたことは、もちろん黙っていた。

 その際に聞いた、弟のステージ上の雄姿。

 それからどうしたかは、知らないがきっと……。


「今だけでも、幸せに浸ってろよ……2人とも……」



 ◇◇◇



 現代に似つかわしくない城の王の間。

 その玉座に座る妖魔王・紅夜。

 長い艷やかな黒髪が意志をもつように蠢き

 その妖艶な美しさは幼さも成熟も兼ね備えているような

 人を超えた美貌だ。

 ひと目見ただけで王だと、分かるだろう。

 胸元を開けた紅いシャツからは艶のある腹筋が見えて

 傷は1つもない。


 その脇にはコーディネーターが立っている。


 紅夜の手のひら

 ゆら……と紅色の液体が美しいワイングラスの中で揺らされた。


「そうか……俺の娘が幸せで、何より嬉しいよ」


「このままでよろしいのですか」


「娘の幸せを喜ばない父親が、どこにいる……」


 紅夜は、微笑む椿の写真を眺める。


 そうは、いいながらも

 優しい父親の表情とは程遠い。

 その顔は目の前の玩具を喜ぶような幼児の顔か、それか残虐な喜びに震えるサディストのような……。


 手首を翻し、写真はどこかへ飛んでいった。


「プレゼントの準備はどうなっている」


「それはもう、滞りなく」


「きっと……可愛い顔をするんだろうなぁ」


 くくく……と、紅夜の笑みを見聞き

 コーディネーターはゾクリと全身に快感を感じた。


 隅で立ったまま、紅夜を見つめていた紗妃は

 足元に落ちた椿の写真を手に取ると握りつぶす。


 白い雪が舞い降りるなか

 また、残酷な夜がその翼を開いていく。


 麗音愛と椿

 2人の幸福を、まるで笑うかのように――。



 色の無い夜に・ColorlessNight

 第一部完



いつもありがとうございます!


色の無い夜に第一部完でございます!

もちろん、二部もすぐに始まります!

何年後などという始まりでもなく、またすぐ後から……始まりますが

じれじれ恋愛の成就という区切りとして考えて頂ければと思います(*´ェ`*)


数日は、登場人物紹介、ネタバレカラレスwiki章ごと、など更新して

二部からでも読みやすい作品にできたらなと思っています。

これからもお付き合い頂けると嬉しいです!!

ここまで書けたのは皆様のおかげです。本当にありがとうございます!


挿絵(By みてみん)


こちら、素敵な麗音愛、椿、剣一の3人集合イラスト!

なろうでも作家として活躍しながら絵師様でもある

ベアごん様から頂きました!

今日という日にとても素晴らしいイラストに大感激です!

登場人物に今後使用させて頂きます(#^.^#)

ありがとうございました!


皆様のブクマ、評価☆、感想、レビューがいつも励みになり

ここまでこれました!

気に入って頂きましたら是非お願い致します。


ありがとうございました(#^.^#)


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― 新着の感想 ―
[良い点] 一部完おめでとうございます〜! ことねえええぇwww もう次は何をやらかしてくれるのか、ちょっと楽しみにすらなってくる…。 とにかく、れおつばちゃんが無事に想いを伝え合えたので私はもう…!…
[一言] お疲れ様。またガンバです♪
[一言] 麗音愛と椿の恋愛が成就したと思ったら、どんどん不穏な状況に追いやられていきそうな気配ですが…… 剣一同様、もうしばらくこの幸せが続けば良いのにと思わずにはいられないです。 そして琴音と雪…
感想一覧
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