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ダンスパーティーフィナーレ

 

 抱き締め合う2人。


 椿の孤独だった気持ちが

 麗音愛に抱き締められ、暖かくほぐれていく。

 夢の中にいるような幸福感に包まれていた。


 それは麗音愛も同じだ。


「麗音愛……大好き」


「……俺も……俺の事、好きになってくれたなんて……夢みたいだ……」


「……私も……」


「すごく、幸せ……」


「……私も、幸せ……」


 温もりが離れてしまう時を寂しく思う気持ちも、今はない。

 でも1つ、不安が残る。


「……椿……地元へ……帰らないでほしい」


「ど、どうして……その事……」


「佐伯ヶ原が教えてくれた」


「……そうなの……そう、考えてて……」


「俺から離れたかったの……?」


 ぎゅっと切ない声で、麗音愛は椿を抱きしめる。


「ち、違う……

 麗音愛が……いつか誰かと、結ばれて……それを見るのが、私……」


「……そんな事」


「そ、そんな事だけど……でも……」


「俺は、椿だけだよ」


 予想もしていない、言葉に椿の頬が熱くなる。


「……うん」


「行かない? 此処にいるよね?」


「うん……此処にいても……いい?」


「良かった……当たり前だよ」


 安心した麗音愛の吐息が、椿の耳にかかった。


「ごめんなさい……黙ってて」


「ううん、俺もきっと悪かった」


「そんな事全然ない……1人で勝手に……」


「……行かないでくれるなら、もう、いいんだ」


 椿は麗音愛の冷たい手を握った。

 麗音愛も握り返す。

 全てが幸福に感じる。


「あ、そうだ」


 椿は、麗音愛から離れ立つと

 置いてあったトートバッグを拾いに行った。


「ん?」


 戻ってきて、座る麗音愛の前に笑顔でしゃがみこむ。

 離れた距離が切なくて

 麗音愛は、また椿の腕を掴むと抱き寄せた。


「わっ」


「俺は、まだこうしていたい……」


「わ、私も……」


 少しでも寒くないように、麗音愛は椿を抱きしめる。

 椿は急に意識してしまい、ドキドキと心臓がうるさく動くのを感じた。

 それでも心は安らぐ不思議な感触。


「どうしたの? バッグ……」


「あのね」


 恥ずかしそうにバッグからプレゼントの包みを取り出した。


「あの、お返しのマフラーなの」


「あぁ……ありがとう」


 麗音愛から貰ったマフラーと同じ緑系のマフラー。

 同じ店のものだった。

 自分の事を考えながら選んでくれた事が嬉しい。


「すごく嬉しい。大切にするよ」


 少し離れて、椿は麗音愛の首にマフラーを巻いた。


「あったかいよ」


「似合ってる……」


「うん、すごく素敵なマフラー。ありがとう

 この前、モールにいた? 雪春さんと……」


「え! うん、麗音愛もモールにいたの?

 さっきの実家の話をしに本部に行った後に車で送ってもらったの……

 中ですぐ別れたんだけど……」


 マフラー選びに雪春はいなかった事に安堵してしまう。


「そうか……雪春さんは、地元に戻った方がいいって?」


「私の自由に、とは言ってくれて……。

 もし戻るなら、しばらく一緒に見守ってくれるって言ってくれてたんだけど……

 私もまだ決められずにいて」


「い、一緒に……?」


「うん。でも、それは迷惑だって思って断るつもりだったよ。

 ……今日の麗音愛……すごくかっこいい……」


 雪春への苛立ちを吹き飛ばすような、不意打ちの言葉。


「えっ」


「すごく、かっこいいよ」


「な、なに言ってるんだよ」


「……いつも……私、麗音愛の隣に女の子がいたら嫉妬……しちゃってた」


「それは俺のセリフ、いつも色んな男に椿はモテるから……」


「私は、麗音愛が好き……!」


 見つめられながら、言われ次にぎゅーっと椿に抱きつかれた。

 不意打ちの連続に心臓が跳ねる。

 幸せの連続だ。


「……みんなに、麗音愛が彼氏になってくれたって言いたいな……」


「……言わないの?」


「……麗音愛のご家族はきっと、よく思わないと思って……」


 幸せのなか、龍之介に言われた事を思い出す椿。


「黙っていた方が……隠していた方がいいのかなって……」


「俺の家が格下で、ごめん……」


「私が罰姫だからだよ、誰だって心配だし嫌なのわかる……」


「そんな……いつも家柄の事は言われるけどそんな事は言わないし

 それに俺は何を言われても、絶対に離れない」


 耳元で強く言われた言葉。

 今度は椿の心臓が跳ねる。


「れ……麗音愛……

 が、学校の中だけだったら……大丈夫かな」


「みんなのところへ戻る時、傍にいてほしい」


「……うん……」


「俺が1番、椿が彼女だって言いたいよ」


「……うふふ……じゃあ麗音愛が彼氏だって言えるんだね……嬉しい」


 恥ずかしそうに笑う椿。

 色んな不安が残っても、今はこの幸せに浸りたい。


 離れたくない気持ちが募るが

 時計を見て

 そろそろ戻らなければ、とそのまま抱き上げる。


「わぁ!」


 椿も慌てて麗音愛の首に手を回す。


「まだ2人でいたいけど、戻らないとね」


「うん……」


「帰りは一緒に帰ろう」


「うん!」


「降りるよ」


 フワッと、麗音愛が降り立つ。


 あ、と椿は感覚を思い出した。

 確かにあの時

 麗音愛は自分を抱きしめて守り支えながら

 紅夜の世界から戻ってきてくれたのだと、

 意識はなかったはずなのに、身体がそう感じた。


「麗音愛、大好き」


「俺も、大好きだよ」


 ずっと、口に出せずにいた想いを相手に告げることのできる喜び。


「あと……加正寺さんに

 何か言われたりされたら、俺にすぐ言って」


 お互いに何があったかは言ってはいないが、なんとなく察した。


「……うん。

 ……琴音さんに、バレたらすぐ本部に言われちゃうかな」


「その時はその時だよ

 俺は、大事なのは今だと思ってる」


「うん」


 降り立って2人で、ぎゅっと手を繋いだ。

 校庭には、フィナーレを祝う生徒が沢山集まっている。


「あ! 玲央! 椿ちゃ……

 あが……あが……ぎゃああああああああああ!!」


「カッツー落ち着け!」


 西野がカッツーを押さえた。


「つばちん! どこ行ってたの!? あーー!!」


 皆が手を繋いだ2人に気付く。


「おめでと椿!」


「玲央! 椿ちゃん! おめでとう」


「さっきのステージ、あれ台本あったの?

 すごかったねーおめでとう椿~」


 口々に祝いの言葉が言われる。


「やっとだな、玲央」


 誘われた女の子を横に、石田が麗音愛の肩を叩く。


「やっと……って?」


「バレバレだったよね」


 みーちゃんも椿に笑いかける。


「えぇ?」


「みんな両想いだろうに、何やってんだろって思ってたよ」


「でも、口を挟むのもって……歯痒かったよ~椿」


「嘘……」


 麗音愛と椿は顔を見合わせる。

 それを見て、西野や椿フレンズも笑う。


「おめでとう、玲央、椿ちゃん

 舞台ですごかったみたいね」


 美子と佐伯ヶ原も気付いて現れた。

 椿は恥ずかしさで手を離しかけたが、麗音愛が離さなかった。


「あ、あの……佐伯ヶ原君、色々とありがとう」


「お前のためじゃねーよ。バーカ」


「佐伯ヶ原、本当にありがとう」


「あ、いえ……サラ……」


 相変わらずの態度の違いに、美子が苦笑した。


「加正寺さんは帰っちゃったみたいね」


「……そうなんだ」


「ま、今はそんな事関係ないわよ」


「美子も、ありがとう。色々と」


 美子は笑顔で首を横に振った。


「しっかり、みんなに報告したら?」


 そう言われ、麗音愛は頷く。


「椿は、俺の!! 彼女です!!」


「れ、麗音愛」


 珍しく、麗音愛が少年のようにイタズラっぽく照れたように笑った。


「よし!! いいぞー!! 玲央!!」


「おめでとー!」


「くそーーー!!

 俺の椿ちゃんをおおおおおおおおお!」


 周りの生徒も盛り上がる2人に気付き

『あんな地味な男と?』や『川見先輩を振って、あれ?』

『イトコとか言ってたし、男避けの嘘じゃない?』

 などの声が聞こえてきた。


 椿はぎゅっと、麗音愛の腕に抱きついた。


「れ、麗音愛は、私の彼氏です!!」


 急に叫ばれ麗音愛も驚いたが、椿も自分で言って恥ずかしさで下を向く。

 皆の前だが、つい抱きしめてしまってカッツーが卒倒しそうになった。 


「ダンスパーティー・フィナーレ!!

 花火が上がります!」


 校庭に、花火が上がり歓声が上がる。

 ぎゅっとお互いの手を握りしめた。

 輝く花火が2人の瞳を照らして、寄り添った。

 幸せな2人を、友人達が皆微笑んで見守る、素敵な夜。


 それを遠い空から見つめる2つの影。

 妖魔に乗る、闘真とルカ。

 風が2人の髪をなびかせる。


「姫様……」


「闘真、無粋はやめておけよ」


「皆殺しにしてぇ……」


 闘真は殺気を張り巡らせるが、ルカは平然としていた。


「あの、幸せそうな笑顔を見ろ」


「咲楽紫千……あんなのが触れていいわけないだろうが!!」


「成長には、そういう経験も必要だ。

 幸福があるから絶望がより際立つと紅夜様も仰る……」


「紅夜様が……」


「姫様には絶望がよく似合うと……ね……

 姫様の絶望は紅夜様の甘美だ」


「なるほど!」


 ルカは望遠で、微笑む椿の映像を撮り続けていた。


「これから、ますますお美しくなられるよ

 我らが姫様は」


 ルカはニヤリと微笑み、2人は暗い闇に消えていく。

 誰に気付かれる事もなく――。

 



いつもありがとうございます!

2話

空気を壊したくなく、後書きを控えておりました(#^.^#)

やっと2人が結ばれ私も感無量でございます。

まだまだ本編は続きますので、どうぞよろしくお願い致します(#^.^#)


皆様のブクマ、評価☆、感想、レビューがいつも励みになっております。

気に入って頂きましたら是非お願い致します。



 挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] じっくりと読ませていただき、号泣再び、と言ったところでしたが…… きましたね、不穏な奴ら。 今回もキュンキュンしてしまいました。 ずっと「好きだ」といえなかった二人を知っているからこそ、お…
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