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邪魔者達 

 

 熱かった缶コーヒーは麗音愛の手の中で、どんどん冷えていく。

 晒首千ノ刀を持ってから、まるで死人のように冷たくなった身体。


「……椿に騙されているってどういう事?」


 麗音愛がそう尋ねると

 琴音は拗ねるように、頬を膨らませる。


「先輩は、白夜団最強の咲楽紫千(さらしせん)家の晒首千ノ刀の継承者なのに

 そんな事で大丈夫なんですか」


「……俺は最強でもなんでもないよ。

 今の言葉の意味を教えて」


「紅夜って、昔から人を惑わす幻術みたいなものを使うらしいですよ

 あるじゃないですか、鬼伝説とか。魅了の力みたいな」


「……鬼伝説……」


 どこかで見た……。

 あのお茶会の夜、椿が慌てて隠した本がそんなタイトルだった。


「桃純家・元当主の桃純篝(とうじゅんかがり)が紅夜の子を宿した時も

 当主の身で紅夜の魅了の幻術にかかったと、それが処罰の理由です」


「……まさか、加正寺さん」


「まさかじゃないですよ、桃純椿にももちろん

 紅夜が人を惑わすその力があるんですよ」


 琴音は、得意そうな顔をする。

 そして今度は麗音愛を睨む。


「だから、先輩しっかりしてください」


「……それを、椿にも言ったのか?」


「椿先輩って、いっつもモテて困っちゃうって顔してるから

 原因を教えてあげただけですよ」


 少し、麗音愛の影が揺れた。


「先輩は、白夜団の要だってしっかり自覚してくださいよ!

 あの人が何を言ってたって、あの人は妖魔王の娘なんですよ!!」


「……妖魔王の娘で、仮に魅了の力があったとして

 だから……何?」


「騙されているだけだって……言ったのは……

 つまり先輩が恋だって思ってるのは」


「魅了の幻術だって……?」


 麗音愛はゆっくり立ち上がると、座ったままの琴音を見つめた。

 静かで、ただ慈悲が満ちているような美しい瞳。

 その瞳に見つめられた琴音は、心臓がざわめいた。


 ◇◇◇


「あのバカ龍……結局、なんも理解してないし……」


 取り巻きが用意してあった椅子に梨里は座り、呆れながらステージを見ていた。


「椿!! 俺は、初めてなんだよ!!

 こんな気持ちは!!

 色々傷つけたりもしたけど、これからの俺を見てほしい!! 

 漢! 釘差龍之介! 歌う!!」


 突然始まった『高嶺の花の君へ☆告白タイム』

 参加者は自分のアピールをして告白する企画のようだった。

 筋肉自慢や速読、はたまたコントなどをし終わると

 椿への憧れの想いを叫ぶ。


 その後に椿が1~10までのポイント評価をして終了。

 皆がすぐに終わるので時間的にはそんなには経過してない。

 椿は隅っこで、ちょこんと椅子に座っているだけだったので少し安心していた。


 龍之介の上手いバラードに、場内はしっとり。

 BGMにして抱き合うカップルもいる。

 ステージから見える椿は恥ずかしくなり、目を逸した。


 早く終わってほしいとしか思えない。


 だが、この曲は麗音愛と一緒に聴いた事があった。

 あの闘真に連れ去られた薔薇園のあと2人で行ったカラオケ。

 麗音愛は『歌おうかな』と言って結局歌わなかった。


 この曲を麗音愛は誰かの為に歌う事があるのだろうか……。


「椿!! 俺はお前が好きだ!!

 俺の嫁になる女はお前しかいない!!」


「さぁ! 栄光の1位! お姫様のキスは誰のものになるのか!?」


 ぼんやりと龍之介のバラードも聴き流してしまい、

 今まで全て評価5を出していた椿は

 ハッ!? となる。


「キ、キスって!?」


「椿、優勝者はほっぺにチューだ!!

 会場投票もあるから、俺に10入れろよな!」


「そ、そんな聞いてない……」


 慌てて会場投票を見ると、今までの参加者はほぼ点数は無いに等しい。

 その分、今のバラードで一気に龍之介はトップに躍り出た。


「……ど、どうしよう……」


「待て!!

 俺も椿ちゃんの為に歌を歌う!

 それを聴いてもらってから、釘差君と俺とに点数を入れてもらおうじゃないか」


 司会者だった学園一のイケメン、川見がいきなりの参戦。


「か、川見先輩……!?」


「なんだと!?

 司会者が何言ってやがる!!」


「椿ちゃん、俺は最後にもう一度だけでも

 しっかり君に告白したかったんだ」


 また女子生徒の悲鳴と、盛り上がる拍手に声援。

 椿は、ふらりと目眩がする。


 皆には好きな人がいる事はもちろん言っていないが

 ハッキリと断るしかない、それでも……この場内の雰囲気。

 頬へのキスくらい、なんでもないと言われてしまうだろう。


 一体いつ麗音愛が戻るかもわからないこの場所で、そんな事はしたくない。

 麗音愛以外、誰にも触れたくない。


 椿は、ぎゅっとドレスのスカートを握った。




いつもありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[一言] レオの方はシリアスなのに、椿側がコントだw
[一言] 今回はまたちょっと凄みを感じています。 静かな麗音愛と琴音の対立に対してのコメディーの要素を孕んだ椿サイドの状況。 その対比が実に良いですね。 対比は対比なんだけれど、状況は両方とも似通…
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