表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

193/472

佐伯ヶ原無双

 

 送迎車もきちんと管理され、剣一が車の窓から教師に挨拶をする。

 昔の生徒会顧問だったようだ。

『お前の代から余計な仕事を増やしやがって』と言うが、笑顔だ。


「寒かったら、これを着ろよ」


 車内で佐伯ヶ原が椿にファーの付いたストールを渡す。


「ありがとう、何から何まで……」


 椿が荷物を持ちたがるのでフリルバッグも用意され準備万端だ。


「お前、椿のなんなの?」


 助手席から龍之介が怪訝な顔をするが

 佐伯ヶ原は見向きもしない。


「子猿は単なる絵の材料だ。じゃあな。部長どうもです」


 そう言うと、佐伯ヶ原はさっさと降りていく。

 椿達も後を追い、降りると美子が待っていた。


 華やかに着飾った学校の有名人達、一斉に注目が集まる。

 特に椿を見つけた男子生徒達は声を挙げた。

 梨里が椿を背後に隠す。


「写真勝手に撮んなしー!」


「んだぞ! 特に椿は俺の許可とれよ! おら!」


 龍之介の威圧で、隠し撮りしようとしていた男達は散っていく。


「椿ちゃん、すごく可愛い」


 そういう美子は、ダンスパーティー用のドレス!というよりは

 上品な深緑のベルベッドワンピースで長い綺麗な黒髪が映える。


「あ、ありがとう……美子ちゃんもすごく綺麗」


「普段使いできる系~?

 もっとはっちゃけても良かったじゃん」


「うちは普通のサラリーマンですから~

 同化剥がしの儀式でお金使わせちゃったし……あ、佐伯ヶ原君」


「なんだ」


「デザイナーのYUTAって人のドレスが貸し出しも販売も一斉停止で

 加正寺さんが今日は来ないかもって、ちょっとした騒ぎになってるんだけど……」


「あー……」


「何をしたの?

 佐伯ヶ原君が関係してるって言ってる人がいたの」


 全員が佐伯ヶ原を見る。


「俺の絵の中のドレスデザインを盗用してるって話があってな

 あいつの父親と交流もあるから、まぁどうでもいいかと思ってた……んだが」


「んだが?」


「思うところがあって、連絡してやった。まぁ盗用はよくない」


 ふむふむと『それはよくない』とそれぞれ頷く。


「へー。あの子今頃ドレス探してんだぁ

 YUTA自慢してたもんね~。あたしは興味なかったけど~」


「……加正寺さんが……」


「ブランドにこだわらなければ、すぐ他の衣装も用意できるでしょうにね」


「ま、画家の威光はダンパでは通用したという事だ……じゃ~なお前ら」


 そう言うと、佐伯ヶ原は手を振るようにして椿達から離れていく。


「あ、佐伯ヶ原君! ドレスも髪も、バッグも色々ありがとう!」


「せいぜい楽しめよ、小猿」


 口では拒否されていたが、まだ一緒にいられるのではと思っていた椿は寂しい目をして佐伯ヶ原を見送った。


「ダンパって言っても、こんな明るくって学校祭みたいなもんだな」


「明るいうちは、それぞれ部活の発表なんかもあるわ

 椿ちゃんはどうするの?」


「私はとりあえずクラスのお友達のところに」


「ねー玲央ぴは?」


「麗音愛は裏方で体育館にいるって」


「だっせ」


「釘差君、麗音愛達、裏方の人のおかげで私達が楽しめて……」


「はいはい、椿は優しいな……今日はまじ気を付けれよ

 ってか後からまたダンス誘いに行くからな」


「だ、だから、私は……」


「じゃ! あとでな!」


 断られる前にと思ったのか、龍之介も級友を見つけそのまま歩いて行ってしまう。


「美子はど~すんの? 一緒にいるメンズいるの?」


「私は女の子のお友達とかな、図書部での催し物も少しあるし」


「ふ~ん……あっ! はるとぉ! おはよ~エスコして~!

 んじゃね~姫も楽しもーねぇ」


 派手な男子生徒達が梨里を取り囲み、腕を組んでそのまま行ってしまう。

 とりあえず美子は椿が1人にならないよう教室まで一緒に歩いた。


「……椿ちゃん、玲央は誘ってないの?」


「え? う、うん……」


「誘ったら、きっと喜ぶと思うよ。じゃあ楽しもうね」


「えっ……う、うん、美子ちゃんも」


 美子の言葉に驚きながら、椿は何も言えなかった。

 教室に椿が入ると、椿フレンズがそれぞれに最上級のお洒落をして待っていた。

 すぐに撮影会が始まる。


 ◇◇◇


「ふぅ~」


 オケ部や軽音楽部の演奏。

 演劇部のパレードの道具運びなど、明るい時間帯の裏方を一通りこなし

 麗音愛は1人体育館横の外ベンチでコーヒーを飲み一息ついていた。


「まさか石田がなぁ……」


 先日、失恋話を打ち明けてくれた石田が

 なんと裏方作業中に女の子から誘われのだ。

 カッツーは発狂したが、麗音愛が石田の分も作業すると言って快く送り出した。

 おかげで昼飯を食べる時間もなかったが友人の幸せを思えば悪くはない。


 男子も女子も、キラキラと皆いつもと違って見える。


 もうそろそろ暗くなり、本格的なダンパムードになる。

 椿はどうしているだろうか……。


 携帯電話にはメールも何もきていない。

 さすがに『楽しんでいるか?』なんて連絡するのは無粋だろう。

 連絡していい時はダンスに誘う時くらいだろうか……。


 一体どんなドレスを着て、どんな姿なのか。

 浴衣姿を見た時の事を思い出す。

 勝手に恥ずかしくなって、まともに褒める事もできなかった。


「サラ」


 振り向くと、佐伯ヶ原だ。

 スーツ姿の麗音愛を見て、頬が紅潮している。


「お、お疲れ様です。サラ」


「あ、うん。どうも」


 頬の紅潮には麗音愛は気付かないが、上から下までの視線は気付き

 あぁまたか……とは思う。

 まさかスケッチをしに来たわけではあるまいな、と警戒するが

 佐伯ヶ原は紙袋を差し出してきた。


「これ、差し入れです」


「あ! ありがとう、助かる」


 サンドイッチに、カットフルーツ、唐揚げ棒に烏龍茶が入っている。

 裏方には食券も配布されていたが、引き換える教室までは距離もあるし 億劫になっていたところだ。


「座ったら?」


「あ、はい」


「お返しするから、本当にありがとう

 いただきます」


「いえ、気にせず……

 サラ、あまりに働きすぎじゃあないですか?」


「はは……まぁ嫌いじゃないから」


 麗音愛も社交的な方ではない。

 急に少し苦手な佐伯ヶ原が現れ、正直なところ会話には困る。


「椿は?」


「別行動してますよ。俺はこんな祭りには、興味ないんで」


「あぁ……」


「それで……あいつの事なんですが……」


 佐伯ヶ原が口悪く椿を呼ぶ事は知っているのに、『あいつ』と呼ばれると焦り心が出る。


「椿の事?」


「そうです」


「……なんだろ?」


「知ってます……?

 あいつが故郷に、この冬帰るつもりだって」


「……え?」


 全く予想外の言葉に、麗音愛は一度では理解できなかった。



いつもありがとうございます!


皆様のブクマ、評価☆、感想、レビューが

いつも励みになっております!

気に入って頂けましたらどうぞお願い致します!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] え~~ 琴音たゃん、ドレス用意できなかったんだぁ かわいそう~ヾ(*´∀`*)ノ゛キャッキャッ まあ来るんでしょうが…… 佐伯ヶ原君GJですぞ どこがどこと繋がってるか分からないし、馬鹿…
[一言] 佐伯ヶ原〜〜〜君なんていい奴なんだ! 許すぞ!うん、麗音愛と踊るの本当に許す! そうか〜YUTAは佐伯ヶ原のデザインを具現化していたのか…… それはいかん。いわゆる盗作ではないの…… ここ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ