夜のお茶会~ぴこ耳ご褒美~
奇妙な3人での夜中のお茶会。
珈琲の香りとチョコの香りが混ざり合う。
「ロカボ・ガトーショコラだよ」
ミントの葉が乗った焼いたチョコケーキ。
向かい側にいる椿も、微笑んでいる。
いただきますと言って頬張ると、ほどよい甘さと香ばしさが口に広がった。
ロカボとは炭水化物を控える事らしく、小麦粉を使ってないらしい。
「美味しい梨里ちゃん!」
「すごく美味しいよ」
褒める2人を前に梨里はにんまり笑う。
「かーいいねぇ、あんた達」
梨里のSNSでの話を聞きながら、2杯目の珈琲を淹れた。
「あ、椿。兄さんがさダンパの時に送るって」
「え? 本当? ……いいのかな」
「遠慮せず乗せてってもらいなよ」
「うん、佐伯ヶ原君とタクシー乗ってくつもりだったんだけど
予約を頼まれてて……慣れてなくて不安だったから。甘えさせてもらおうかな……」
「え、さ、佐伯ヶ原と!?」
まさかの名前に大声が出てしまった。
「あっ、あの髪を結いに来てくれるんだ。行く時だけ一緒に行くの」
心底ホッとした自分にまた気が付く。
でも、そんな事までするなんて佐伯ヶ原の本心はやはり……?
と疲れるほどに心乱れる。
呪怨の統制まで乱れてしまい、慌てて冷静さを取り戻す努力をする。
「あの……麗音愛、この前の女の子達……」
「あぁ~なんか女の子達からごめんなさいと謝られたよ。はは」
「私にも……連絡が来て」
「まじふざけんなしー! だよね」
梨里はSNSに写真をあげているのか、携帯電話を見ながら話す。
「ごめんね麗音愛、こんなふうになるなんて……」
どんな風になる事を望んでいたんだろう? と麗音愛は思う。
「……でも良かった……」
小さな声だったが椿がそう呟いたのが聞こえた。
「良かったよね! 姫」
「え!? あ、ごめんなさい良かったなんて言っちゃって」
「いや……」
『嬉しい』とは言えなかったが嬉しい。
もしも
『付き合えなくて残念だったね』と言われたら立ち直れない。
「あんな意地悪クソ女どもは玲央ぴに合わないっつーのね」
「意地悪?」
「言わないと、玲央ぴに酷いとか色々言われてたもんね」
「……そうだったんだ……」
「私が、しっかりしてなくて
本当にそうなのかと思っちゃって……逆に嫌な思いさせて、ごめんなさい」
「いや……そういう事だったんだね
俺こそ、俺のせいでごめん。もしまた言われたら呼んで?
その場に行くから」
「……うん、ありがとう」
お互いにホッとした顔をして、またそれを見て安心した。
「別にさ~、ペアってだけじゃなく誰と踊ってもいいんでしょ?
あたしも色んなメンズに誘われてんだけどさ~」
「うん、そうだったはず」
「玲央ぴ、去年は?」
「俺は友達と教室でサンドイッチ食べながら、ゲームして終わったよ。」
「きゃはは! 陰キャ~!!」
「まぁそのとおりだよ」
否定はしない。
ダンスパーティーと言っても、さすがに豪華な立食パーティーとはいかず
食券交換での軽食や缶ジュースでの食事だ。
飲食場は教室が割り当てられ
体育館はもちろんダンス会場。
一応有名私立学園らしく、寄付金や援助もあるらしい。
「姫、バカ龍とは行かないんでしょ?」
「うん、ごめんなさい」
「あたしに謝る事ないし~!
まぁ剣兄が送ってくれるなら、うちらも一緒に乗ってくだろうけど」
「梨里ちゃんは釘差君と?」
「まさかよ! あたしは~テキトーかな! 龍も姫狙いだからくっついて歩くかもね」
「それは……どうしよう梨里ちゃん」
「まぁ、場面でさ~。反省してるし、友達なんだからちょっと付き合い程度に踊ってもいんじゃね?」
「……うん……」
「ダンパの時は俺、体育館にいるから
困ったり、何かあったら来て」
「体育館。うん、わかった」
「裏方だけど、割りと自由に動けるから」
「うん」
「何かあったら必ず助けるよ」
言ってから、椿が目を丸くして恥ずかしそうに嬉しそうに
はにかんだのを見て
カッコつけてしまったと恥ずかしさが込み上げる。
梨里は思いきりニヤニヤしていた。
「カッコいいじゃ~ん。あたしの事も助けてぇえ?」
「つ、椿は親友だから! 親友だからだよ」
「そ、そうだよ! 私も多分暇だからお手伝いできる事あったら言ってね」
「そんな手伝いなんて、ドレスも着てるし、いいんだよ
そういえば、パントテン酸が実装されたよね!」
「そうそう! すごい強いんだって!」
「……はぁ? なんの話?」
「ビタミン☆バトルレボリューションの話だよ」
「ゲームゥ? ほんとオタクゥ」
「あのね、さっきね! ガチャで引いたら! ナイアシンが出たの!」
「ホント? すごい!見たい!」
2人でご馳走さまをして、片付けをし革張りのソファに座った。
椿は嬉しそうに携帯電話を取り出して、見せてくる。
ふと、クッションの下に固い感触。
「あ」
椿がさっき隠した本だ。
『各地鬼女伝説・伝承と考察』
バッと椿が取り上げて、後ろに隠した。
「ごめん、見ちゃって……難しそうな本だね」
「う、ううん! えへへ、なんか面白そうだなーって思って」
「そうなんだ……面白かった?」
「う、うん……まぁまぁかな? それでね麗音愛!」
そう言いながら、椿はローテーブルの下に本を隠した。
もうとっくに深夜の12時を過ぎている。
全然眠くない。
「そういえばさ、マフラーなんだけど……」
「ずっと借りててごめんなさい」
「いや、あんな俺のお古じゃ嫌だろうと思って……買いに行かない?週末」
「週末、ちょっと用事があって……残念だな」
「あ、そっか……まぁダンパ終わった後でもいいしね」
「あのね、あのマフラー……すごく好きなの」
「え? あれ? 特別いいとこのでもない……安いやつだけど……」
「でも、あの……すごく気に入ってて……」
「そうなんだ……あれで椿がいいなら、俺はいいけど……」
「本当!? じゃあ……代わりのマフラーを私がプレゼントしてもいいかな??」
「えっ。い、いいよ」
「同じ物の方がいいかな」
「同じ」
一瞬、お揃いのマフラーをして登校する姿を想像してしまうが、カップルでさえ見た事がない。
「お、同じは……もう売ってないかも」
椿も同じ妄想をしたらしい。
「そ、そうだよね。じゃあ一緒に行ける時があったら選んでもらうか……
私が……選んでもいいかな。この前のモコモコちゃんのお返しに」
お返しなんていらないのだが
好きな女の子が選んでくれたマフラーなんてご褒美以外何ものでもない。
「椿に、選んでほしい……俺センスないから……」
「うん、いつも何もお返しできないから頑張って選ぶね」
うさ耳が付いているのを忘れてたのか、恥ずかしいのを隠すようにパーカーを被る椿。
ぴょこぴょこして、それはもう可愛かった。
視線を感じて振り返るとまた、梨里が盛大にニヤけ笑っていた。
いつもありがとうございます!
ほのぼの回でした~(#^.^#)
泣いてばかりの椿も少しホッとしたのではないでしょうか。
でも麗音愛は椿の決断に何も気付いていないようです。
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