触れる指先・美子からの誘い
放課後。
麗音愛は裏方の打ち合わせをした後
美子に頼まれ図書室で棚の組み立てをしていた。
いよいよダンスパーティーも来週開催。
図書部でもダンスの本やマナー本などが特集として並べられている。
椿に頼まれた女の子達には数回メールのやり取りをして
直接会って話をしたが
皆が『何か違う』ような顔をして、謝られ終わった。
どうして自分が謝られるのか、と思ってしまったが
そんな事は些細な事で
椿に女の子を紹介された事実を思うと胸が痛む。
次の日から椿はいつもの笑顔で、2人はいつもの親友のまま。
胸の痛いまま――。
「……れお? 玲央?」
「あ、ごめん……もうすぐ終わる」
「こっちこそ
久々なのに、こんな用事頼んでごめんね」
確かに春に始まった図書部の整理も終わりかけ、活動に顔を出す事も最近では減っていた。
「いや、別に……今日は椿も遅いって言ってたし……」
「この前、椿ちゃん実家に行くって休んだの嘘でしょ?
実家なんてないものね……」
「うん、色々あって」
「……聞かない方が良さそうね」
「ごめん」
「ううん、前線から退いたんだもの。当然だよ。
……この前、椿ちゃん図書室に来てたよ」
「そうなんだ、椿も本好きだしね」
麗音愛が塾の時などは、何も聞かず別行動もする。
何をしたのか気になる時もあるが、聞く事はなかった。
「借りてもいかなかったけど、なんだか鬼の伝承とか鬼女伝説とか
調べてた。紅夜の事……かな?」
「わざわざ……そんな事? 聞いてなかった」
「あ、私が言ったって言わないで。チラッと覗いたら慌てさせちゃって
知られたくなかったかも……。
あと、桃純家の地方のガイドブックも見てたよ。また行くの?」
「椿の地元の……? 聞いてないけど……」
「そっか、玲央でも知らない事あるんだね
加正寺琴音とベッタベッタに忙しい?」
「してないって!」
「ダンパ誘わないの?」
「だから~……加正寺さんとはそういうんじゃ……」
「椿ちゃんを!」
最後のネジを締めようとしたところで、ドライバーからネジが外れ
床に転がっていく。
「……誘わないよ」
「なんで?」
「なんでって……」
何故なのか、理由はいくらでもある。
いくらでも説明できる。
「ダンパなんて、ただの行事だろ
椿も興味ないっぽいし」
「椿ちゃんを狙ってる男
いまだに沢山いるよね、川見先輩も相変わらず」
またネジを落としてしまった。
「だから、何」
「ダンパの雰囲気ってすっごくいいし
何があるかわからないよ?」
「何がって……」
「椿ちゃんが他の男の子と付き合ってもいいの?」
「いいわけないだろ」
『あ』と思って、またネジが転がっていく。
振り返ると、美子がニヤッと笑った。
椿が他の男と付き合う、そんな事を何度と無く考えてしまっていたからだ。
あの川見に手を握られていた時を思いだすと
どうしようもない想いに駆られる。
龍之介も本気だ。
それを、無理矢理抑え込んでいたのに
これからも、もしそんな事があったとしても抑え込まなければいけないのに、つい本音が出てしまった。
「……なんだよ」
「私的にもスッキリしたくて、さ。
私も結構ダンパに誘われてるんだよ」
「まぁ、そうだろうね。それと、どんな関係が……」
と自分で言っていて、ハッとする。
けれど、そんな事はないはずだ。
「椿ちゃんに告白、しないの?」
「……まずは紅夜を討たないと……」
また口に出してはいけないと決めていた想いを、出してしまっている。
椿には伝えられない想いを。
「ずっとずっと先になるかもよ?」
「……それでも、椿の未来を守るために……」
椿に想いを告げるのには、紅夜を討って安心させてから。
それまでは自分には資格がないと思っている。
「玲央ってそういう人だっけ?」
「え?」
「未来より、今を大事にっていつも思ってる感じだったよ」
「そんな……」
「バカみたいに、敵の巣窟に戻った人は誰よ」
「今が大事なんだよ
だから、未来を大事にしたいんだ
何より今が大事だって今も変わってない」
「そうかな……?」
「だから何が言いたいんだよ」
「紅夜を討つより大事な事があるっていう話」
「……え?」
「今まで沢山助けてもらったから、幼馴染の手助け
でも、ここまでね」
棚の前にしゃがみこんでいた麗音愛の前に、美子は来て
落ちたネジを拾う。
それを渡してきたので、手を出した。
その手のひらをギュッと両手で握られ、麗音愛は驚く。
美子は離さず、握ったままだ。
手を握り、下を向いたまま――。
「椿ちゃんと親友でいるなら
ダンスパーティーは私と踊って?」
「……美子……?」
「最低だってわかってるけど……
玲央の隣に椿ちゃんがいるようになってから、嫉妬する自分に気付いたの」
椿よりスラリと長い指で
冷え切っている麗音愛の手を温めるように、また握られる。
「同化剥がしの時……槍鏡翠湖から漏れ出た私の心
聞いてるでしょ」
何も言えず、ただ……頷いた。
「また、私の傍にいてほしいよ……」
自分を見つめる瞳。
兄を見つめていた瞳が、今は自分を望んでいる。
麗音愛の心臓がドクリと音を立てる。
動揺からなのか、自分でもわからない心臓の音。
「誘ってくれるの待ってる」
美子は立ち上がりながら手を離し、冗談っぽく笑った。
いつもありがとうございます!
いよいよ迫るダンパ!
美子に斬り込まれた麗音愛!
椿は一体何を考えて故郷を調べているのか……!!
作者もダンパに向けて気持ちが昂ぶっております!
是非一緒に楽しんでくださると嬉しいです(#^.^#)
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