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椿派リリィ

 

 椿がグルグルにマフラーを巻いたまま家へ帰ると

 梨里が夕飯の支度をしていた。


「おかー! 今日はグラタンだよー!」


「あ、ありがとう……」


「……なしたん姫」


 泣きそうになっている椿を見て焼こうとしていたグラタンを置いて

 自分より随分背の低い椿の顔を覗き込む。


「なにあった?」


「な、なんでもない。手を洗ってくる」


 手を洗い着替えてきた椿に、また梨里が立ちはだかる。

 龍之介は梨里に言われたのか部屋に行ったらしい。


「ご飯いつもありがとう……」


「今日、なんかしつっこくされてたね

 玲央ぴの事で」


 麗音愛の呼び方をまた変えたらしい。

 長いまつエクが伸びる大きい瞳が椿をロックオンしている。


「見てたの?」


「うん、勝手に断ったら玲央ぴに怒られるよって言われてたしょ」


「……うん……伝えない方が麗音愛にひどいって……」


「なにが~? って感じ。自分で言えや~でしょ

 で? どうせ帰りに玲央ぴに話したんでしょ?」


「……うん……」


 梨里は椿の手を引いて、本革のソファに腰掛ける。

 椿も黙ったまま一緒に座った。


「ああいうのは、友達って言わないんだからピシッと断りな」


「……うん……どうしたらいいか……わからなくて……」


「うっせー! って言えばいいんだよ。

 あんたの気持ちなんも考えてないっしょ」


「……私の気持ち……」


「そんな泣きそうな顔してさー!

 玲央ぴ怒ったん?」


「ううん、怒らない……麗音愛はいつも……いつでも……優しい……」


「じゃあ、なんで泣きそうな顔してるん?」


「……してないよ……」


「玲央ぴに、ダンパ行きたい女の子が他にいるよーって言ったんだから

 姫は、玲央ぴと行く気ないって事だよね?」


「……私……は……うん……」


「じゃあ、あたしまじで誘っちゃうよ?

 このナイスバディでさ?

 今からそんな顔しててさ、玲央ぴがあたしの彼ピになったらどうするつもりさ?」


 梨里の言葉に、顔をこわばらせるが

 すぐに笑顔を作ろうとして椿の顔は歪む。


「……そ、それは……

 ……それは……麗音愛が幸せなら……」


「恋は戦争だよ?」


「……麗音愛が幸せなら、いい……親友だもん……」


「……あんた本当、バカで可愛いね~」


「むぐっ」


 ぎゅーっと梨里は椿を抱きしめた。

 椿は驚いたが、突き放したりはしない。

 むぎゅむぎゅと大きな胸で包容された後は2回頭を撫でられた。


「玲央ぴもかっこいいから好きだけど

 あたし、あんたの方が気に入ったかも」


「梨里ちゃん……それは……」


「ん? このリリィが好きって言ってるんだから喜べよ姫ぇ」


「そ、そうだけど……それは、その感情は……

 ……あの、もうこの話はやめよ……」


「……姫……?」


「お願い……」


「あいあい、ほら、じゃあご飯にしよ」


「うん、ありがとう……」


 ピン! と梨里がおでこを突っつくと椿は苦笑いした。

 そこからグラタンにオーブンで焦げ目をつけ

 パンとサラダとスープも並び

 しっかりレイアウトしたグラタンを写真に撮ってからの夕飯。

 

 梨里の提案で生花を飾るのも当番になった。


「ったく、冷めるだろ」


「なら、食うな~いっただきまーす」


「いただきます」


 龍之介はあの一件以来、椿とは一定の距離を保ってる。

 でも一緒の場にいると椿を見つめているのには椿も気付いていた。


「あのさぁ、椿」


「うん」


「今度の休み、どっか行かね?」


「……釘差君と?」


「この前の詫びもしっかりしてねーしさ。

 前みたいな事は絶対にしないって誓う!

 誤解されっぱなしなとこもあるしさー!!」


「ごめんなさい、ちょっと……」


 ピッチャーに入れられた

 冷たいレモン水を、椿は全員のコップに注いだ。


「誘うタイミング悪すぎじゃね? 本当バカ龍」


「だって、ダンパまでもう時間もねぇし

 ちゃんと俺の気持ち伝えておきてぇんだよ!」


「週末、行くところがあるんだ」


「玲央かよ?」


「違うよ。ちょっと本部に用事なの

 あと……いつもありがとう。釘差君の気持ち、わかってるつもりだよ」


「椿!」


「でも、応えられない……ごめんなさい」


 何度も交際申込みを断ってきた椿だが、その言葉を伝えて

 相手がショックを受ける顔を見るのはいつまでも慣れない。


「あらら。また姫にフラれたねぇ」


「俺の何が足りないんだ?

 なんでも努力する」


「そ、そういう事じゃないよ」


「むしろ余計なもんがいっぱいって感じだねぇ」


「うるせー。 アホ梨里。黙っとけ」


「その口の悪さ、直せバカ!」


「釘差君、白夜団としてこれからも仲良くしてね

 梨里ちゃんとっても美味しかった。ごちそうさまでした」


 そう言うと、椿は夕飯を食べ終え食器を下げた。

 今日の片付けは龍之介だったので、そのまま椿は部屋へ戻っていく。


「ねぇ、龍之介」


「なんだ」


「あたし、椿派になるわ」


「あぁ?

 金欲しいんじゃなかったんかよ」


「まぁ、別にお金に困ってもいないし

 もらえるなら欲しいって感じだったけどさ」


「お前、俺を裏切って玲央の味方すんのかよ」


「だから姫の味方だっつーの。実際の玲央ぴの本心はわかんないし、

 あんたは?」


「俺だって椿の味方ではあるけどよ……」


「なんか、いじらしいしさ

 恐ろしい罰姫って散々言われてたのが、あんな感じで

 ちょいキュンってしちゃうっしょ」


「椿派って何するつもりだよ」


「う~ん、まぁなんもしないってのが椿派かなぁ

 あと加正寺琴音は嫌いだから~邪魔すっかも」


「まさか同化継承するとはなぁ……」


「あの子、なんか雰囲気変わったよ

 あんなきっしょいサーベルと同化してさ」


「そか?

 俺は割と好きだ。有能な女は好きだからな」


「じゃあ琴音にしろ」


「最近の椿は可愛すぎてヤバいんだよ、なんかそそる顔するんだよなぁ」


「あんた、チャームでもかけられてんじゃないの」


「はは、かもな」


 椿に告白を断られた事は、なかったかのように

 龍之介は笑った。



 ボサッと、ベッドに倒れ込む椿。

 手には畳んであった麗音愛のマフラーだ。

 ぎゅっと抱き締めると、麗音愛の匂いがした。


 哀しいのに、胸が苦しいのに、落ち着く匂い。

 今日、自分が話した事がどんな意味かわからないわけではなかった。

 知らない女の子を麗音愛に紹介した。

 出逢いを勝手に断ってはいけないと言われてしまった。


 その女の子はいつか、麗音愛の隣で踊る未来かもしれない。


 自分が踊る夢なんて見ちゃいけない。


 あの紅夜を目の前で見て、娘をどうするか言ったのを聞かれて、

 死闘をする羽目になった。

 根源の娘。

 最悪な化け物の王の娘。


 親友でいてくれるだけでも――ありえない奇跡。

 最近、泣いてばかりだと涙を拭い椿はマフラーを抱き締める。


 椿の携帯が鳴った。


「あ、小夏さん、こんばんは。折返しのお電話ありがとうございます、はい

 少し伺いたい事があって……」


 故郷へ戻った際に、知り合った大学生の小夏だった。




いつもありがとうございます!


皆さまのブクマ、評価☆、感想、レビューのおかげで

いつも頑張れています。

気に入って頂けましたら是非お願い致します



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― 新着の感想 ―
[良い点] りりちゃん頼もしい~! もうほんと、めちゃくちゃ邪魔してやってよぉ
[良い点] ここまで読んで、こっとねえええええ(ꐦ°᷄д°᷅) てなったよね!! 梨里ちゃんいいこ、だいすき! ギャルはやはし良い…( ˘ω˘ ) もうもだもだしてないでさっさと二人とも素直になれよお…
[一言] おぉ!梨里が椿派に!ヽ(;▽;)ノ 彼女が来てくれたら100万馬力だわ! つおいわ!きっと群がってくる、麗音愛の顔だけを好きになる奴らを蹴散らすわ! ふむふむ、良いぞ良いぞ!梨里良いやつじゃ…
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