ダンスパーティー誘いの期待
椿の事情聴取も終わった。
情報隠蔽もうまくいったと剣一から聞かされ、また日常に戻る。
しばらく何事もありませんようにと思いながら
カッツー達との昼食のあと
麗音愛は授業の用意と携帯電話をチェックし
テスト範囲のノートもさっと見る。
最近は、ますます日常がダンパダンパと騒がしい。
だがダンスパーティーなど、もう気にしない事にしよう。と麗音愛は決めたのだ。
椿は誰とも踊らないようで乗り気ではなさそうだし
見守りながら、裏方の仕事をすれば1日で終わる。
万が一に
そこで椿が、誰かと踊って付き合う事になったら……。
それでも自分とはきっと親友でいてくれるだろう。
思うだけで疼く動揺は、どうにか誤魔化そう。
きっと誤魔化せるはずだ。
傍にいられるだけでいい。
親友でいいのだ。
そして、椿も大学を目指すように誘って……一緒に。
大学進学は手が届く、目前の目標だったのに
今では、すごく遠く感じる。
日常が遠い。
椿の幸せのために……紅夜を討つ。
紅夜はいつ討てる、討てるのか?
病院で得た手がかりも結局何もわからないままだ。
あの妖魔王・紅夜あいつの存在が椿を永遠に苦しませ
続ける……。
「玲央先輩」
ジワリと殺気を滲み出してしまった。
慌てて平常心を取り戻し、声のした方を向く。
「……加正寺さん」
「先輩ったら~またそんな嫌な顔して」
琴音が可愛く苦笑いした。
「そんな事はないけど……」
また教室で注目の的だ。
でも視線の先は琴音だろうと思ってはいるが最近、何かおかしい。
なんだか麗音愛も視線を感じるのだ。
今までは嫉妬が刺さってくるのを感じたときはあったが……これは一体なんの視線だ。
「これ、お手紙です」
「ん?」
「なんか私と一緒にいるのを見た子から~
先輩かっこいいから連絡先知りたい、とか」
「いやいやいや……人違いじゃないかな。返しておいて」
「玲央先輩、かっこいいですから!」
「ち、ちょっと声を抑えて」
「え~、いいじゃないですか
私と一緒にいる時は……多分なんですけど~」
「何?」
「みんなにも、本当の玲央先輩が少し見えてると思うんですよね」
こそっと琴音が耳打ちした。
「……そんな事、俺は望んでないよ」
「え?
そりゃ私だって~……先輩が他の女の子によそ見するのはイヤですけど……」
「加正寺さん!
ちょっとこっち」
どんどん注目する人数が増えてきたような気がして
麗音愛は廊下へ琴音を誘い、人気のいない階段につれてきた。
「なんですか」
琴音は2人きりという事が嬉しそうだ。
「色々と協力してもらって
ありがたいと思ってる。曖昧にしておくって約束も覚えてる
でも……」
「でも……?」
口に出す前に、緊張してしまった。
それでもハッキリ今日は言う。
「……俺、好きな人が、いるんだ」
初めて、人に話した。
誰にも話すまいと思っていた、気持ちだった。
好きな人がいる、なんて言葉にする事になるなんて……。
「だからモテたいとか思ってないから」
「……好きな人がいても私達の関係って今までと同じじゃないですか?」
「それは、そうだけど……俺は」
「私は玲央先輩の幸せ応援団です~」
両拳を握り、応援団のように琴音は押忍! とおどける。
「え? 俺は今でも十分に、幸せだよ」
「いえいえ、ご本人の気付かない幸せもきっとありますよ」
「いや、俺の事はいいし……
それより加正寺さんも同化して……しまったけどさ」
「はい、とっても良かったと思ってます!
頑張って打倒紅夜! 紅夜を滅ぼす! 悪を倒しまーす!」
「声が大きいよ」
「今度みんなで遊びましょうね、椿先輩も一緒に」
「え? うん、そうだね。みんな一緒に」
コロコロと変わる話に、麗音愛は戸惑うばかりだ。
「今日来たのは用事があったんです
これ、この前のセーターのお詫びです。
似た感じの買ってきたんです。ママもしっかりお詫びしないとって」
「あれ、安物だよ。気にしなくていいし洗ったら落ちたし……」
「いいんです!
もし椿先輩にも素敵って言われたらお店案内するって伝えてくださいね
だから絶対着てください」
「え……わかった……ありがとう」
「じゃ!」
琴音に押し付けられたセーターは、無地の紙袋に入っていたが
中身は高校生ではとても買えない上質のカシミヤ製のブランド品だった。
悪い子ではないとは思うが、はぁっとため息が出る程
疲れてしまう。
自分の幸せを応援してくれる……幸せ応援団。
一体何をするのか、言葉としては可愛らしいと思った。
「麗音愛お待たせ!」
「おつかれー」
今日はお互いにダンスのクラス練習があり、待ち合わせして帰り道を歩く。
最近、少し髪が伸びてきた椿。
もう薄暗い道だが、たまに街灯に照らされた横顔が憂いに満ちたように見えてドキッとしてしまう。
「……あのね、麗音愛」
「うん」
「ダンパ……ダンスパーティーなんだけど……」
「あ、うん」
なんだろうか、そんなものどうでもいいと思い続けようとして
結局は気にしている。
「あの……あの……」
「ど、どうしたの……」
こっちを見ないで話す椿の顔は、戸惑うような顔だ。
でも恥ずかしそうにも見える。
経験がないから、表情から女の子の気持ちなんて読み取れない。
「ダンスパーティー……あの……麗音愛と一緒に」
「う、うん」
心臓が高鳴った。飛び上がった。
これは、これは……もしかして……?
少しの沈黙が、また心臓を高鳴らせる。
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