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曇リ笑顔

 

「椿ちゃん!! ありがとう!!」


 病院のベッドで夕飯を終えた椿に、剣一が溢れんばかりのプレゼントを持って現れた。

 有名店のスイーツに、美肌ケアグッズ、パジャマやカーディガンやスリッパなど

 ドサドサっと麗音愛にわたすとそのまま椿を抱きしめた。


「おい!」


「ありがとう!! 痛い思いいっぱいさせてごめん!」


「剣一さん、私が伊予奈さんを助けたかったから、自分の意志です」


「最高に良い子!」


 頬にキスしようとした剣一を麗音愛が引き剥がした。


「セクハラやめろ!

 明日には退院するのに、こんな大荷物……」


「いいだろ、家でも使えるし

 ここのスイーツまじ人気……ってあれ弁当残したの?」


 麗音愛が温めてきたデミグラスハンバーグ弁当が半分しか減っていないのを

 剣一が見たのだ。


「食べられるかなって思ったんですけど……」


「ごめんね、おかゆの方が良かったね」


「ううん! すごく食べたかったの、全部食べられるかと思ったんだ……けど……」


「……椿、加正寺さんと……何話したの?」


「んあ? 加正寺琴音がここに?」


「さっきも言ったけど、御礼を言われただけだよ」


 椿は微笑む。

 が、麗音愛は不安そうに見つめた。


 麗音愛が弁当を温めて部屋に戻ると、琴音の姿はなく

 ベッドで椿が薄暗い部屋で1人、いつかの屋敷で見たような人形のような顔をしていたからだ。

 まさか

 病院に行った事を話したのではないかと麗音愛は少し思ったのだった。


「今回の事は、同化が起きる前の力の暴走――

 想定外の事故という事で処理されるとよ」


「何があったのか聞けたの?」


「剣使用での型の練習中の事故……。

 最近急激に戦闘スキルが伸びてきてたらしい。

 同化目前って……この前初めて剣持った子がだぜ?

 でも伊予奈さんも、琴音ちゃんをかばってたよ。

 死にかけた本人がそういうから……なんも言えないよな」


「……まぁ、加正寺さんが伊予奈さんを殺そうとするとも思えないけどさ」


 修行旅行でも、琴音はなんだかんだ伊予奈にくっついている事が多かった。


「同化時の力の暴走と見ていると、さ。

 黄蝶露の同化は戦後初で、本家当主に従う気のある琴音ちゃんは

 加正寺副当主くらいの力を持つかもしれないな」


「同化なんて……美子みたいに後悔したとしても

 椿にはもう、同化剥がしなんて絶対させないよ」


 うつむいていた椿が、麗音愛を見た。

 それを見て、麗音愛は頷く。

 あの儀式の過酷さは2人にしかわからない。


「事故の反省はしてるけど、これから頑張るってやる気はあるようだぞ。

 あの子SNSでも人気だったじゃん? 大っぴらにはできないけどさ、白夜団の若者を

 盛り上げてくれるんじゃないか……なんて昨日の今日でそんな話……

 まぁいいか、今はそんな事」


 棚に置かれたプレゼントの中から

 新発売もふもふ君の親戚・もこもこちゃんのぬいぐるみを取り出して、椿の手に置いた。

 わぁ!

 と椿が驚き御礼を言う。


「伊予奈さんの婚約者さんと、さっき会ったよ」


「そうなんですか」


「改めて2人で伺うけど、御礼を伝えてくれって

 結婚式には是非来てほしいって言ってた」


「え! そんな……」


「命の恩人だもん、椿ちゃんは。ものすごい事をしたんだよ」


「すごいね椿」


 照れたように、えへへ……と笑うが、やはり元気がないように思える。

 手元の、もこもこちゃんをぎゅっと抱きしめても

 どこか儚げだ。


「椿ちゃん、何か不安な事があったらいつでも言うんだよ

 些細な事でもいいし、何でも俺でもこいつでもさ」


 不安そうに椿を見つめていた麗音愛の首を、グイッと腕で抱える。

 そしてニヒヒと場違いに笑い出す剣一。


「ダンスの練習してんのかぁ? 玲央」


「お、俺は踊る気ないし……裏方だから」


「椿ちゃんと踊ればいーじゃんか!」


「「えっ」」


 お互い、ダンパの話を踏み込んでした事などなかった。

 丸くなった目で2人見つめ合う。


「ねぇ? 椿ちゃん」


「あ……、わ、私も全然覚えられなくて……ダンス……」


 困ったように下を向く椿。

 少しの沈黙――。

 チクリと、麗音愛の胸が痛んだ。


「……だ、だよ。あのダンス、わけわかんないもんね

 本当、誰かさんのおかげで大迷惑な生徒もいるんだからな」


「なんだよ……もっと、気楽に楽しめばいいんだよ

 俺なんて女子全員と踊ったぞ

 椿ちゃんもじゃあ、男子全員と踊ればいい!!」


「何言ってんだよ!」


「ダンパでは兎に角、自己主張だぞ

 後から後悔しても、遅い……そういうもんだ」


「はいはい、わかったから!!

 椿、このプリンなら食べれる? 美味そうだよ」


「うん、ありがとうございます剣一さん」


「……ったく……お前らは……ほら! 一個800円だからな!」


 椿がプリンを食べるのを見届けると、剣一は帰っていった。

 少し2人でゲームでもと思い携帯電話を見ると、また2日分の

 友人達からの連絡が山のように溜まっている。

 驚いたが、それは後回しにして2人でゲームをした。


「今日は帰らないといけなくて」


 白夜団用の待合室に麗音愛は泊まっていた。

 そろそろ、両親も一度帰宅する頃だ。


「うん、明日は学校に行ってね」


「……わかった。行くよちゃんと」


「麗音愛、ありがとう」


「うん、じゃあ……」


 帰り支度をする麗音愛は、自分のリュックと

 隠すように紙袋を後手に持った。

 可愛い、ピンクの紙袋。

 明らかに麗音愛が持っているのは違和感だ。


「ピンクマショマローゼのだね?」


 モールにある、椿の好きなファンシーショップだった。


「あ……そう。そうなんだよね、えっと……」


「どうしたの?」


「いや……あのバカ兄貴に、先越されて……」


「え?」


 椿がベッドで抱えたままの、もこもこちゃんを麗音愛はチラッと見た。


「もう一匹いても……いいかな」


 ガサ……と紙袋から、もこもこちゃんが出てきた。


「あ!」


「もふもふ君も取りに行けないし……新しい子って思ったんだけどさ

 ……でもおんなじだよね」


「ち、違うよ!!」


「そう?」


 麗音愛はブンブン頷く椿に、もこもこちゃんを渡す。


「ほら、お顔が違うでしょ。ここの目の感じが違う!」


 ぎゅうっと椿が二匹抱きしめた。


「可愛がってもらえそうでよかった」


「あ、私、いいのかな……」


「受け取ってもらえないと、その子は俺と寝る羽目になるよ」


 ぷっと2人で吹き出した。


「ありがとう、麗音愛」


 やっと少しいつもの笑顔になった。


「事情、聞かれると思うけど夕方来るから」


「うん、あ、あの……麗音愛」


「うん」


 紅夜の魅了の呪い……

 そんなものが本当にあるのだろか。


「ううん、なんでもない」


「……どうしたの? なんでも話していいんだよ」


「……最初」


「最初?」


「1番最初に会った時、どう思った?」


「……死ぬかと思った」


「うん、それで……」


「怖かったよ。どうしたの?

 すごく怖かった! はは」


「だよね……ごめんなさい……」


「もう笑い話だよ、それがどうか?」


「ううん、なんでもない」


 そんな事が決定的な証拠になるわけでもない。

 でも今まで罰姫だと罵られてきたのだ。

 天海紗妃も自分を憎んで憎んで死んだのだ。


「椿……?」


「ちょっと昔を思い出したの

 おやすみなさい、麗音愛。もこもこちゃんありがとう」


「うん、おやすみ」


 ドアが締まり、一人ぼっちの病室。

 琴音に言われた事など言えるはずもない。


 麗音愛が自分に優しいのは、紅夜の魅了の力なのか

 他の友人達も同じように魅了で騙されているのか……。


『私はあなたが大嫌いですから』


 それよりもっと酷い言葉を何度も言われてきた。

 慣れていたはずなのに

 仲間だと思っていた琴音に言われた言葉が、胸を突き刺す。

 ポタポタと涙が溢れ

 二匹のもこもこちゃんにかからないように慌てて拭う。


 親友の絆さえ、汚されてしまう言葉。


 佐伯ヶ原に撮ってもらった神社での2人での写真を見た。

 心が少し慰められる。


 そういえば、皆にメールを返さなければと椿はひとつひとつ読んでいく。

 沢山のメールのなか、椿の友達を介して

 麗音愛はダンスパーティに誰と行くのか聞いてほしい、琴音は恋人なのか

 というようなメールが5件もきていた。




いつもありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今の椿は麗音愛の優しささえも辛い事と判断してしまいそうだ。 本当、あの子、絶妙なタイミングで五寸釘を心臓に打ち込んでくれるよなぁ〜(´༎ຶོρ༎ຶོ`) 今は見守ることしかできないね……
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