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ささやかしあわせささやき

 

 麗音愛が学校を

 抜け出した時間は1時間程度だった。


 戻る際に2組の椿のクラスを

 ふっと見る。

 窓際で真っ直ぐに黒板を見る椿の横顔。

 安心したのは、椿の無事を確認したからじゃない。

 自分が帰ってこれたと思えたからだ。


 呪いのおかげか保健教諭は麗音愛の存在を忘れていた。

 こっそりロッカーから出して着たジャージの理由を

 水道でよろけて濡らしてしまったので、と告げると早退を勧められてしまう。


「麗音愛……!!」


 仕方なく昼休みに帰り支度をしていると

 メールを見て心配そうに椿が駆けつけた。


「椿、ごめんね。大した事ない……というか元気なんだけどさ」


「でも、だって……私の風邪が……!?」


「違う、違うよ。本当に、大丈夫

 先に帰ることになっちゃってごめん」


「わ、私も一緒に帰る!」


「えっ」


「あ……そ、そ、そんなの無理だよね」


 真っ赤になって慌てる椿。

 皆が可愛いと言って見ているが

 誰よりもそう思っているのは、自分だと思う。


「じゃあ、私、学校終わったらすぐに帰るから、病院行く? 寝てる?」


「病院は必要ないから寝てるかな」


「うん……」


「椿、本当に大丈夫だから」


「でも……でも……親友が具合悪いんだもん」


 麗音愛が体調を崩すなど聞くのが

 初めての事で、椿はかなり動揺しているようだ。


「椿」


「はい」


 あまりに不安そうにするので手招きすると

 椿がそっと麗音愛の傍に来る。

 ふわっと、すごく良い匂いがして、呼んだ自分がドキドキしながら

 コソッと耳打ちした。


「少し妖魔を退治してきて学ランが破けただけ、心配ないよ」


「えっそうなの?……あ……うん、わかった、だ、大丈夫なの?」


 今度は椿に耳元で囁かれた。

 いつの間にか、すごく大事になった声が耳元で。


「大丈夫、ただの雑魚だよ」


「よかった……」


 咄嗟に嘘をついてしまったが

 椿の微笑みに釣られて、麗音愛も微笑む。

 ふんわり……と幸せな空気が流れた。


「お前!! 俺の椿ちゃんに何ヒソヒソ話してんのオラァアアアア!!」


「「「誰がお前のだ!! カッツー!!」」」


 それは教室中の男子の叫びであった。

 が、麗音愛に対しての暴言も少し聞き取れた。

 女子もガヤガヤと説教したりと大騒ぎになる。


「みんな、好き勝手言ってるな……」


「麗音愛、私、放課後になったらすぐ帰るね!」


「椿ちゃ~ん

 今日2組女子、放課後ダンス練習じゃなかった?」


 ダンパに向けて学校は大盛りあがり中。

 文化祭のように飾り付けなど徐々におこなわれ

 毎日放課後に実行委員会が開かれたり

 ダンスの練習もあちこちで見かける。


「あ……でも、行けない。今日は麗音愛が……」


「椿、俺は大丈夫」


「でも……」


「今日、ダンス部が教える日だから~できるだけ参加してほしいな~」


 多分その子はダンス部なのだろう。

 人気のある椿が参加すると参加者も見学者も大幅に増える。

 それが入部希望者につながるわけだ。


「椿、ダンスの練習してから帰っておいでよ」


「でも……」


 何か言いたげなそうな顔をしていたが、椿は頷いた。


「うん……そうだね、うんわかった」


「メールするね」


「うん」


 もう昼休みも終わりギリギリのなか

 椿は玄関まで見送ると一緒に歩く。

 どんどん寒さは増して、中庭の紅葉は半分落ちていた。 


「あのさ」


「うん」


「前に……晒首千ノ刀の事、褒めてくれてありがとう

 かっこいい……ってさ」


「あ、露天風呂での……」


「そ、そう」


 あの露天風呂を思い出し、熱くなった顔を見られないようにした。


「麗音愛、さっきの闘いで何かあったの?」


「いや、なにも。ただ嬉しかったから頑張れてる」


「いつも、思ってたの……言うのが遅くなっちゃっただけで」


「椿の緋那鳥も、かっこいいよ」


「麗音愛」


 拳を出すと椿も拳をコツンとぶつけた。 

 親友の合図。


 すぐに

 麗音愛はバッと靴を履き替え『じゃ』と手を振って玄関から出て行く。


 カッコつけた事を言ってしまったと、また更に顔が熱くなって

 走ってしまった。


 驚いて照れたような顔がまた、可愛かった。

 恋心が疼く。


 離れてすぐ、寂しくなる。


 椿が、ダンパ用の誰かと踊るダンスを練習する事への気持ちは

 もちろん複雑だ。


 何も知らない、学校のクラスメートだったら

 自分はどうしていただろう。


 でもこんな地味な自分では

 告白なんておろか、話すこともできない――遠い存在だっただろう。

 笑顔が見られて

 あんなに心配してもらえて、それで満足するべき……なのだ。


 親友なのだから……。


 家に着くと、新品のスーツが届いていてリビングに置かれていた。

 新しいものなど不要だと言ったのに、母か父かが注文したらしい。


 グレーで少し光沢があり、麗音愛からすれば派手だ。

 去年、適当に自分で選んだネイビーは家族から地味だ、制服か、と

 評判が悪かったが、またあれを着ようかなと考える。


 さっきまで妖魔と戦っていたのに

 また高校生に戻れた。

 戦闘を終えた疲れから

 シャワーを浴びて横になると睡眠不足もたたって麗音愛は眠りに落ちた。





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― 新着の感想 ―
[一言] 何だか段々と麗音愛と椿はこれで良いような気がしてきた。 高校生であるから親から独立できていないこの時期には親友が一番近い位置にいる訳で、言うなれば恋愛ではないから引き裂かれることもない訳で……
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