椿、初めての熱
送迎人に気付かれないように、低空飛行で
そっと降り立った麗音愛。
林の中で立ち尽くしたままだった梨里は震えている。
「遅いよ! あたし風邪ひいちゃうじゃん~~!!」
「鹿義、椿に黙って出てきたな?」
「……あ~急な任務だったし」
詰め寄られ、一歩引いた梨里。
踏みつけ、小枝の折れる音がする。
「俺にきた依頼は急だったが
さっきのメールは日付が昨日だった」
「すぐ終わると思ってたし
まっさかバカ龍が、姫になんかすると思わなかったしさ」
「……鹿義
言っておくが俺が白夜団にいるのは椿のためであって
いつでも抜けるし、団員相手でも容赦しない」
麗音愛の周りを殺気……呪怨が包む。
一層の寒気が襲ってくる。
「な……」
「家名だかにこだわって俺にまとわりついたり
椿を傷つけるなら、リスクが高いぞ。
俺はそんなものいつでもぶち壊してやれる」
「……
……な、なに~そんな怖い顔してさっ
やっだな~
てかバカ龍だって、ただ姫の事落とそうとしただけっしょ?
ちょっと強めにさ」
殺気を笑い飛ばすようにして、梨里は歩きだす。
「それが!」
「それって、恋愛ごとじゃん?
いくら友達だって、玲央っぴは口出したらダメでしょ」
「……それは……そうかもしれないけど」
「彼氏ならわかるけど、親友でしょ?」
「……そうだ」
「バカ龍はボコるから!
姫にはもっと上手なあしらい方教えておくし~
とりあえず帰ろ~よ
さっきから任務完了まだかって連絡きてんだよね」
「椿は、今兄さんのところにいる。
報告はしない事、龍之介にも伝えてくれ」
「はいはい」
なんだか
うまく丸め込まれた気がしてしまうが
これまで、友人関係も男友達3人、美子。
たまのクラスメート、図書部員。
そんな地味で狭かった
そこからの今、この人間関係図。
自分でも処理できるわけがないだろうと思う。
椿も何か隠している……。
だが龍之介に何をされたかは聞かない方がいいだろう。
それでも今は、自分の__
椿の為ではなく
自己中心的な考えで龍之介を殴りたい。
椿に何をしたのか、問いただして
傷つけた報いを、自分の嫉妬とともに殴りつけたい怒りでいっぱいだった。
梨里とワゴン車から
同じマンションの前で降りる。
「ねぇ~……
なんでも言うこと聞くって約束は~?」
「……はぁ。そんな事
椿に嘘をついた事でチャラだ」
「えー!!
ずるい! 玲央っぴも嘘つきじゃん!」
「あぁ~もう……
コーヒーくらいでいいだろ?
鹿義達のせいで、今回の事が起きた
団長に、言おうか?」
「……玲央っぴ、いんけ~ん」
「どっちがだよ」
無意識に殺気立ったようで梨里は
「……わかったって~じゃおっつ~」
と言って3階で降りていった。
急ぎつつ、それでも両親がいたらと思い
静かに部屋に入る。
兄の部屋の明かりしかついていない。
祖父は就寝。
ノックしてそっとドアを開けた。
「麗音愛……」
剣一のベッドで布団にくるまった椿が
起き上がる。
麗音愛のスウェットを着て
おでこには冷えペタがついていた。
「椿……大丈夫?」
「うん……」
「お疲れさん、ちょっと熱が出るかもしれないな。今、微熱がある。
寒気もするっていうし風邪ひいちゃったかな」
「熱……」
「風邪なんてひいた事ないのに……ごめんなさい
早く自分の部屋に行かないと……」
「椿ちゃん、気にすることないよ
どっちがゆっくり眠れるかだけど……初めての熱だと心配だな」
起き上がろうとする椿を止めて
また肩まで布団をかけた。
「こんなに迷惑かけてしまうなんて……ごめんなさい」
「兄さんは俺の部屋で寝ればいいし、大丈夫
何も心配いらないよ」
「じゃ、俺、お前の部屋で寝るわぁ
龍之介には個人的に厳重注意しといたからさ」
「同居解消はできないの?」
「雇われ若造部長にそんな権限あるかよぉ
お前、ここで寝るの? 布団持ってくるか?」
「え?
えっと……」
「団長様方は帰ってきませんし、椿ちゃんも不安だろうから
いてやれよ」
剣一は少しニヤッとしたが、そのまま優しく伝えた。
「つ、椿がいいなら……」
「風邪をうつしてしまわないか、心配で……」
「大丈夫だよ」
頬が紅潮した椿は、微笑んだ。
何も起きないと、思って離れた半日。
また
あの椿が血だらけになった日を思い出す。
ルカは……本当にただ椿の様子を見に来ただけだったのか。
「ごめんね……麗音愛」
「謝る事なんてないよ」
椿が、こんな風に謝らなくていい世界にしたい。
当たり前の心も身体も自由に。
早く、紅夜を討ち滅ぼして
安心して眠れる世界を__。
早く紅夜を……。
焦ることではないのはわかっているのに、どうしても
早く状況を好転させたい。
そんな想いとは裏腹に
椿の熱はどんどん上っていった。
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