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乗れないブランコ~紅夜会・ルカ接触~

 


 上着も携帯電話も財布もなく

 キィ……と椿はもう秋も深まり凍えるブランコに乗っていた。


 トレーナーとジーンズにスニーカーだけの姿で

 どんどんと身体は冷えてくる。


 だがこんな寒さなど平気に思える……。

 今は少しでも自由があるのだから。


 あの家の庭にあった幼子のためのブランコ。

 どんどん自分の身体が大きくなって

 ブランコはボロボロになっていって

 乗れなくなっていくのが悲しかった。


 とても楽しい事が明日には、明後日には

 その次には……いつか

 なくなってしまう……。


 龍之介の言葉に動揺してしまった。


 胡蝶の夢だと、わかっているのに……。


 このまま麗音愛と一緒にいたら辛くなるのだろうか。

 学校のお友達のように

 こんなに大好きな気持ちが、嫌いになってしまうことなんてあるのだろうか。


 考えられなかったが、同じように未来も見えなかった。


「……寒い」


 やっぱり寒い。


「……麗音愛……」


 もう帰ってきたのだろうか。

 今回の件は規則違反で、何か罰が与えられるかもしれない。

 がっかりさせてしまうだろうか……。


「くしゅん」


 いつもみたいに、麗音愛が来てくれる……

 そんな夢を見てしまう。


 少し遠くの街灯に照らされて、やってこないだろうか。

 ぼんやりと、光を見つめていると

 ふいに人影が現れた事に気づく。


「姫様」


 緊張で身体が凍りつく。


「……ルカ!!」


 ブランコから立ち上がろうとする椿をルカが、手で静止する。

 一瞬で街灯の下から目の前に現れ、椿は息を呑んだ。


「戦闘するつもりはございませんよ」


「何をしに……!」


「無理してお連れする気も、通行人を殺めるつもりもございません」


 ルカはリボンのかかった上質のブランケットを

 椿の前に捧げた。


「いらない」


「お身体に障りますよ。

 白夜を飛び出して、こちらに来る気になりましたか?」


「ならない」


 そう話しながらも、椿はどの武器を使用し

 どの間合いで攻撃するか考えを巡らせている。


「何をしにきた」


「あの釘差龍之介という男

 殺しておきましょうか」


「見てたの!?」


「いえ、そこまでの事は……姫様もお年頃ですからね

 でもどこで誰かと一緒だったかは把握しておりますよ」 


「……絶対にそんな事しないで……」


「承知しました」


 紅茶を頼まれたかのように、ルカはにっこりと微笑む。


 以前の倉庫での呼び出しを思い出してしまう。

 失態に失態を重ねた。

 内通していると思われかねない。


「白夜の者には気付かれていません、ご安心を」


「……そんな言い方しないで、私のいる味方の組織だよ……」


「本当に姫様は純粋無垢だ。

 今日はこれだけですよ。あの男を呼んであげましょうか」


「……!

 麗音愛に何かしたら許さない!」


「飛び回って姫様を探しておりますよ。

 お風邪をひかれるくらいなら、あいつにお任せ致します」


「麗音愛が……」


 椿は空を見上げるが、その気配は感じない。

 一瞬、椿はブワッと自分の周りに炎を発した。


「……気付きましたね。

 それでは、僕は行きますよ」


「何の用事だったの……」


「お顔を拝見しに」


 わざとらしくルカは使い捨てのインスタントカメラで

 パシャっと椿を撮った。

 フラッシュが瞳に残る。


「何かあれば、いつでも

 姫様の生きやすいように、邪魔な枝は剪定してさしあげますよ」


「やめろ……!」


 麗音愛の闇が降り立つ瞬間にルカもまた風のように

 消えた__。



「椿!!」


「……麗音愛」


 緊張でブランコに座っていた椿は立ち上がると

 寒さもあって、身体がこわばり前に倒れ込みそうになる。


 ふわりと暖かさに包まれた。


「椿、大丈夫か!」


 麗音愛が自分のコートで椿をくるみ、抱き留めていた。


「麗音愛……」


「今いたのは、ルカか……?」


「うん……」


「何があった……?」


「ルカは……飛び出してきたから……

 白夜から逃げたと思ったみたいで、そっちに行く気はないと言ったら

 理解したみたい……」


 冷え切った身体が、ぬくもりに包まれて

 椿は孤独がほぐれていくのを感じる。


 親友のままでいられたら、友情のままだったら

 きっと、切り裂くような痛みもなく

 龍之介の言うような未来がきても何も思わず傍にいられた。


 でも、どうしても

 それでも……この人が好きでたまらなくなってしまう。


 すがりつきたくなるのを抑えて、椿はそっと離れた。


「コート……麗音愛も寒くなっちゃう」


「いいからそのまま着てて

 椿、龍之介には何をされた……?」


 ぐっと、椿は息を飲み込む。

 恋心を押し込むように。


 結婚だの、なんだの

 そんな話をしただなんて

 麗音愛に知られるわけにはいかない。


「なんでもないの……」


「なんでもないって……」


「本当だよ。

 腕掴まれて

 怖いゲームしてたから、びっくりして逃げちゃっただけ」


「……ゲームしててって……」


「本当なの、くだらない理由で……ごめんなさい」


「腕って……乱暴にされたの?」


「ん、う~ん

 えっと……

 びっくりして怒鳴っちゃったから……気まずくて……ごめんなさい」


 麗音愛は、少し黙ったがそれ以上は何も言わなかった。

 ポケットからカイロを出して、それを冷たい椿の手に握らせる。


「……わかった

 俺の部屋でいいから帰ろう

 椿、震えてる。龍之介のやつは明日殴る」


「麗音愛、お願いそんな事しないで……

 釘差君……もう喧嘩したりしないって言ってたんだ」


「……とりあえず、行こう

 ごめん、任務の途中で戻らないといけない……」


 ひょいと麗音愛はコートにくるまった椿を抱き上げ飛び立った。


「任務だったんだね、ごめんなさい

 大変な時に」


「龍之介が全部悪い

 とりあえず、兄さんがいると思うから兄さんの部屋にいて

 帰ったら話を聞くから……大丈夫?」


「ごめんなさい……麗音愛」


「何も謝らないで、あの2人と一緒に暮らすなんて

 騒がしくて疲れるよね」


「……親睦会だってパーティーをしていたの……」


「え? 2人で?」


「ううん、梨里ちゃんと3人で……」


「……鹿義と……」


「麗音愛?」


「いや……帰ったらあったかいココアを淹れてもらおう」


 剣一がベランダで待っていた。

 両手を出す剣一を避けて、椿をそっと床へ降ろした。


「俺にも抱っこさせろよ……

 じょーだん! さ、早く部屋へ」


「麗音愛!

 待ってる……」


 すぐに自分に着せてくれた上着を麗音愛に渡す。


「わかった!

 すぐ戻るよ。兄さんあったかいもの飲ませてあげて」


「あぁ用意してある。気をつけろよ」


 麗音愛は頷きながら飛び立った。

 約束の45分は10分過ぎていた。



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― 新着の感想 ―
[一言] 思いやりの度合いが全然違う。 見よ!そして感じよ!麗音愛のこの安心感を!
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