俺はハーレムなんて望んでないのだが
「先輩の教え方、上手ですね~」
「そうかな」
「はい、家庭教師の先生より、わっかりやす~い」
ムンバで待っていた琴音に約束通り勉強を教えた。
教えながらも病院について考える。
フロアマップには地下1階にも外来の科はあったが
それより下の説明はない。
もちろん紅夜会の施設が一般の目に触れる場所になど
あるわけはないだろう。
この事を……誰かに相談するべきか……。
1番信用できるのは、兄の剣一だが
特務部長としての立場もある。
こだわってはいないと言うが、兄の積み上げてきたキャリアを
自分への協力で失わせる事になったら……。
「……ぱい……先輩……?」
「あ、ごめん」
「また来ますか?」
「……いや……」
「私はいいんですよ、いつでも」
「そこまで甘えるわけにはいかないよ
今日少しわかったし……」
『それに、あまりこうして2人でいるのもよくない』
と言いかけて、やめた。
曖昧にしておくのも約束のうちだ。
「でも今日だけで、わかった事があったとしても
何も進展はしていないんですよね」
琴音の言うとおりだった。
ほんの少しの手がかりを掴んだだけで
何も進展はしていない。
「調査部の方でも、どんな情報を掴んでいるのか
また調べてみますよ」
「加正寺さんが、そこまでする事はないよ」
「……白夜団って、なんか腐ってません?
玲央先輩への見張りとか、椿先輩への今までの仕打ちとか」
キラッと琴音の瞳が、麗音愛を見る。
「それは……俺も思ってる」
「白夜も見張りつつ、紅夜を討つなんて
1人じゃ絶対に無理ですよ」
「どうして、そこまで……」
「そこは、正義の味方でいたいって事にしましょうよ」
上目遣いで微笑まれ、一瞬心臓が揺れてしまった。
また琴音は嬉しそうに笑って、新作のフラッペを飲もうとしたが
もう空っぽだ。
「玲央先輩、ブラックコーヒーが飲みたいで~す」
「わかった。買ってくるよ」
御馳走するのも約束のうち、と麗音愛は席を立つ。
それから、また勉強を教えて
結局、今後の行動も曖昧なまま。
でも琴音は『じゃあ、また連絡します』と駅でそう言って帰っていった。
毎週末、数時間あの病院に行ったところで
ばったり紅夜会と都合よく鉢合わせできるとも思えない。
鉢合わせしたところで病院で、戦闘になっても困る。
日中……深夜……。
見張りがつかない時間帯は、学園内にいる時間も含まれる。
そこをどうにか利用して再度調べに行くか。
まずはあの病院の情報を探りたい。
そして、琴音を前に
良い先輩、後輩としか思っていない、でも曖昧に。
と振る舞うのはとても疲れてしまった。
早く帰ろうと思ったその時
携帯電話の着信が鳴る。
白夜団からの着信音だ。
依頼がくるかも、と兄から話をされていたが、やはりそうだった。
「今日中には帰れなさそうだな……はぁ……」
椿に電話をしたが出ない。
とりあえずメールで遅くなる事を伝えた。
龍之介と梨里がいる事が不安になるが、椿も
立派な桃純家の当主だ。何をするでもないだろう。
駅前で待っていると、迎えのワゴン車が停まった。
考え事をしながら、もう慣れたように開いた扉から中に乗り込む。
「れぇ~~おっ!」
「!?」
1番後ろの座席に座ろうとした途端に、むぎゅうと柔らかいものに
抱きしめられる。
これは__!!
「鹿義!!」
「おっつ~」
離れようとしても、がっちりと腕が首にまわってホールドされ
ぐりぐりと梨里の豊満なおっぱいが顔にぶるんぶるんと当たる。
「ちょ!! やめろ!!」
腕を掴んで、なんとか脱出したが
麗音愛の頭は混乱中だ。
おっぱいを顔面で受け止めてしまった。
初めての感触__!
罪悪感で
何故か椿を思い出してしまう。
今日はポニーテールにした梨里だが
胸元が開いたようなワンピを着てダウンのジャケットを羽織ってる。
これから任務に行くとは思えない格好。
それでも運転席を見れば白夜団のいつもの送迎人なので
任務なのは間違いないようだ。
「どったの?」
「ど、どったのじゃない!
こういう事、本気でやめてくれ」
「ただの挨拶じゃ~~ん
おっぱい嫌い?」
「嫌いじゃないけど!
鹿義に興味はないよ」
ケラケラと笑う梨里。
大きなピアスが揺れる。
「あたしには随分ハッキリ言うんだね?
女の子だよ? あたしだってぇ」
「それは、わかってる
……言い過ぎたなら、謝るよ」
「い~よぉ
他の女子にはハッキリ言わない玲央っぴが
あたしには言いやすいなら、それもいいじゃん!
バディだしさ、うちら」
「バディ??」
「うん、玲央っぴの安全性が確認されるまで~だけど
よろしくねぇん
今日の任務、がんばろっ玲央っぴぃ」
「なんだって?」
梨里が見せてくる携帯電話の画面には
麗音愛との任務命令のメールが光っていた。
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