想いそれぞれ
有名人の転校生が続き、学園は騒がしい。
剣一が在校していた以来の大騒ぎ。
琴音はもちろん
転校2日目で、もう龍之介と梨里の周りにファンクラブのようなものが
でき始めている。
椿のファンクラブは、椿が相当に嫌がり
椿フレンズの反発で作られなかった。
それでも今日もダンスパーティーの誘いはくる。
それなりに話を聞いて、お断りして椿は自分の机で一息ついた。
もう、申込みが『当たって砕けろイベント』と化しているような状態だ。
「つばちん~、本当に女同士でダンパ~?」
「うん、それで十分に楽しいと思うから」
詩織は椅子を寄せて
修学旅行で買ってきたブランケットを椿と自分の足にかけた。
「でも、みんな誘われてるから当日一緒にいられるかわかんないよ?」
「うん、それならそれで1人でブラブラしてもいいし」
「……玲央君は……あのお嬢様か転校生ギャルか図書部部長?」
「えっ……わ、わかんない……」
「玲央君の事、誘わないの?」
「さ、誘わない! 親友だもん!」
友達の詩織の言葉にぎょっと驚いた椿だが
きっぱりと否定する。
男女交際をするような関係の2人が行くようなダンスパーティーに
自分が誘ったら
麗音愛に自分の気持ちに気付かれてしまうかもしれない。
今まで以上に2人でいるのが難しくなっている今
もし困らせて、嫌われてしまったら――。
あの離れた数日を思い出しただけでズキズキと胸が痛む。
あんな想いは二度としたくない。
最近はラーメン屋で言われた
『バレないように……迎えに行くから
バレないように俺の部屋でゲームしよ』
という言葉を思い出すだけで、椿はニヤけて幸せな気持ちになった。
「玲央~お前生徒会なんて呼ばれてどした? ぎぃっ!」
ダンスパーティームードの学園で1番の負のオーラをまといし男カッツー。
コッペパンをワイルドに噛みちぎり
ダンパの話でいちゃつくカップルにガルルルと威嚇した。
「ダンパで裏方やってくれないかってさ」
「むひょひょ!! やれ! 裏方やれ!
お前は裏方が合ってる!」
「おいカッツー」
西野がドウドウと肩を叩く。
「だってよぉおおお
お前、お前……あれ? 去年も俺らと回ったよな?」
「あぁそうだよ」
呪いの影響で過去を振り返って
忘れられている事も当然として起こる事だった。
「そんな陰ぼっちのお前が
今年はギャル? お嬢様? 図書部長?
よりどりみどりで困ったよ玲央君とかふざけんなよぉおおおおお
エロゲかよぉおお」
「なんだよ、それは
あるわけないだろ」
転校初日に
離れて登校したにも関わらず、梨里からの密着が見られてしまい
また噂話が加熱してしまった。
しかし琴音からは、あれ以来学園での接触はないし
美子ともダンパの話などした事もない。
「カッツー意外にギャル好きだからな」
「俺は、お前らと回るつもりだったし……
裏方も引き受けようかと思ってるよ」
「れぼぉおおおお!!
俺達ズッ友!!
お前がモテるとか俺は許さない!!」
「えっ……だって玲央、椿ちゃんは?」
「椿は? って……お互い友達と、いつもみたいに」
「そうなんか……」
石田が優しく苦笑いをする。
生徒会に呼ばれて裏方を頼まれた理由はなんとなくわかった。
生徒会長は以前から椿にアタックをしている1人で
どうやら、いつも一緒にいる麗音愛を引き離したいようだったのだ。
だが麗音愛も
そんな生徒会長の恋のキューピッドをするつもりはない。
多分、ダンパ当日も椿に言い寄る男が多数現れるだろうから
裏方をやっていた方が
困っている椿を助けられるんじゃないかと思ったのだ。
もちろん当日は動き回れる役回りを担当する話もしてきた。
まぁ、それも言い訳で
当日にもしも椿が他の男と一緒にいるようなことになったとしたら
忙しい方が、まだ気が紛れるのではないかと思ったのだ。
「じゃ、俺らも裏方すっか~」
「え、でも別に」
「一緒に裏方やってた方が、何かあった時
動きやすいだろ」
「そだな~女の子と一緒じゃなくても言い訳できるし
裏方の思い出作ろうぜ」
「西野、石田」
「俺はそんな事したくねぇえええ!!
可愛い女の子を私に~女の子を私にください~くださいぃいい女!」
カッツーが急に踊り歌い出したので、麗音愛の教室に
また女子の悲鳴が響いた。
自動販売機の並ぶ廊下で
梨里と龍之介はそれぞれコーヒーを立ったまま飲みだす。
チラチラと行き来する生徒に見られるが
2人はもう慣れたものだ。
梨里がウインクすると、見ていた男子生徒が顔を赤くして
走って逃げていく。
「アホ梨里、あんま目立つんじゃねーよ」
「バカ龍、あんたもね。
ここガリ勉学園って聞いてたけどそれなりにイケメンいるね
川見ってのそれなり~でもやっぱ玲央かなー
ちょいピンボケしててもね」
「女子も~まぁ椿の周りの女子はレベル高かったな
1番はやっぱ椿」
「姫の事、嫁にして幸せにしてやんなよ」
「あぁ、白夜団公認の縁談話だし
桃純の血も入れて、釘差も七当主の仲間入りだな
お前は咲楽紫千家に嫁入りか」
「ん~まだ、わっかんな~い。あっちも試してみないと……。
とりあえず報酬は欲しいかな」
「団長もすごい母親だよな、金払って
自分の息子にさ、女って。」
「団長なの? 七当主の意志なんじゃ?
紅夜の娘と、自分の子供に仲良くしてほしくないんでしょ
可愛いけど罰姫なんだから、当然ったら当然っしょ」
「まぁな。
純粋に七当主同士での交わりなんて前代未聞だし……
でも紅夜の娘で桃純家の当主を可愛がって泣かせてやるなんて
俺はむちゃくちゃ興奮するけどなぁ」
飲み干した缶を、梨里はゴミ箱に向かって投げ捨てた。
「やっば! きっしょ」
「まぁ、お前もそろそろ本気出せよ」
後を追うように投げ捨てた缶が派手に音を立てる。
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