修行終了!この子が眠れる夜のために
「うらぁ!!」
龍之介との、針勝負もほぼ互角になってきた。
最後の一本も撃ち合い砕け散る。
「よぉし! やめぇ!」
「麗音愛!! すごい!!」
ここ数日の特訓で、自分でも力がついたのがわかる。
駆け寄ってきた椿に笑顔を向けるが
徹夜からの特訓で、さすがに膝をついた。
「玲央、少し休め」
「いや……大丈夫」
「麗音愛、無理しないで」
「今日で終わりだし、まだやりたいんだ」
汗を拭う麗音愛を見て、ふぅ~とため息を吐く剣一。
「ま、終わってから、ぶっ倒れるなら好きにしろ」
「がはは、俺に抱っこされて帰りのバスに乗り込んだくせに
えらくなったもんだな剣一」
「抱っこって言わんで!!」
椿も椿で、改めて緋那鳥以外の武器の使い方も練習し
結界のコントロールも飛躍的に進化した。
「麗音愛」
ポッと紫の炎が麗音愛を包もうとしたが、手で麗音愛がそれを止める。
「椿が疲れてしまう……俺は大丈夫」
「でも……」
「見守っていてほしい」
麗音愛の真剣な眼差しに、椿はついドキリとしてしまった。
「はい、麗音愛……」
椿の返事に、麗音愛が頷くと
集合がかかった。
「麗音愛……」
「最後まで頑張るよ」
「うん……!」
それを遠目で見ていた佐伯ヶ原。
伊予奈班では
初歩的な武器の扱い方。
それからの同化、禁忌、など。
今更な事を、おさらいとしてやっている。
梨里はつまらなく、あくびばかりで
美子も、たまに同化経験者として聞かれ答える以外は
黙って何を考えているのかわからない。
ただ琴音だけは
触れはしない『黄蝶露』の横で
熱心に、伊予奈の話を聞いて学び頷いていた。
雪春は、事務仕事があるとコテージの中で何かしているようだ。
「琴音さん、もちろんだけど明橙夜明集の持ち主として……」
伊予奈の説明が響くなか、佐伯ヶ原は隣にいた美子に小声で話しかけた。
「おい、藤堂」
そんな事は初めてだったので、美子もぎょっとする。
「な、なに」
「加正寺と、絡繰門、見張ってろよ」
「……えぇ?……佐伯ヶ原君……」
「なんだ?」
「どういう風の吹き回し?」
「そういう風の吹き回しだよ」
美子は驚いた顔のままだったが、頷く。
「……わかったわ」
「あ~早く帰りてぇ」
少し大きな声で言ったので、伊予奈に注意されたが
佐伯ヶ原は何も気にしない様子だった。
それからも武十見班での激しい稽古は続いた。
武十見の『自分には必ず勝てる』の言葉。
楯突いてくる龍之介は今は目に入らない。
越えるべきは、自分自身。
そして最後のミーティングの時間。
「玲央」
「はい、武十見さん」
「俺は今回の修行で、改めてお前の凄さを知った」
「……凄いのは晒首千ノ刀で……」
「いいや、違う。
その凄まじい刀に飲み込まれず、自我を保ち
更に先の強さを目指す心の強さがお前にはある
わかってはいたが更に理解した!
よく頑張ったな!!」
「え……いや、そんな」
今まで、親以外に褒められた経験などない麗音愛は
つい、慌ててしまった。
横で椿は微笑み、龍之介は面白くない顔をしている。
「そういう時は、ありがとうございます!
って言えばいいんだぞ」
剣一に笑いながら言われた。
「あ、……ありがとうございます!」
麗音愛が微笑んで、椿もまた微笑んだ。
「さて、帰るかー撤収~~!」
たった数日なのに、この不便な小屋が
離れるとなると少しの寂しさを麗音愛は感じた。
やっと馴染んできた頃なのに、と思う。
随分と来た時よりも地形も変わってしまった、
白夜団特殊鍛錬場所・白狐地獄谷
壁階段を登ると、暗闇の先にあの露天風呂が見える。
本来であれば、クラスメートと
普通の修学旅行に行って過ごしていたはずだった。
塾に行って、勉強して、女子と話す事もなく
面白みもない、それでも平凡な幸せだったはずだ。
その世界には、もう戻れない。
「麗音愛、大丈夫?」
長い壁階段を、後ろに歩いてくる親友。
「うん、全然」
本当は疲れて疲れて、目眩がするほど疲れてる。
こんな疲れは、経験しない未来もあったかもしれない。
手足が千切れ、腹を裂かれる痛みなどない未来もあったかもしれない。
でも今は、これでいいと思う。
帰りにまた武十見が運転するマイクロバスに乗り込んだ。
「椿」
「うん」
ゲームしよう、と言いたかったが
バスに座り込めば、もう疲れが溜まって溜まって
すぐに眠気がきてしまう。
「麗音愛……」
ぽす……と椿が肩に頭を寄せた。
「椿……」
「眠い……」
2人で行った海の帰りのように、自然に椿は麗音愛の肩に寄り添った。
「うん、俺も……」
本当はお互いにドキドキした。
でもそれはすぐに安心になり
ぴったり合うパズルのように、寝息も合って2人は
地獄谷をあとにする。
ふと、麗音愛が目を覚ましたのは
琴音が降りる時だ。
「お疲れ様でした」
「あ……加正寺さん」
目が覚めて、つい琴音に声をかけてしまった。
「玲央先輩」
「あの、また連絡する」
「先輩……」
きちんと返事をしなければ。
自分には、好きな女の子がいると。
自分も報われない恋の辛さが分かる。
でもだからこそ、はっきりと伝えなければいけない。
「おーい、琴音ちゃん
お家の人来てるよ~」
「あ、はい、それではお疲れ様でした」
「お疲れ様」
琴音の『黄蝶露』は雪春が保管すると、別で持って帰った。
窓から見ると
母親らしい女性が、琴音を出迎えている。
こんな世界に、わざわざ飛び込んでしまった娘を母親はどう思っているのだろうか。
きっと自分が思う以上に、白夜団などに関わってほしくはないだろう。
それなのに琴音は黄蝶露を――。
他人の事なら、よく言える。
自分も母親にはあれこれ心配ばかりかけているのに。
「ん……」
肩で椿が、すりすりと頬を寄せている。
ずり落ちていたひざ掛けを、片手で肩までかけてあげると安心したように寝息が続く。
呪怨の統制も楽になった分、
殺して感じないようにしていた心が動いて
あぁこれが恋なんだ、と実感してしまう。
まだまだ、強くなりたい。
何の不安もなく、この子が眠れる夜のために――。
いつもありがとうございます!
長い修業旅行も終わり、4章もこれで終わりになります。
今年の更新はこれで終わり、とするとキリもよいのですが
もう一度更新があるかも、しれません。
どちらにしても活動報告でご挨拶はいたしますね(*^^*)
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励みになって1年経っても私のモチベーションは増すばかりです。
いつもありがとうございます!
気に入って頂きましたら是非お気軽にお願い致します(*^^*)