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修旅~殺せない想いは~

 

 そろそろ温泉から上がる事になり、

 そそくさと麗音愛は先に上がって着替え

 脱衣所の小屋の前で待っていた。

 

 椿はもちろん、此処で着替えていたのだ。

 存在に気が付いていたら、さすがに入る事はしなかっただろう。


 出てきた椿は、ちょっと照れくさそうで

 麗音愛も同じように、笑う。


 地下のコテージまで残った水を飲みながら歩いた。


「そっか……麗音愛は今日、地下で寝るんだ」


「うん」


「私は戻るって言っちゃった……」


 椿が残念そうに言う。

『黙って、こっちで寝てしまえばいい』

 なんて言えるわけもないのに、そんな事を考えてしまった。


「こらーあなた達

 さすがに男女2人での宿泊は認めないわよ~~~~~!」


 崖階段の上で伊予奈が拡声器を持って叫んでいた。


「あ~……」


「残念」


「親友なのにね」


「うん、上まで送るよ

 今行きますーー!!」


「いいの?」


「うん、落ちたりしないよ。ほら」


「……うん!!」


 麗音愛が差し出した手に、椿が手を伸ばしてきた

 その手を掴み抱き上げる。

 すると、椿がぎゅうっと抱きついてきた。


 ――今までと同じ。


 ――でも、今はドキドキする。


 ――でも、今までと同じだ。


 嬉しくて、頬が緩む。

 呪怨の羽で飛び上がり、邪流に煽られたのもあるが

 つい、強く抱きしめてしまった。


 椿をふと、見ると

 椿もにっこりと笑ってくれる。


 可愛い。

 すごく可愛くて、

 ゆっくり行きたい、と思ってもすぐに到着してしまった。


 伊予奈の前に降り立つと、

 温もりが離れて寂しさが胸を刺す。


「もう、椿さん……」


「すみません、戻ろうとしていたところです」


「いないから、心配したのよ

 温泉があまり好きじゃなかったのね。言ってくれれば良かったのに。

 水浴びしたの?」


 多分、剣一か雪春が

 椿の家でも露天風呂に入らなかった事を言ったのだろう。

 その時の理由と、今回の理由は全く違うが

 露天風呂が苦手だと思われたようだ。


「はい」


「帰り道で冷えてしまうと思うから

 帰ったらドライヤーしましょうね

 玲央君はどうするの?」


 面倒見の良い伊予奈に濡れたままの頭を撫でられ

 椿は照れ笑いをする。


「俺は、小屋で寝ます」


「そう……あなたは大丈夫だと思うけれど……

 用心してね」


「麗音愛、おやすみなさい

 ありがとう」


「うん、おやすみなさい椿」


 手を振って、伊予奈と外に通じる穴に入っていく椿。

 ぐねぐねとした地下道で見えなくなる前に

 また手を振ってくれて、麗音愛も手を振った。


 また明日の朝に会えるのに、

 ぎゅっと寂しさが、胸を締め付ける。


 1番近くて、楽しい親友。


 これでいい、それでいい。

 思い込もうとしても、本当はもっと望んでる。


 それでも望んではいけない。

 椿は、そんな事望んでいない。


 ふらりと、崖階段から身を投げる。


 切なさが胸を支配して、呪怨が暴れだす。

 邪流の波に飲まれて一層、乱れる。


 それでも、

 地面に落る瞬間に呪怨で飛んだ。


 美子の気持ちがわかる――

 恋心を理解してる、なんて思っていたけど

 わかってなんかいなかった。


 胸が、痛い。

 殺せない想い。


「うぉおおおおおおおおおおおおお!!!」


 晒首千ノ刀を抜いて、岩山を粉砕した。

 こんな事で力を使って、何をしている。


 はぁ……と心を吐き出すように息をした。

 空を見上げても、もう一緒に見た輝きはなく曇ったガスが漂っていた。




 最終日。

 一同が地下に戻る頃、麗音愛はもう

 晒首千ノ刀を振るっていた。

 結局あれから一睡もせずに邪流と聖流のコントロールをすべく

 鍛錬をし続けていたのだ。

 ただ、それは言い訳で心が疼いて眠れなかった。


「おいおい、寝ろって言ったはずだぞ」


「寝たよ……」


「ウソつけ。

 椿ちゃんとよっちゃん、ちょっと遅れるってよ」


 剣一は麗音愛の頭を小突くと、まずは

 コテージに向かって歩いていく。


「玲央先輩~昨日あれから

 お風呂のあと、みんなでアイス食べたんですよ~探したら

 地下にって……」


「あぁ……ごめん」


 自分に告白してきた琴音を、じっと見てしまう。

 この子も、こんな胸の痛む想いをしているのだろうか。

 クラスでワイワイしている男女交際をしている人達も……

 皆こんな気持ちなのだろうか??


「せ、先輩……?」


「あ」


 麗音愛に見つめられ、琴音は頬を染める。


「ごめん、ぼーっとした」


「いえ……」


「琴音さんは、玲央君の顔がはっきり見えるんだね」


 2人の間に雪春が来る。

 そうだ、琴音に明橙夜明集を持ってきたと言っていた。

 その手には大きなアタッシュケースを持っている。


「は、はい!

 それはもう……すごくかっこいいですよぉ……」


「そんなわけ、ないから……」


 麗音愛自身が、自分の顔を認識できていないかもしれない

 と言われた事もある。

 でも自分で確認する術もないし

 自分が本当はすごくかっこいいんですよ、と言われたところで

 それを周囲が認識できないのならば意味はない。

 

「佐伯ヶ原君の力、カースブレイカーとは

 違う力が琴音さんにはあるのかもしれません」


「え!?

 もしかして、私ってすごい能力者ですか~~!?」


 琴音は嬉しそうに笑顔になるが

 どうしても、巻き込むなという思いが出てきてしまう。

 しかし麗音愛も

 そろそろ琴音も自覚をもって白夜団に入った

 団の一員と認めなければ、と自分に言い聞かせた。


「佐伯ヶ原君の力は干渉されない、見破る力。

 自分への作用をブレイクする。それもすごいけれど

 もしかすると……

 琴音さんの力は呪いそのものを壊す

 加正寺の伝承に、そんな話があってね……」


「呪いそのものを??

 玲央先輩にかけられた見えなくなる呪いを解ける?!」


「えっ」


「まだ予測ですけどね。

 それにそうだったとしても玲央君のはわかりませんよ。

 今までどんなに御家族、団長が調べ尽くしても不可能な呪いだったわけですからね」


 どんな時でも雪春の笑みは、優しい家庭教師のようだ。

 でも、麗音愛は一切信用していない。


「俺は……何も望んでいませんから」


「どうしてですか?

 モデルだって動画配信者だって俳優さんだって!」


 琴音が両拳を握りしめながら大声で力説する。


「呪いがなかったら、トップアイドルですよ!?」


 しばし、麗音愛の思考は停止して

 吹き出してしまう。


「そんな事、俺が望むわけないよ

 注目されるなんて俺は嫌だよ」


「えぇっ」


 逆に琴音が驚きの声を上げたが

 麗音愛の目に

 椿が美子と崖階段を手を繋いで降りてくるのが見えた。

 美子がまだ怖いようで、ゆっくりゆっくり支えて歩いている。


「呪怨で迎えに行ってもいいですか?」


「気をつけて」


「どうも」


 飛び立った麗音愛を、琴音は面白くなさそうに見つめる。


「呪いを壊すのって良い事ですよね」


「まぁ、一般的には」


「早くその武器も見せてください」


「えぇ、もちろんですよ。加正寺のお姫様には

 期待しております」


 琴音の顔がとびきりの笑顔になった。





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― 新着の感想 ―
[一言] 呪怨の呪いを壊す? それって力が削がれるんじゃないのかと思ってしまった。 そうなると、麗音愛は危なくなるわけで…… 注目されない呪いだけならまだ良いけど、でも麗音愛は望んではいない。 琴音…
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