修旅~強くはなったが~
琴音に108の武器、明橙夜明集を持ってきたという。
麗音愛は信じられないという目で雪春を見た。
「どうして加正寺さんに……!」
「彼女の白夜団の1人、例え調査部であったとしても
紅夜会に何故か武器が流れている状況を考えると1人にでも武器を所有しておいてもらいたいんですよ」
「同化継承をさせる気ですか?」
「同化継承までは、本人の意志に任せます。
この前の剥がしの件もありますし」
「未成年での同化は禁止にすべきですよ」
「……玲央君の、琴音さんへの思いやりはわかるよ。
僕だってそう思うが、僕の一存では……今回も本部から託されたわけだから」
「玲央先輩……」
琴音のキラキラとした目を見てギョッとする。
「いや、俺はえっと……」
「私は同化はしません!
玲央先輩がこんなに心配してくれているんですもん!」
「おやおや、余計な話をしてしまいましたね。
とりあえず今日は皆疲れているでしょう、
美味しいお弁当を食べましょうね。明日お披露目しますよ」
そう言って、雪春は行ってしまう。
「玲央先輩、いつも心配してくださってありがとうございます」
また、ズイッと寄られて一歩下がる。
しかし、いつも押されているわけにはいかない。
自分の態度が何か期待を、誤解を生むような事をしているのならな
たまにはハッキリ言わないと……。
「加正寺さん、俺は加正寺さんだけに限ったことではなくて
白夜団全体についての意見を言ったんだ」
「それでも、やっぱり優しいですよね」
「そんな事はないよ」
「ありますよ。……さっきの稽古もみんなを守るためですよね
あんなに傷ついても、それでも……先輩すごいです」
「それは……当然というか、晒首千ノ刀を継承したから」
琴音はクスッと笑う。
「それが、すごいんですよ」
続けて否定しようとしても、武十見の撤収の声で
琴音は駆けて行ってしまった。
どうにもうまくいかない、と息を吐いたが
麗音愛もコテージで寝かせていた椿の元へ翔ける。
「麗音愛」
剣一も一緒に休んでおり、2人でお茶を飲んでいた。
「椿……!」
「ごめんね、寝ちゃって」
さっきは血まみれだったが
新しいTシャツに着替えていた。
一緒に買いに行った時を思い出す。
「謝るのはこっちだよ、体調はどう? 大丈夫?」
「うん! 麗音愛は?」
「全然、椿の炎のおかげで疲れも吹き飛んだよ」
2人で微笑み合うと、また疲れも吹き飛ぶ気分だ。
「でも……もう、あんな無茶な稽古はやめてね」
「うん、本当にごめんね。ありがとう椿」
チラッと椿に見られ剣一も正座した。
「ごめん! 正直椿ちゃんがいてくれるって甘えがありました!」
「俺も、甘えがありました!」
麗音愛も正座で一層背筋を伸ばし頭を下げた。
「も、もういいの
剣一さんもやめてください!
私がいて、役に立てたなら良かった」
「椿ちゃん
同じ等価の御礼はできないと思うけど
御礼考えておいてよね
命の恩人だ」
「いいんですよ~」
「んー!! 椿ちゃん最高!!」
「おい!」
ガバっと椿に抱きつこうとする剣一を慌てて引き剥がす。
兄には今まで以上のむかつきが芽生えたが
困ったように笑う椿は可愛い。
「青春かよ……」
遠目で見ていた佐伯ヶ原は吐き捨てるように言ったが
その顔は優しかった。
それからの夕飯は
雪春も交えて差し入れの弁当を地上の会館で食べる事に。
なんだかんだ每日御馳走だ。
椿は相当お腹が減ったようで
パクパクと2個目のお弁当を幸せそうに食べている。
麗音愛も同じように2個目の弁当に手をつける。
「ドナ・ベジのデザート可愛い~写真撮ろう~っと」
「あ、この野菜最近スーパーフードって
タケリオが紹介してたやつじゃん」
「聞いた事あるわ」
女子達はそれぞれ個性豊かで
好きなものもバラバラ。
それでもなんだかんだ、話をして盛り上がっているのが女子のすごいところだ。
「あ~今日はやばかったぜ」
「本当に、無茶し過ぎよ」
伊予奈は剣一のほっぺたをつねったが
ハッと周りの目に気づき、それ以上は何も言わなかった。
剣一はニャハハと笑いながらビールを飲む。
もう怪我の1つもない。
雪春は怪我の様子も聞いていたので、その完治の様子を伺うように見ていた。
夕飯後もそのまま雑談は続いたが
椿の携帯電話が揺れる。
「あ……電話……」
椿は悩んだが、携帯電話を持って廊下に行ってしまった。
麗音愛の心も揺れた。
――親友でいい。
何度も椿に親友だ、親友だと言われてきたし
夏祭りにも、
彼氏じゃないって全力で否定された。
あの時思ってた気持ちとまた違う感情がにじみ出る。
――親友……。
そうだとしても、親友の立場でも
自分にはもったいない程
傍にいられる場所。
親友なんて誇りだ、光栄だ。
傍で椿を守っていける。
彼氏だなんて、
三流の咲楽紫千家で
呪われてて、心も死んで
身体もぐちゃぐちゃ蘇るゾンビみたいな自分に
望めるわけもない。
椿が、もしも
好きな奴がいて、付き合っているのだとしたら……
応援、と思ったら
殺してるはずの心がズキリといたんだ。
それでも知りたい。
どうしても知りたい。
修行旅行は明日で終わり。
「あーっ片付け!! す、すみません」
電話が終わり、戻ってきた椿は
皆が片付け始めたのを見て慌てて一緒に片付ける。
誰と話していたの?
なんて思う自分が、
あんなに必死に稽古して、強くなってきたと思えていたのに
すごく小さく情けなく、感じた。