修旅~聖騎士・剣一~
広い荒れ地、安全性のため
距離をとり伊予奈が結界を張る。
そこに物理的な負荷がきても安全なように椿も結界を張った。
佐伯ヶ原はスケッチブックを抱えドスッと座り込む。
遠くでガスが盛大に吹き出し、麗音愛と剣一の髪が揺れるのが見える。
「稽古だから、そんなに心配しなくても大丈夫だよ、椿さん」
緊張した顔の椿に雪春が優しく声をかける。
龍之介も真剣な顔で2人を睨むように見ていた。
「ははっ……みんな何か俺らが殺し合いでもするような目で見ているな」
剣一の手には綺羅紫乃が握られている。
鞘は螺鈿細工や金装飾が施され、柄も白鮫革。
白を貴重とした聖剣という呼び名がふさわしい姿。
大して麗音愛の刀、晒首千丿刀は
鍔には怨霊のような呪いのような骸骨が刻まれ
あとは飾りもなく、柄巻の紐も、ほつれてボロボロで
濁ったドス黒い刀身は人を怯え不快にさせる姿。
対極的な兄弟が向かい合い立つ。
剣一と一緒に戦うことは何度かあったが、よほど大きな仕事でなければ綺羅紫乃は抜かない。
こうして目の前に聖剣を持って立たれているだけで驚異に感じた。
「特務部長として今から武器使用の稽古をする」
「はい」
言わずもがな、剣一は普通の人間で麗音愛や椿のような回復能力はない。
圧倒的な麗音愛の戦闘力を考えれば、麗音愛が圧勝するのだろうが。
「紅夜会の奴らも最近はお前対策で、浄化やら陽術を使ってくるからな。俺との稽古も少し役立つだろう」
「はい」
「そう、緊張するな。お前の方が強いんだ」
「でも」
「あぁ、ここは聖流と邪流の流れも一層強い。いい訓練になる」
頷いた麗音愛を見て、剣一が微笑む。
剣一がふっと遠目の椿を見た、椿も気付いて頷く。
それにウインクで返した後大きく息を吸う。
「よし! それでは始める!」
剣一が綺羅紫乃を抜く。
美しい白い輝きは名の通りうっすら紫色も帯びている。
聖流の流れが強くなる――
「くっ!!」
聖流が吹いたと思ったそれは剣一の一撃。
とっていた距離はもう無くなり麗音愛は晒首千丿刀の自動防御で助けられた。
しかし刀を合わせただけで晒首千ノ刀を通して鋭い痛みが身体を襲う――!
浄化の力に吠え噛み付くように、麗音愛から呪怨が自然発動され剣一を襲い返す。
「っ!!」
制御できない!
兄へ襲いかかる多大な呪怨の自動攻撃に麗音愛は焦る。
殺してしまう――!!
その一瞬の気の散らしを見逃さぬように、また剣一からの刀一閃。
次こそ呪怨が食いつく――!!!
しかし、襲いかかる呪怨は、弾け飛散した。
綺羅紫乃を構えている剣一の右手の人差し指と中指には、護符が挟まれている。
「おいおい、仰天してんなよ」
それはまだ発動もしておらず、ただ護符の準備段階での事だった。
それだけで呪怨は弾け飛んだ。
今までにない、浄化の力――!!
呪怨の宿主として、その強さがゾクリと怯えとして心に響く。
二撃だけで、麗音愛は距離をとり退いてしまっていた。
「こい!! 玲央!!」
殺してしまったら――と、心の底にあった不安を麗音愛は笑いたくなる気持ちになる。
杞憂とはまさにこの事だ。
晒首千ノ刀を構え直す。
聖流は邪魔をし、邪流は呪怨の増幅をさせる分統制に乱れが出ていたがこの数日の修行で、統制力はかなりついた。
兄が聖流を利用し、纏っているのが視覚でもわかる。
麗音愛も心を鎮めるだけではできない強い想いを呼び起こし呪怨を増幅していく。
激しい呪いの力、でも暴走はさせない。
「すっげえ……」
たったの一瞬の二撃だが、わかる者にはその凄さは理解できる。
琴音はただポカンと見ていた。
「剣一さん、すごい……」
「天才ですね、あれは」
半分呆れたように、雪春が言う。
「なんの因果なのか、呪刀の咲楽紫千家の長男が聖騎士のような、聖なる力に愛されたチートだったわけですよ」
「それで努力家だから、とんでもないのよねぇ」
伊予奈も遠くの剣一を見つめながら苦笑いする。
椿は剣一にもしもの怪我をした時の治癒を頼まれていたが、稽古とはいえ今は麗音愛の無事を願ってしまった。
「ここほど激しくはなくとも地上にも聖流、邪流の流れがある。
微量でもそれを感じ、それに乗り自分の力を増幅させるんだ」
光り輝くオーラを纏ったような剣一。
まるで聖流が喜び剣一を愛しく包んでいるようだ。
その光景に麗音愛が眉をひそめると剣一が笑った。
「まぁ生まれながらの陽キャを越えた聖キャだからなぁ俺は」
そう剣一が微笑むと右手のまだ発動していなかった護符が発動され麗音愛を襲う!