修旅~炎は椿の心~
「あ~~さすがにまじ疲れ~~あ~今頃みんな
ランドなのにさぁ~」
「はい、梨里お疲れ様~休憩よ~!」
朝からのトレーニングをやり終え
武十見に言われ武器所有者は
休み時間の間に武器を具現化させる。
「椿ちゃんお願い、槍鏡翠湖を見せてもらえるかな」
「うん」
美子に言われ、鏡のついた槍
槍鏡翠湖を具現化させる。
元は美子が同化継承した武器。
「……あぁ……」
夕方のような地下でも
槍鏡翠湖の鏡はキラキラと輝き美子を映す。
自分で見せてもらいながら、なんだか困ったような顔をする美子。
持とうとはしなかった。
「きっと槍鏡翠湖は久しぶりに会えて喜んでいるよ」
「うん……ずっと私を守っていてくれたしね……
でもなんだか思い出しちゃう」
「え?」
「剣一君をすごく好きだった事……」
直接、美子から聞いたのは初めてだったので
ドキッとしてしまう椿。
でも過去の話なのか。
「ふふ、ありがとう。
白夜にはいないといけないみたいだから結界とか後方支援の勉強を頑張るね」
「今は?……あ」
つい、口から出てしまった言葉に椿が戸惑う。
「今? まぁ今は……玲央の事、守ってあげなきゃって思ってるかな」
「え? 麗音愛を?」
「色々と、つば……あ」
しーっと、指を口の前に当てると
琴音が2人の間に入る。
「わぁ! それが美子先輩が持つのがもうイヤになったんで
椿先輩が剥がしてあげた武器ですね」
「その言い方! 椿ちゃん達には迷惑かけたと思うけど
あなただって同じ立場になればわかるわよ」
「えぇ~ 私は強くなりたいですけどね~」
「なら調査部じゃなく特務に入れば良かったでしょ」
「だって両親が~。あ、玲央先輩
晒首千ノ刀かっこいい~~!」
丁度、少し遠くで麗音愛が晒首千ノ刀を具現化したところだった。
「かっこいいってあなた……」
「だってカッコイイじゃないですかぁ
玲央先輩かっこいい~!!」
「かっこいい……」
「呆れるわね椿ちゃん」
「……かっこいい……か……」
「え?」
自分の心を素直に口に出せる琴音に
椿は改めて驚いていた。
麗音愛がいつも『醜い』と否定する晒首千ノ刀。
その言葉を否定しても、それ以上の言葉を伝えた事はなかった。
本当はいつも、そう思っているのに
そんな言葉にしたらいけないと思って――。
「女子と佐伯ヶ原君こっちきて~!!」
もやりとした心は弾け飛び、慌てて集合する。
「ひゃっはー! やっと武器で戦えるなぁ!」
片手斧『折鬼』をクルクル回す龍之介。
「だから御法度だって言っているだろ~!
どこの悪役だよ」
すかさず剣一からツッコミが入る。
「あ~つまんねぇ。玲央はどうせ治るんだからいいべ」
あくまで自分は怪我しないとでも言いたげだ。
「それに、椿の炎だってあるだろ~便利だよなー
あの一体感、たまんなかったしな。ヤッてるみたいでよ。あの紫の炎エロい事にも使え……」
ヒュンと、龍之介の前を風が斬り飛ぶ。
「そろそろいい加減にしろよ、龍之介」
目の前に晒首千ノ刀の切っ先。
それと同じ鋭さの麗音愛の瞳。
「玲央!」
武十見の静止の声が出たが麗音愛はそのまま刃は向けたままだ。
「俺に何を言おうが構わないが
椿に対する言葉には気を付けろ」
「……戦るか、ここで武器同士」
「殺るなら刀は使わない。
この刀はこんな事のために在るわけじゃない」
普段は生ぬるい優しい腑抜けた目をしていると思っていた
麗音愛の瞳は深い闇、地獄の闇だ。
龍之介は一瞬ゾッとした自分を感じた。
「椿の炎は、椿の心だ
それを軽く――扱うな」
ポタリと血が流れる。
だがそれは、麗音愛の額から流れたものだった。
「麗音愛!?」
統制しきれなくなった呪怨のせいだ。
麗音愛は晒首千ノ刀を降ろすと、騒ぎを聞いて駆け寄った椿に微笑んだ。
「なんでもないよ」
「でも……どうしたの?」
「訓練だよ、ただの」
「やぁ、私闘は厳罰対象だよ?」
「えっ」
「ゆ、雪春さん!?」
緊迫していた空気を破り
ヒラヒラと手を振りながら近づいてきたのは
調査部部長の絡繰門雪春だった。
「部長の武器使用稽古の許可申請がきたからね
調査部としては見ておかないと」
「えー本部に申請出したのぉ? 伊予奈さん相変わらずクソマジメだなぁ」
剣一がはぁ~とジト目で伊予奈を見る。
「な、なによ当然です」
「当然ですよ剣一君」
「当然だな」
「武十見さんそういうキャラじゃないでしょ!
龍、お前も玲央相手に、こじらせててもなんにもならないぞ」
まだ殺気を放ってる龍之介の肩を
剣一が軽く叩く。
「呪怨がなかったら負けねぇって話」
「呪怨が一切でなくなるまで統制するようになる
それまで待ってろよ。その時は俺だって容赦しない」
冷ややかに睨み合う男達。
「けっ、チート野郎が」
「釘差君……!」
言い返そうとした椿を、麗音愛が止めた。
女子と佐伯ヶ原は少し遠目で眺めている。
「龍之介、どうしてあんなに玲央に噛み付くの?」
「バカ龍、ランク順位のことホント根に持ってバカじゃん」
「ランク?」
「非公開みたいだけど、強さランク~みたいなの
剣兄のあと未成年でずっとトップだったからさ」
「へぇ~龍之介先輩って強いんですね~」
「そんな事で……バカね」
「くだらねぇ」
「色々あんのよ、田舎のほうはぁ~」
梨里がネイルを眺めながら、つまらなそうに呟いた。
その手には金属の棍棒『撫鬼』が握られてる。
「はいはい!!
みんな~調査部長さんも来たし訓練始めるわよ」
「え~~!玲央先輩と剣一部長の訓練見ます~~
私調査部ですし」
「う~ん、そうだねぇ
せっかくの部長の稽古で、しかも晒首千ノ刀の試合とは
実に貴重。
見学会にするといいよ。修学旅行の代わりだし」
「見世物や余興じゃ……」
「まぁ、玲央。
ここで力を見せておくのもいいだろう」
剣一の手には綺羅紫乃が握られている。
「こういう時は、みんな俺に惚れるなよ?って
言っておきゃいいのさ」