修旅~カツカレーはうまい~
トンカツの衣を付けている麗音愛と椿の横の調理台では
剣一、龍之介、亜門、武十見がサラダを作っている。
「剣にぃ、この施設って温泉もあるんだな」
「そうそう、昔は予算が余ってたんだろうな……
露天風呂もあって故障で使ってなかったけど
今回のために直したってよ~明日には入れると」
「へぇ~すげぇな」
サラダといっても、事前に材料を伊予奈に伝えていた剣一が
サッとマカロニを茹でたり、ライムを絞ってドレッシングを作ったりしてオシャレな料理に出来上がっていく。
初めて見た亜門は手際に感心した。
「龍と梨里、お前らの家が修理代出したって聞いたぞ」
「あ、そ。無駄に金はあるからな~」
「今は予算もないから助かりますってな……ほいっと」
二つめのサラダもフライパンで炒ったスライスアーモンドを振って完成。
「なぁ露天って、女子風呂覗ける?
剣にぃも興味あるべ?」
「お前なぁ……そういう古典的な……」
「覗けるぞ!」
「武十見さん」
意外なところからの声に言い出した龍之介も驚いた顔をした。
「風呂覗きは、伝統だな!」
「ちょっとちょっと……時代錯誤ですよ
通報もんだ」
亜門が混ぜていたマカロニサラダの味見をして苦笑いした剣一が塩コショウを足す。
すぐに龍之介も味見をして満足げだ。
「こいつが15の時に最終日死んでたのは
覗きがバレて合波さんの激怒結界攻撃を受けたからだ。風呂もその時壊れた」
「まじ!? ウケる~」
「そういう事、後輩にバラすのもハラスメントっすよ
それだけじゃないですから! 当時の特訓はヤバかったんだぞ!」
「なにがハラスメントだ!
なんでもかんでもハラスハラス!ハラスメントハラスメントだ!」
「いやいや、教官が覗き推奨してどうするんですかって話。
大体、俺だってあの時は先輩達が無理矢理……」
思い出して心底嫌そうな顔をする。
剣一にも下っ端時代があったのだ。
「俺は推奨などしていないぞ、そういう話があると言ったまでだ。
先人達の伝統は伝統なんでな……」
「へっへっヘっ
腕試しにもいっすね~梨里は見る必要もねぇけど
椿と美子と琴音ちゃんは見比べたいな~
伊予奈さんも。なぁ亜門」
「別に……裸なんて俺、見飽きてるし」
ガラスの器に、レタスを敷いてマカロニサラダを載せていく亜門。
「亜門、何お前~~嘘ばっかこいて」
「嘘じゃねーよ! デッサンで死ぬほど見てる」
芸術家の才能が出るのかマカロニは美しく盛られパプリカパウダーを降って華やかに仕上がっていく。
「はぁ!? 椿のか!?」
「バッカ! モデルのだよ!!
お前も女の裸見るようなダッサイ事してんなよ
覗きなんてしたら、ぶん殴るぞ」
「何、いっつも人と関わらないようにしてる亜門様が
めっずらしいじゃん」
「騒ぎがうぜーだけだ」
「お前まさか椿を……」
「あぁん? ざけんな。てかお前もなんかやれ」
「んだ? こら」
パンパンと剣一が手を叩いた。
「はいはい、そこまで~。
お前ら口が悪すぎ、もう少しお上品にしなさい。
サラダはもできたし、次はトンカツだな
玲央と椿ちゃんも終わったかー??」
「よし、俺が指揮をとろう」
武十見が麗音愛と椿と一緒にトンカツを揚げる。
カレーの準備が終わった美子達も周りに群がり油が跳ねたと皆で大騒ぎだ。
「わぁ、麗音愛これ! すごく上手に揚がったね!」
「本当だね」
黄金色のトンカツに椿は喜びの声を挙げる。
「椿「麗音愛「「がこれ食べたら?」」
こっそり言おうとしたら2人で同じ台詞で
クスクスと笑う麗音愛と椿を、皆が不思議そうに見た。
カレーも良い香りが立ち昇り19時には、そのまま調理室での夕飯が始まる。
「うん! 美味しい」
皆がカツカレーに舌鼓を打つ。
さすがの女子達も今日はダイエットとは言わずしっかりカツを笑顔で頬張った。
分厚いカツはサックサクで肉汁が溢れ濃厚なカレーと引き立てあっている。
「玲央先輩~最高です!」
「良かった」
斜め前に座っている琴音は先程の事がなかったかのように、いつも通りだ。
された側の麗音愛の方が、なんだか直視できない。
「剣一君、このサラダのドレッシング何入れたの?」
「これはさ~隠し味が……」
ワイワイと楽しい食卓。
場所が調理室なので、本当に学校の授業のようだ。
「美味しい!! こんな美味しいトンカツもカレーも生まれて初めて!!」
ずっとニコニコ顔でトンカツとカレーを頬張る椿。
一番上手に揚がったトンカツは包丁で切って2人で分けたのだ。
今回の予算をかなり使った上質の豚肉の美味しさは椿の笑顔を見ればわかる。
「わ! 人参がお花になってる! すご~い!」
「んっふふ、姫~よく気が付いたねぇ」
「すごく可愛い!」
「ん~今度教えてあげるよ姫、かあいいじゃん」
学校でも、椿の純粋で素直な可愛さが
皆にも好かれているように伊予奈や武十見、梨里まで微笑ましく椿を見ている。
麗音愛も大好物のカツカレーが
今日の修行の疲れと空腹と、プラス椿の笑顔で、この世で一番の御馳走のように身に染みる。
「いい食べっぷりだな! 椿も玲央も!
もっと食え! 明日は武器を使用しての訓練をする!」
ピタリと麗音愛の手が止まる。
すぐに龍之介の視線に気が付き、
挑発するように睨まれても動じず、ふっとそのまま微笑んでみる。
「……玲央てめぇ!」
「うっさい! バカ龍! 食事中!」
「ちっ」
一応良家の2人は食事のマナーはしっかりしているようだ。
「武器使用と言っても、怪我をさせるわけにはいかないので
もちろん生徒同士の対戦など許可しませんよ」
「玲央、明日からはもっと深い聖流と邪流が流れる場所に行く
また一段と難しくなるだろう。
そこで晒首千ノ刀を具現化しどこまで呪怨を統制できるかやってみるんだ」
「はい」
「俺が相手をしよう」
「武十見さんが……」
麗音愛はまだ、武十見の武器を見ていない。
もちろん同化継承者ではあるのだろうが
この屈強な身体で一体どんな武器を操るのだろうか。
「椿も明日は一緒だ」
「はい!」
嬉しそうな椿と目があった。
「つまり俺もかぁ……」
「ガッハッハ!
綺羅紫乃に会えると俺の手朱丸が喜んでいるぞ」
「綺羅紫乃は遠慮したいって言ってます~」
「兄さん」
「ん?」
「俺とも練習してほしい」
剣一の綺羅紫乃は光の剣、聖なる剣の象徴のような刀だ。
麗音愛としては一番厄介な相手だろう。
それでも紅夜会でも浄化や聖流の力を使う、麗音愛対策として強化してくる事は確実だ。
対抗策は考えたい。
怪我人を絶対に出すわけにはいかない伊予奈は何か言いたげだったが、とりあえず黙っている。
真剣な眼差しの麗音愛を椿も見つめた。
剣一がニヤリと笑う。
「いいだろう
咲楽紫千特務部長として、お前に稽古をつけてやる」