修旅~突然の告白~
修行旅行四日目
麗音愛が針状にした呪怨を武十見に見せると、遠目で結界術を勉強していた美子達も集まってきた。
「すごいわ! 玲央」
「サラ、さすがです」
「玲央先輩おめでとうございます~!」
「やっば~玲央っぴぃ……追いつかれたねぇバカ龍」
龍之介も麗音愛の周りに集まるハーレムにうんざりした顔をする。
「追いつかれてなんかいねーからな! おい!やるぞ! 俺は散々待たされて、さっさと実戦やりてーんだ」
伊予奈に促され、結界術組はまた元のコテージ前に戻っていく。
「玲央、わかってると思うが龍之介に怪我をさせるなよ」
「はい」
「あぁ!? 武十見さん!俺が負けるかよって!
お前こそ、怪我が治るったって避けるくらいしろよ!? ぐちゃぐちゃ再生するところなんてキモくて見たくねーからな」
「お前はいつもぐちゃぐちゃうるさいな」
「あぁ!?」
「お前ら黙っとれ!!
10周させるぞ!!」
今まで座っていた場所から、やっと立ち上がれる。
向かい合い龍之介は麗音愛に向けて不敵な笑みを浮かべて、針留結界を無数に出現させた。
「腕をあげたな!龍之介!」
「当たり前っすよ。俺は、刀依存の楽ちんチートヤローとは違う」
「余計な話はいい。実戦訓練をする時間だ」
麗音愛は龍之介の言葉には反応せず冷たく返す。
粗暴な人間は好かない。
「号令で開始だ! 龍之介動くなよ!」
武十見の訓練開始の声が荒れ地に響いた。
剣一に剣術と結界術の上手な複合技を教えてもらっていた椿が、ジッと遠くの麗音愛を見つめて動かない。
「玲央が気になる?」
「あ! す、すみません」
「いいよ、俺も気になるかな……少し見てこよっか」
椿の周りに浮遊していた炎が嬉しそうにぴょこぴょこ跳ねた。
「みんなお疲れ様ーー!」
今日は結界術組も実戦的なトレーニングをして疲れ果てて皆コテージ前に座り込む。
倒れ込みながらニコニコ笑顔の伊予奈を見上げた。
疲れ果てているのは麗音愛も龍之介も同じで怪我はしていないが疲労困憊の様子だ。
「100発100中な見事な引き分けだった! よくやった!」
相手が飛ばした針を、自分の針で弾き返す。
その繰り返しを延々とした。
最後はどちらともなく膝を折りそうになった時に、武十見の訓練終了の声が響いたのだった。
「相変わらず、鬼軍曹だなぁ」
しばし見守った後に、剣一と椿は訓練に戻ったが延々と続く訓練を横目で見ていたのだ。
それでも時計を見ると今日はまだ16時半。
いつもより終了時間は早い。
「今日は~、みんなで上でカレーを作りましょうね」
「……えぇ!? 小学生じゃないんですから……」
佐伯ヶ原が、うんざりした声を出す。
「でも、合宿での恒例だし……みんなでご飯を作るってとっても意味がある事だと、私は思っているの!
戦闘も夕飯作りも個人プレーでは……」
元々、鬼教官だった伊予奈が最近では教育関係の勉強をして変わったと剣一が言っていた。
今も何か目を輝かせている。
「では! 地上に行くぞ!」
武十見は、その話を聞きたくないのか遮るように話を進めた。
「ま、どうせ今日も上に行きたかったし~~。まつエクキットも上だし~~」
「あ~あ……腕が疲れた。画家の腕をなんだと思ってやがる」
ぞろぞろと、皆が立ち上がりコテージの荷物を取りに行く。
麗音愛はまだ、座り込んでいた。
1日だけで、この成果は自分でもすごいとは思うが疲労困憊。
遠くで寝転んでいる龍之介より、早く立ち上がりたいが動けない。
その麗音愛に椿が駆け寄ろうとすると、琴音も麗音愛に駆け寄ろうとした時だった。
「あ……」
「あ……」
琴音はしっかりスポーツドリンクとタオルを持っている。
椿は、何も持っていない。
「あの、玲央先輩にと思って」
「う、うん。きっと喉乾いてるね」
「はい!」
急に笑顔を見せられ、琴音は麗音愛に駆け寄っていく。
椿はその場を離れようとコテージに身体を向けたが
「お~い、椿……
怪我ぁ治してくれ……」
「えっ?」
龍之介が倒れ込んだまま、ヒラヒラと手を振って椿を呼んでいる。
「怪我したの?」
椿が駆け寄るが、まだ倒れたまま……ぐっと手を握られた。
「! 針留君!?」
「ここ、ここ」
確かに龍之介の腕はすっぱりと切れ血が滲んでいる。
「本当だ……待ってて」
寝転ぶ龍之介の手を結果的に握ったまま椿は紫の炎で龍之介の身体を包んだ。
「怪我させられちまったよ」
「……そんな事、麗音愛はしない」
「わざとなんて言ってないだろ。まだコントロールできなくて当然だしな、お、すっげ~サンキュー椿」
ぎゅっとまた椿の手を握ったまま立ち上がる。
「カレー作るの、楽しみだな」
「う、うん……」
背の高い龍之介に、ぐっと近寄られ椿は身を翻してコテージへと歩みを進める。
「待てって椿。俺は……」
「みんな待ってる早く、行こう……!」
「龍之介って呼べよな~チームだろ、チーム」
「私、先に行くね」
「椿~」
呼び止められた声には一応答え、でもそのままコテージへ向かう椿を龍之介はため息をついて追いかけた。
麗音愛は、その様子を黙って見ていた。
あれ以上、椿を困らせようとするなら声をかけるつもりだったが……。
怪我をさせた覚えはない。
わざとだろう。
「玲央先輩」
「あ」
渡されたドリンクを受け取ったまま一言の御礼で、すっかり琴音を忘れていた。
「ごめん、俺らも行こうか」
椿は後ろも見ずコテージへ向かい、龍之介もそうだ。
麗音愛と琴音の後ろにはもちろん誰もいず、ぶわぁ……とぬるい風が髪を揺らした。
誰も見ていない二人の影。
「先輩……玲央先輩……!!」
「えっ?」
ふらっと立ち上がった麗音愛の後ろから衝撃が走る。
ドスンと当たる体温に驚いたが、すぐに琴音が自分を抱きしめている事に気付いた。
「えっ……ちょ……」
「玲央先輩……、私、玲央先輩が好きです」
ぎゅうっとまた琴音が力を込めて二人の身体が更に密着した。