修旅~意識シちゃって!~
「あ~食った食った」
すっかりお腹の膨れた一同は
泊まる場所も決められていた地上のコテージでシャワーを浴び、
寝る支度をして、地下に降りるものは降りていく。
ボロボロのコテージの中は大部屋一つに簡易的な台所、トイレだけだ。
いつ以来使われていなかったのかわからない仕切りを男女の間に立てる。
麗音愛、龍之介、武十見。
椿、美子、梨里、琴音。
それぞれに寝袋を敷く。
地上のコテージにいる伊予奈は『眠れなかったら地上に出て連絡を頂戴ね』
と連絡先を教えてくれた。
「梨里、結界をコテージ周りに張ってくれ
睡眠の妨害になるようなことがあっては困るから
幾分強めにな」
「えぇ……やだぁ、疲れるし~」
「あの、私がやります。炎の結界の練習したかったので」
ささっと寝袋も敷いた椿が手を挙げる。
「おお、じゃあ頼む」
「はい!」
「あの、俺も一緒に行きます」
麗音愛も寝袋を整え立ち上がった。
「そうか! じゃあ最終の見回りも頼む」
「えー! じゃあアタシ行くぅ」
「俺が椿と行く!」
「まったくお前らは
使えもしない携帯なんぞイジってないで寝ろ!
明日は4時起床!」
文句を言いながら梨里と龍之介はイヤホンを耳に入れ寝袋に入った。
一応カーテンはあるが、外の淡いオレンジの光が部屋に差し込む。
「……明るくて変な感じだわ」
「白夜、みたいですね」
美子と琴音は自然に言葉を交していたのに気付いて
『おやすみなさい』と当たり障りない事を言って、もぞもぞと寝袋に入った。
「結界……私も張れるようになりたい」
ボソッと琴音が呟いた。
コテージを出てきた2人。
周りに、椿が炎の結界を張る。
「これで大丈夫かな」
「あ……」
上空を妖魔が一匹飛んでいるのが見えて、麗音愛は呪怨の翼をまとって
斬り落としに行こうとしたが、また聖流と邪流の流れでバランスのとり方が難しい。
「うあっむずかし」
「麗音愛っ」
しかし妖魔がこちらに気付き襲いかかってきたのもあり、少し飛び一撃で斬り落とした。
すぐに椿が駆け寄り炎で浄化した。
「大丈夫?」
「大丈夫だよ」
「うん……調整が難しいんだね
少し飛んでみて、どう? 何か見えた?」
「あぁ、なんか向こうの方に小屋みたいのが見えたよ」
崖の階段からは、モヤがかかり遠くまで見えなかった。
先程飛んだ時、スッとモヤが晴れた部分に確かに小屋が見えたのだ。
椿は興味津々の顔をする。
「なんだろう? 気になるね! どんな小屋?」
「見てみる?」
呪怨をまた纏って、椿に手を差し出す。
「えっ」
「え?」
「い、いいの……?」
「うん? うん」
「あ、でも、いっぱい食べちゃったし重いかな……」
「そんな事……?」
「えへへ、また、今度お願いしよっかな」
シャワーを浴びた後で降ろしている艶々の髪が揺れて
椿は笑ってコテージへ歩いていく。
「つ、椿……!」
「ん?」
「俺、死物狂いで今回の修行頑張る!」
「麗音愛?」
椿がこちらを振り返った。
「不安にさせてるかな? 俺
また椿に怪我をさせるかもって」
「え!?」
「怖がらせているなら、本当にごめん」
麗音愛が頭を下げると、椿はすぐ駆け寄ってきた。
どこかで蒸気激しくが吹き出る音がする。
「ち、違うよ。そんな事は私は全然思ってないよ!」
「……そうかな……。いいんだ、怖いって思うの当たり前だから」
「違う、違うよ
全然思わない!」
「でも……」
「あっ、い、今……本当に重いかなって……
それで、本当に……本当なの
怖いなんて全然……絶対ないよ
重いのが……気になっただけなの」
ご飯を二膳、三膳食べようが
この華奢な身体を重いなんて思ったことがない。
でも、そう思ったら
自分も椿を何度抱きあげてきたんだろうと思って
恥ずかしそうに下を向く椿を前に、途端に恥ずかしくなってくる。
「お、俺もデリカシーなくて、ごめん」
「ううん、本当なの、信じてね」
「でも急にそんな事、さっきも気にしてどうしたの?」
「う、う~~ん。どうしてだろう……ね
えっとみんなダイエットとか言ってて! 気になったの!
あ、明日の朝なら……大丈夫!」
2人でコテージに戻りながら、麗音愛はもう一つ
気になっている事があった。
もしかしたら、椿は川見先輩と付き合い始めたりしているのかな?
それとも知らない男子生徒?
この前昼休みに、椿を訪ねたら男子生徒に告白された返事をしに行ったと
椿の友人に言われ留守だった。
その時に『椿、先輩と付き合ってるの? 先輩の体裁気にしてんのかな?』
なんて事も言われてしまった。
それまでは即断りの連絡をして終わりだったのが最近は話をしているようで
一体どうしたのかと思っていたが……。
急に体重なんて気にしたり、よそよそしいのも……。
「麗音愛……?」
「あ、いや……なんでも、ない!!」
バチィイン! と麗音愛は自分の頬を打つ音が響く。
「へっ!?」
「気合い、入れた。
兎に角今は、死物狂いで修行を頑張る」
だが今は、そんな事を考えている場合ではない。
修行に集中する、椿が誰を想っていたとしても
自分が守りたい人を――椿を守るために。
「……うん! 私も!!」
バチチィン!! と椿も勢い良く頬を打つ。
「つ、椿」
「負けないよ!」
「おう!」
椿らしさに笑みが出る。
親友同士、拳をコツンとぶつけ合った。