修旅~みんな此処で寝るの?~
『白夜団特殊鍛錬場所・白狐地獄谷』
迫力のある筆文字で書かれた木看板。
その横を武十見は歩き出す。
ものすごく広いこの地下の鍛錬場所は、変なモヤがかかっていてどこまで続いているのかもわからない。
異様な雰囲気、まさに地獄谷だ。
「一応、安全な歩く場所は、チョークで線が引いてあるからその中を歩いて来い
脆い地盤を踏むと落ちるぞ!」
「お、落ちるってなんですか!?」
「奈落の底へ落ちる!」
「はぁー!?」
「亜門うっせーぞいちいち」
「俺は画家なんだよ! 脳筋じゃねぇんだ!」
亜門って誰だ? と麗音愛は一瞬思ったが佐伯ヶ原の名前であった。
歩いている途中でも聖流と邪流が絡み合っているのがわかる。
その度に呪怨が叫び、精神力が消耗されていく。
着いた先は
ボロボロのコテージ。
地上の素敵なコテージとはかけ離れた、ただの小屋だ。
「最低限の設備しかないが、まぁ寝る事ができるだけありがたいという事だ」
「もう、武十見さん。脅かすのはそこまでにしてあげてください!
みんな此処に泊まる必要はないのよ、女の子達は上のコテージで泊まりましょうね
男の子も無理はしなくていいの、こんな時代に辛いとか苦しいとか必要ないのだから」
伊予奈が、武十見の横に来て慌てて笑顔をつくる。
『武十見さん、やめるって言われたらどうするんですか!』と小声で言っているが全員に聞こえた。
この御時世で、しかも紅夜復活となった今どれだけ高給だとしても
白夜団の人員確保は難しいのだ。
「玲央、お前はどうする」
武十見は、そんな話は耳に入ってないように
ニヤリと笑って麗音愛に聞いた。
「此処に泊まった方が強くなれるのであれば、もちろん此処に泊まります」
「私も此処に泊まります!」
琴音がサッと手を挙げた。
「琴音さん!?」
「アタシも~」
「梨里まで! 本気?」
伊予奈は驚くが、剣一はぴゃ~と口笛を吹く。
「おお! 女子はやる気に溢れてていいな!
男子も見習え!」
「じゃあ……私も」
「え? 美子も?」
「だって……」
驚く麗音愛をチラリと美子が見る。
「え?」
「別に、あの2人が泊まれるんだから私にだってできるわよ
椿ちゃんも下でしょ?」
棒立ちで琴音を見ていた椿が、美子に言われ慌てて動き出す。
「あ! はい! うん! うん、はい、此処で……」
「じゃあ俺も此処にすっか~」
「龍之介! お前は元から下だ!」
「俺は上で寝ます、無理だ」
「えぇ、亜門君はコンクールもあるし
アトリエとして一棟使ってちょうだいね。カンバスも用意してあるわ」
佐伯ヶ原の絵道具やカンバスはヘリで運んだらしい。
修行開始とは思えない会話に武十見の眉はヒクヒクと動く。
「俺も! 伊予奈さんと、上で寝る~!」
「剣一も下に決まってるだろうが!!
しかし、此処まで人数が増えるとは思っていなかったな!
寝袋を取りに行かねばならんし、今日の夕飯は上に用意してある!」
「はぁ!? アタシら今なんのために此処まで来たのぉ~?」
「鍛錬場にまず来て何が悪い!
さぁ! 今日は初日のバーベキューだ! さっさと戻るぞ!!
此処に泊まる者はコテージ前に荷物を置いていけ」
「ヤバイわ~意味不」
梨里が文句を言いながら、重い派手なリュックを玄関前に落とすと
佐伯ヶ原以外は皆、荷物を降ろした。
「武十見さん、でも地上にももう1人くらいは見張りと緊急派遣用として
いてもらいたいです」
「あ~そうですね。じゃあ男子で順に
とりあえず剣一、今日はよろしく頼む」
「了解っす~へへ」
戻る道は妖魔の発生状況を把握できたので順番は自由になり
麗音愛は椿の後ろで崖階段を上がっていく。
「椿、疲れてない?」
「うん、全然……わっ」
そう言いながら少し足が滑った椿の腕を支える。
「大丈夫?」
「あ! あっありがとうっ」
掴んだ手はバッと離れてすぐに椿は背を向けまた階段を上がっていく。
何か感じる違和感。
「なんだ、お前避けられてんじゃん」
龍之介が小声で言った。
「龍之介」
「あ?」
「明日からの修行よろしくな」
麗音愛はにっこり微笑んでみせたが
もちろんその中にある本心はそのまま殺気として龍之介の肌をチリチリ弾く。
「甘々坊っちゃんかと思ったら
そうでもないみたいだなぁあああ」
「そんな自己紹介した覚えは俺はない」
「この前俺を怒鳴りつけたこと忘れてないからな」
「なんの事だか覚えてないね」
背後で急に起こった男同士の睨み合いに、椿は心配になったが
武十見は大声で笑う。
「ライバルは必要だ!」
いつもありがとうございます!
椿がバニーガールになってしまうハロウイン短編もありがとうございました!
最高日間59位まであがる事ができました。とても幸せな宝物がまた増えました!
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