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明橙夜明集・哀響

 


 結局、麗音愛、椿、武十見、雪春の4人での昼食が始まった。


「何も電車でこなくても……」


「車だと味気ない。車窓の景色や駅弁も食べられる」


「こんなに買ってきて……」


 雪春より武十見の方が明らかにかなりの年上だが

 ため息まじりで話をされている。


 椿は焼肉弁当2個のあと、駅弁を食べていた。


「修行の報告書は見ましたけど、団長の許可が降りるかどうか……」


「なんだ、自分の子供が身を守るためだ。

 俺が必要性を説こう。剣一の話では若手一斉にということだったが」


 その話には麗音愛も反応した。

 やはりうるさい東支部の梨里と龍之介も来るのか……。


「何かあった時に困りませんか?

 主力の戦力を集めておいてしまって」


 しれっと提案してみた。


「いつも最前線で戦わせておいて、なんなんだが

 きちんと手練の中年達が白夜団にもいるんだぞ!!

 まぁ、何かあれば緊急ヘリもある」


「あ、はい……」


「気遣いがすごいね、ありがとう玲央君」


 雪春に見透かされたようで、少しイラッとする。


「まぁ、剣一君の修学旅行代わりに

 っていう気遣いはわかるよ。今年は君達だけではなく

 藤堂さん達も修学旅行の参加はできなくなったので」


「え……」


 実は二学期には、高校2年生のビッグイベントの修学旅行があったのだ。

 だが

 観光名所などに行く事が禁止されている椿と麗音愛は

 もちろん修学旅行の参加は認められていない。


 椿はその事についても謝罪したが

 やはり麗音愛は、そんな事は何も思わなかった。


「佐伯ヶ原君もですか?」


「そうだね、白夜の子は全員。今年はもう仕方ないね

 こういう年だから」


「そんな……」


「彼については、無駄な時間が省けて良かった的な事を言っていたよ

 藤堂さんも少なからずは予見していたようだし」


「しかし、山ごもりの修行を修学旅行と一緒にするとは

 剣一も連れてきて久々にハードなトレーニングをしてやろう!

 雪春、それはできそうか?」


「どこにいようが、何をしてようが

 予想できませんからね……

 魔笛の存在がある以上、誰か玲央君の傍にいた方が安心です」


 言い返しはできないが、雪春に言われるとなんとも気に障る。


「さぁ、修行の話は進めるということで一旦終わりだ。

 僕はもう一度、魔笛と妖魔の話を聞きたい」


 武十見のお土産の

 あっさりとした幕の内弁当を食べ終えた雪春は

 緑茶を一口飲み、

 ノートパソコンを起動させた。


「もう、聴取を?」


「せっかくの土曜日だし早めに終えた方がいいだろうと思ったけど」


 椿を見ると、うんと頷いたので始める事になった。


「この、妖魔に襲われた時に感じた

 知恵と再生力について教えてほしい」


 直後にも病院で聴取があったのだが、その時に椿が

 そう報告をしていたのだった。


「触手の妖魔に襲われる前に、一匹の妖魔が町の方向へ

 逃げて行くのを見て、もう死にかけていたから緋那鳥で倒そうとしたら

 叫び声をあげたんです」


「その声で触手の妖魔が?」


「はい、偶然かもしれないけど……タイミングがぴったりで

 誘導されたのかなって」


「同型ではない妖魔が、連携をとった……

 もしそれが本当なら深刻な事態だ」


 雪春がじっと考え込むのを見て

 椿は慌てる。


「あ! でもその一匹だけで……他はいつもどおりで

 確信はないんです!!」


『なるほど』と呟き、カタカタとパソコンに打っていく。


「再生は、触手が? 触手が再生したのか」


 武十見の言葉に、椿が頷く。


「そうなんです、私は炎を使って自分ごと

 触手を発火させたけど消滅していくそばから……再生していって

 離れなくて」


 あのおぞましい肌を這う感触を思い出して

 ゾクゾクとしてしまう。


「それでどうやって倒したの?」


「麗音愛が呪怨で倒してくれました」


「あ、はい俺が」


「さすがだね。椿さんに絡みついた触手を

 玲央君の呪怨でね」


 麗音愛と椿が、目を合わせる。


 あの時は何も思うこともなく必死だったが

 服が破られた状態で抱きしめられ肌に呪怨を……上半身に……


 カァッと頬が染まる椿。


「あ、あのっ呪怨って、わ、わからないよね!?」


「なっなにが!?」


「あっえっと、なっなんでもない!!」


 そんな椿を見て、麗音愛も慌ててしまうし

 同じように思い出してしまう。


 大人2人、しかも雪春の前で赤面なんて絶対したくないのに

 顔が熱くなる。

 無意識に前髪を触っていた。


 武十見は笑い、雪春は無表情だ。


「では、続きを……魔笛の件なんだけどね

 やはり明橙夜明集(めいとうやめいしゅう)だと椿さんは思うんだね」


「は、はい、あれは……哀響(あいきょう)だと思うんです」


「哀響も所在不明になっている武器だ」


「妖魔を操る笛だったか」


「操るというか、混乱させたり

 あとは……白夜団側の力をあげる。とも。

 浄化もできるようですね。

 武器というよりはサポート的な存在です」


 パソコンの中に明橙夜明集を電子書籍化している雪春が

 そのページを見せた。


「戦時中に不明になっているし一族ももう絶えている……

 そんなものを何故紅夜会が、

 しかも呪怨の力を暴走させるために使ってくるとはね

 そんな使い方ができる記載はないのに……」


「椿に怪我をさせた事には、弁解の余地もありません」


「麗音愛! 麗音愛は悪くないって何度も言ってるよ!」


「予期せぬ事態だからね

 怪我が治って本当に良かった」


「まぁ、悔しい気持ちはよくわかる

 その思い、修行で生かせ」


「はい」


 誰に、椿に、自分のせいではないと言われても

 麗音愛がそう思うことはない。


「……紅夜会が何故、明橙夜明集を使用できるのか

 それも今は調査中だ。

 そして天海紗妃と名乗っていた少女は本名は狭間滝江(はざまたきえ)というようだよ」


 狭間滝江……

 顔も名前も紅夜の元で変えた少女。

 椿を憎む少女。


「そうですか……でも、もう死にました」


 ポツリと椿は言った。

 彼女に対しては何を思えばいいのか、わからなかった。


 高いビルの窓を秋風が揺らす。




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[一言] 狭間滝江さん、本当に死んだのかなと…… 紅夜会の者達が連れて行ってしまっているから、再生可能のような気がしてる。
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