2人遊園地~何を食べても美味しくて~
「麗音愛もう怪我は大丈夫?
呪怨がそんな怪我させるなんて……」
「ちょっと油断しただけだよ
じゃあ行く?」
「あの……じゃあちょっとお手洗い行ってきていいかな?
酷い顔してると思うから」
「うん、俺も血がついてないか
また見てくるよ」
トイレの前で別れて
麗音愛はすぐ出てきたが椿の姿はない。
でも、すごくホッとしている気持ちだった。
そして今、椿を待っている事が嬉しくて胸が高鳴っている。
「ごめんね、待たせちゃって」
「全然」
出てきた椿を改めて見ると、
今日は上品なお嬢様という感じで
いつもは着ないピンクと白のワンピースにスラリと脚が綺麗で
キラキラしたヒールの靴を履いてる。
化粧直しをしたのか頬はパールで輝いて
唇が艶々で濡れていて
良い香りもするし見惚れてしまった。
「……へ、変かな?」
「え」
「やっぱり変かな、これじゃ
もし戦う事になったら大変だし、
でも家でゲームするなら帰って着替えればいいかな」
「え?家には帰らないよ」
「えっそうなの?」
「うん、土曜の夜に遊びに誘って
家でゲームは……俺もさすがにしない」
対抗ではないけれど、
合コンなんかより、もっと楽しませてあげたいと色々考え
待っている間に調べていた。
「そ、そっか。じゃあ……着替えた方がいい?」
「いいよ、そのままで……
あ~……えっと似合ってる」
「そ、そうかな」
椿が恥ずかしそうに、でも嬉しそうに笑う。
「うん」
「でも、戦闘になったら困るかな」
「俺がいるから」
「……麗音愛……」
「行こ」
さすがに恥ずかしくて、歩き出す。
ぴょこぴょこ椿も着いてきて
また、いつものように会話が弾みだした。
何も難しい事を考えずに
自分らしくいられて楽しい時間。
電車に揺られながら話していると
チラチラと乗客達に椿が見られている事に気付いて
そっと扉側の自分の影になるように移動した。
ふわりと香る女の子の匂い。
椿は麗音愛の見た事のない服を見て琴音の事を思い出した。
「あの……琴音さんとのデートは……?
途中じゃなかったの?」
「デートじゃないよ……
帰るところだったから。
でも……ちょっと任務を見せたんだ」
「え? 任務?」
「うん、ここ数日は単独任務ばっかりで、この前も学校まで来られてさ
昨日も夜中まで」
「そうだったんだ……私、知らなかった
何も知らさせれなくて……」
すれ違いは、任務のせいでもあったんだとホッとする椿。
「終わっていなかった分もあったのと……
俺の事を知りたいって言うから」
「えっ……」
「彼女を助けた時は、雑魚一匹で本当の妖魔の恐ろしさが
わかってないと思ったし……
俺の醜さも不気味さも気持ち悪さも
加正寺さんはわかってない」
「醜くない!」
椿はキッと麗音愛の瞳を怒ったように見る。
「不気味でもないし、気持ち悪くもないよ!」
「……いや、でも」
「そんな事思ったことない……
麗音愛は麗音愛だもの……」
椿の方が悲しそうな顔をする。
「ありがとう」
「……本当にそう思うから」
「……うん」
椿は2人はそれでどんな時間を過ごしたのか
麗音愛の姿を見て琴音はどう思ったのか考えてしまったが
また自然と
楽しい話になり、目の前の麗音愛を見つめた。
電車に揺られて麗音愛が椿を連れて向かった先――。
「わぁ! 遊園地!? ここって」
「そうだよ」
地元の寂れた小さな遊園地。
看板のイルミネーションもチカチカと点滅している。
「古い遊具ばかりで、つまらないかもしれないけど……」
「わーい!! やったーー!!
遊園地!! はじめてーーー!!」
きゃっきゃと大喜びで荒れたアスファルトの上を走り出す椿。
「椿!」
運動神経がいいことも知っているのに、転ぶのを心配してしまう
目が離せなくて……それは出逢った時からずっとそう。
夜間料金で安くなったフリーパスを買って2人で色々乗った。
絶叫系は苦手だったのが、全然平気になっていた。
椿は全て楽しそうにぐるぐる回る。
後ろ姿だけ見ると、今でも椿じゃなく思えて
振り向いて笑うと、椿で。
一緒にぐるぐる回って、すごく楽しい。
たまに翻るスカートにはドキドキする。
「あ! 次あれ!! メリーゴーランド!!」
「え……」
キラキラ輝く回転木馬は
人気がなく、誰も並んでいなかった。
高校生男子としては少し気恥ずかしいが
椿はそのままパスを見せて入っていって
青い飾りの馬を選んだ。
「わっ! 滑るこの馬」
「大丈夫?」
昔ながらの艶々の木馬に座ろうとしてバランスを崩す椿を支えた。
「うん、きゃ」
椿は麗音愛の肩に手を置こうとしたが
いつもと違う素材の服が滑り、首に抱きつく格好になる。
「「!」」
ジリリリと開始のベルが鳴り
従業員の『大丈夫ですかー?』と確認の声が響く。
「は、はい! ほらそこの棒に捕まって」
「う、うん」
時間がなくて麗音愛は横のよくわからない椅子なのか箱なのかに座る。
2人のドキドキが収まらないまま、メリーゴーランドが動く。
風景がまわっていく。
麗音愛も麗音愛で、たまたま下から見上げるアングルになってしまった。
太ももが目に入りとドキっとして目を背ける。
「ていうかこの箱は動かないのか……あはは」
聞こえるかと話しかけたが
いつものように見て見てーとも言わず椿は、じっと木馬に座っている。
「椿?」
「あ! やっほー!」
慌ててピースする椿だが、もうメリーゴーランドは終わりのベルだ。
降りる時も、そっと椿を支えにいく。
「だ、大丈夫なのに」
「ほら」
「ありがとう」
強靭な肉体で怪我をしてもすぐ治る。
それを知っているのに
手を差し伸べてくれる麗音愛の優しさに椿の心はじわじわと熱を帯びた。
「夕飯、どうする?ここ軽食くらいしかないだろうけど」
「美味しそうなもの、たくさんあるよ!!」
ふにゃふにゃの油っぽいポテトに、
乾いたようなたこ焼き
もやしばかりの焼きそば
そんなものしかなかったが、椿は喜んだ。
夜風を浴びて、
プラスチックのスタッキングチェアに座り
古いテーブルの上に
夕飯を並べサイダーで乾杯。
「美味しいー!!」
「うん、美味しい、俺もそう思うよ」
しばらく何を食べても味もわからない感覚だったのが
今は本当に美味しいと感じる。
椿も食べてるうちにここ数日の分のお腹が空いたように感じて
焼きそばを3つ食べて2人で笑った。