映画なに見る?by剣一
「剣一さん、もうお洋服いいですよ」
「いいんだよ
今までオシャレもさせてもらえなかった分だよ
お昼もこんなとこで良かったの?」
椿と剣一はモールの中のファーストフード店の中にいた。
ロッカーにも預けたのに、まだイスの上にも紙袋が山になって積まれている。
「はい! ここ美味しくて大好き」
2個目のハンバーガーを食べる椿。
「椿ちゃんがそう言うなら良かったよ。それにしても……可愛いよ」
「えっ」
「よく言われるでしょ」
「全然です!
みんな、背が低いから
からかってるだけですよ」
「違うよ、本当に可愛い」
「そんなこと、ないです」
剣一もお世辞のつもりはなく、
年相応にオシャレをした椿はとっても可愛らしい女の子だ。
チラチラと見てくる男連中を見るともう少し露出を抑えるべきだったと後悔している。
「いっぱい食べなよ! あとで今流行りのアイスの店も行こ」
「え! わぁ嬉しいです!」
「敬語も使わなくていいよ」
「え、そんな事はできません…」
「いいから敬語禁止ね? 使ったらトッピング減らしちゃうぞ~~」
「あはは! もう剣一さん……」
とりあえずは椿が楽しそうにしている事が剣一にも嬉しかった。
白夜団最大の敵、妖魔王・紅夜の娘。
そんな事をここにいる誰が思うだろうか。
普通のとても可愛い女の子にしか見えない。
剣一の電話が鳴った。
「ごめん、ちょっと電話に出てくるね」
1人になった椿も、ふと携帯電話を取り出す。
メールを見てしまうが
椿フレンズのグループトークが伸びているだけで
もちろん麗音愛からは何もない。
自分がメールをしなければ
何もくるわけないと、わかっている――。
麗音愛はあの次の日の朝、教室まで来てくれた。
過去に自分が走って逃げてしまった時だって
麗音愛はいつだって優しくて悪くないのに謝ってくれた……。
お守りの第2ボタンをぎゅっと握りしめる。
謝ったら許してもらえるのだろうか
それとも、もう……。
言葉にするって難しいし
何を言われるのか考えると怖くなる。
「どうしたの? 大丈夫?」
戻ってきた剣一が椿の顔を覗き込む。
剣一も、麗音愛に似て優しい。
「あ、はい、大丈夫です」
「あ、アイストッピング減らそー」
「や、やですーー!」
今度はバッグや靴なども買い
ファンシーショップで、もふもふ君柄のタオルも買った。
こんなにモールを歩き回ったのは初めてだ。
冷たく美味しいアイスを買ってエレベーター横のソファに座る。
「疲れた?」
「いえ、大丈夫です」
「……玲央は楽しんでるかな?
加正寺さんも結構可愛いよな~」
「……そうですね」
椿の微笑みはぎこちない。
「ま、兄の俺の方が可愛い女の子と一緒だけどね
あ! 今敬語使ったな! アイス食べちゃうぞ!」
椿の手をスプーンごと握った剣一。
「え!」
「なに、間接キスとかも恥ずかしい?」
「か! かん!?」
さすがの椿もキスは知っているが間接キスは知らなかったし
何かと近い剣一にいちいち驚いてしまう。
「あは、冗談だよ、次は何したい?
ドライブでも行く?」
「あ、あの剣一さん。私、今日はこれで失礼しようかと」
申し訳なさそうに、椿が頭を下げた。
「え? なんで?」
「私、剣一さんとこうやって出かけて楽しいけど
2人きりで出かけること……あんまり……見られると」
「誰に? 見られたら?」
剣一は自分のホットコーヒーを飲む。
「あのクラスのみんなとか……えーと他にも……
剣一さんのファンの方とか沢山いるし」
また何か噂になると困るのも本音だし
美子の今の感情はわからないが、いい気分にはならないだろう。
「そっか、今日の夜の合コンはどうするの?」
「え!? 合コン?」
「川見もいるってよ?
行かないの? 絶対モテモテだよ」
「そういうの、あんまり……」
「俺、一緒に行くって言っちゃったんだよね」
あははーと剣一が言う。
「えぇ!?」
「男らが俺が来るなら女子がもっと増えるって喜んでて
あ、川見は椿ちゃんに会いたいって感じだったよ」
そういえば、みんなで遊ぶような話をしていたような気がするが……。
昨日は夜に『怪我は大丈夫?』とメールがして一言返信をして
それだけだった。
「で、でも無理です」
「別に、みんなでワイワイご飯食べて遊ぶだけだよ?
椿ちゃんだって彼氏作ったっていいじゃん」
「え……?」
「うん、恋人」
「な、何を言っているんですか!
私は、私は、あの妖魔の紅夜の……混血で……
一般人の方との深い交流は禁じられています!!」
「誰に禁じられてるの?」
必死で否定する椿を、剣一が優しく見つめた。
「だ、誰にって……ずっと昔からそう言われてたし
自分でもそう……思います……」
「ずっと言われてきて、そう心が傷になってしまってるよね……。
でも
そんなの関係ないって
そんな事は構わず好きだ! って思える男がいるかもよ?」
「……好き……」
呟きと愁いを帯びた表情に剣一もドキリとしてしまう。
「随分、切ない顔するんだね。もう好きな奴いるの?」
「なななななに言ってるんですか! そんなの知らないです」
ブンブンブンブン顔を振り全否定の椿。
その顔は真っ赤だ。
ふふっと笑う剣一。
「わーかったよ☆じゃ、映画だけでも見ようよ?
入っちゃえばわかんないし、ランチ食べて買い物だけで終わりじゃ寂しいよ」
「そ、そうですよね、お買い物に付き合わせて解散も失礼すぎますよね」
「椿ちゃんはなんでも気にしすぎ」
「……人との距離とか……わからないんです……」
カップの中のチョコレートアイスが溶けていく。
トッピングのハートのチョコが溺れている。
「椿ちゃん……これからこれから! さ、ポップコーン食べよう?」
「あ、はい! 食べます!」
携帯電話で剣一は
上映中の映画を調べ始めた。
「どんなの見たい? 今最高に熱い!
スペースウォーリアー見る?」
「あ、それは…」
麗音愛と面白そうだと話していた映画。
一緒に見る予定など立ててはいなかったが……
一緒に見たいと思っていた。
誘えたら誘いたかった……。
また心が痛む。
たとえ一緒に見られなくても
なんとなく先に見るのは……と思ってしまう。
そんな話ができるかも、わからないのに。
「じゃ、ラブストーリーのミルキーウェイをあなたとは?」
「ラブストーリー? はい」
「決まりぃ~いい話だって評判いいよ」
「はい」
ラブストーリーってどんなものだろう?
と思いながら
溶けたアイスを椿はハートのチョコと一緒にすくって
口に入れた。
いつもありがとうございます!
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