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プリティ・ウーマンごっこって伝わる?by剣一

 


 剣一の運転する車。

 2人きりは初めてだ。


「今日、すごく可愛いね椿ちゃん」


「え、そんな……お友達に教えてもらって……

 でも、この耳飾りも邪魔ですね、あは」


 チャリ……とイヤリングをとってカバンに仕舞う。


「玲央も、ちゃんと見てたと思うよ?」


「えっ麗音愛……いたんですか」


「びっくりしてたな……かぁいくて~」


「……麗音愛は、私を見たりしませんよ……」


 玄関にも出てこなかったので

 もう出掛けてしまったのかと思っていたが

 顔も見せてくれなかったのかと、また痛んでしまう。


「でも、もっと可愛く今日はなっちゃおうー!!

 玲央に負けねーぞ!!」


「えぇ!?」


「プリティ・ウーマンごっこって伝わる? 伝わらないか? あはは

 せっかく髪型可愛いくしてきたのに、ごめんねだけど美容室から行ってみよー!」


「えぇ!?」


 ニヤリと笑った剣一は、車を飛ばした。


 椿は美容室で髪を整え、メイクをしてもらう。

 儀式の時とは違う、ほんのりのナチュラルメイク。

 

「まぁ、すごく可愛い」


 美容師も感嘆の声を出す

 されるがままで愛想笑いの苦笑いをする椿。

 そのままいつも学校帰りに遊ぶ巨大モールにやってきた2人。

 女性に人気の洋服屋が並んでいるなか、剣一は慣れたように椿をエスコートした。


「うわ! 椿ちゃん可愛い!」


「剣一さん、これは恥ずかしいです……足の守りが…肩も……」


 可愛いワンピースを着た椿が試着室から恥ずかしそうに出てきた。

 ふわりと柔らかい生地でミニスカートだ。

 

「いいよ!絶対可愛い!」


「こんな白とピンクとか、似合わないです」


 また試着室に戻り、カーテンに隠れる。


「お似合いですよ~すごく!」


 店員もにこやかに椿を褒める。


「ほらほらもう一回出てきてよ

 ピンクとか白、似合うよ? いつも黒とか迷彩はやめてさ」


「目立っちゃうと、逃げにくくなります……」


「もう、隠れて逃げる必要ないんだよ」


「この靴も踏み込めないし、

 攻撃力が下がります……このスカートじゃ防御も……」


 椿の会話に店員も不思議そうな顔をする。


「だから、いーの!

 君は今は1人の女の子!  どこにでもいる、ね?」


「女の子……」


「そうだよ! これ買おう! 全部ください

 これ着ていきます。靴もね」


 剣一に押し切られ、このままの格好で会計を待つ。

 鏡に写った自分は、まるで別人だ。


 足元がスースーして落ち着かない。膝が丸出し。

 首元もスースーする。

 学校のスカートとまた違う気がするのは何故だろう。

 生地のせいか、色合いのせいか


 麗音愛が見たらなんて言うかな……

 そんな事を考えてしまい、首を横に振る。


「あっちの服屋も見ようか?」


「え、まだ?」


「もちろん!」


 ◇◇◇


 麗音愛は琴音に連れてこられた海の見えるレストランにいた。

 周りは高校生などいない。

 明らかに高級だ。

 ジーンズで浮いていないかキョロキョロしてしまう。


「ねぇ、玲央先輩このコースいいですよね?」


「……えっ!? 五千円……」


 上品な革のメニュー表を見て驚く。


「もちろん、ご馳走しますよ」


 缶ジュースの差し入れをするような

 自然な笑みを見せる琴音。


「いや、自分の分くらい払うけど……」


「玲央先輩、素敵ー!」


「素敵ではないよ……」


 麗音愛の感覚的に高校生のデート(課外授業)として、かなりズレているような気がする。


「加正寺さんの周りではこれが普通?」


「ん~、そうですねぇ

 特別なデートでは割とこんな感じですかねぇ」


「そうなんだ……感覚が違うかも」


「じゃあ新感覚を味わってくださいよ

 気に入るかもしれませんよ?

 なんでも経験って父も言います」


 ニッコリと物怖じしない琴音。

 勘違いして此処に連れてきたわけではないようだ。


「私も、あの日

 新しい世界に足を踏み入れたんですから」


 運転手兼護衛? が遠くに見える。


「あの日の夜、俺が助けた日

 よく1人で外を歩けたね」


「ふふ、秘密の抜け道があるんです」


 猫のようなイタズラな笑み。

 色々と破天荒なお嬢様のようだ。


 ランチのコースが始まり

 上品に美しく琴音が食べ始める。


 麗音愛も一応はマナーは理解しているが

 気負いしながら食べる。

 がやはり美味しい。


「ん、これ苦手なやつ……入ってないと思ったのに……」


 琴音は好き嫌いが多いのか、ちょこちょこと残してしまう。


 なんとなく、いつもなんでも美味しい美味しいと人の3倍も食べる椿の笑顔を思い出す。

 あの笑顔を見るとこっちまで嬉しくて、ご飯が何倍も美味しくなる。


「どうしたんですか? 笑って」


「え?」


 微笑んでたなんて気付かなかった。


「玲央先輩、いつも椿先輩とは

 楽しそうにお話してるのに、静かなんですね」


「そう、かな……」


「何を話してるんですか?」


「椿とは……くだらない話っていうか、どうでもいい話2人でしてて」


「私とは話にくいですか?」


「……あんまり、女の子と2人で話す機会もないから」


「じゃあ私は女の子として見てくれてるってことですよね?」


「……うん、でも」


 椿を女の子だと思っていないなんて事はない

 自分は本当に話が下手だ。

 そういうところだぞ、と兄に言われそうだ。


 琴音の話を聞いているうちに

 デザートになる。


 コーヒーを飲んで、少しホッとした。

 これで解散……とはならないだろうかと考えてしまう。


「海をお散歩したら、百貨店でも行きます?」


「ひゃ、百貨店?」


「玲央先輩のお好きな服、選んでほしいんですー」


「そ、それは無理だよ

 俺はそういうの無理!」


「えぇ~……じゃあ何します?」


「う~ん映画……」


「映画! いいですね!」


「ごめん! やっぱりやめよう」


 椿と見たかった映画を、もし琴音が見たいと言えば

 それをうまく回避できる自信がなかった。

 約束なんてしていないけど……面白そうと2人で盛り上がったので先に見る事はできないと思う。


「じゃあ、何します?

 クルージングとか? 普段何をされてます?」


「……普段」


 麗音愛は、普段男友達と遊ぶ時は

 カラオケ、ゲームセンター、バッティングセンター、通信ゲーム……。


「私、玲央先輩の事もっと知りたいんです」


「俺の事……」


「はい!

 ……女の子とお付き合いとか考えないんですか……?

 恋人が欲しいって思わないんですか……?」


「……俺は……」


 綺麗に飾られたデザートのソルベが溶けかかっていたので

 スプーンですくって口に入れた。

 甘酸っぱいレモンのソルベ。


 真っ黒なガトーショコラに

 真っ赤なベリーのソース点々と血のように彩られている。


「わ、私はやっぱり……玲央先輩が……」 


「加正寺さん」


 麗音愛は席を立っていいか琴音に聞いた。


「どうされたんですか?」


「ちょっと電話を、雪春さんに」


「ゆきはる……調査部部長の?」


「うん、俺の事を知りたいんだよね?」


 麗音愛の長い睫毛が揺れて、黒色なのに吸い込まれるような瞳に

 見つめられ

 琴音はクラリと目眩がしながら頷いた。




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― 新着の感想 ―
[良い点] マイ・フェア・レディごっこではないのかw
[一言] これは上手くいかないな……というのだけは分かるね。
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