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すれ違いは加速して

 

 結局、琴音とのデートは押し切られてしまった麗音愛は

 図書部の手伝いを頼まれ、美子とカフェに来ていた。


「おバカよね」


「バカって……」


「学食中に響いてたよ? あの子のデートデートって声」


「デートじゃないよ……野外学習」


 その言葉を無視するかのように、美子はカチャカチャとコーヒーをかき混ぜた。


「玲央は押しに弱すぎ」


「そう、かもしれないけど……」


「……私が言えた義理じゃないけど」


 ボソッと美子は呟いた。


「何か怒ってる?」


「別に」


 ざっくり切ったデザートのチョコレートケーキを頬張るが、美子は笑わない。


「行ったら楽しいかもよ?」


「え?」


「だって初めてでしょ? 玲央に好意のある可愛い女の子と

 2人で遊ぶなんて

 楽しみにしてもいいかもね?」


 琴音の顔を思い出す。

 皆が可愛いという、SNSでも人気だった女の子。

 哀しげな顔をされた時は一瞬胸が痛んだ。

 申し訳なくは思ったが……。


「そうだけど、俺は全然興味ないよ」


「どうして?」


「今は白夜団の事、紅夜の事で頭がいっぱいだよ

 大学受験もあるし」


「白夜団の事……ね」


「なに」


「椿ちゃんはサッカー部?」


「うん」


「イトコンもそろそろ終わり?」


 今度は麗音愛がその言葉を無視して、アイスコーヒーの氷をストローでかき混ぜ飲む。


 自分の話を無視したことに美子は驚いたが

 その21秒後に


「イトコンじゃないから」


 それだけ、麗音愛の喉から音が出る。 






 椿は放課後に、結局サッカー部の見学のためにグラウンドに行った。


 友達が黄色い声で叫びながら応援するのを、横にぼんやり見ていたが

 川見がボールを操る姿は確かに華麗で、練習試合は椿もつい夢中で見てしまった。


 遠目から見ると、ますます麗音愛のようで

 川見が笑顔で椿に手を振る姿を見て、また心が疼く。


 練習後はファミレスでワイワイとみんなで食べたが

 椿はみーちゃんの隣にいて黙々と蕎麦を啜った。


 みーちゃんは蕎麦だけで済ます椿を心配したが

 『大丈夫!』とおどけて笑ってみせた。


 みんなと別れ

 明るい大通りから中道に入り

 暗い夜道をトボトボと歩いていると後ろから川見に声を掛けられる。


「椿ちゃん! 送るよ」


「え?! 川見先輩!? えっ送る?」


 さっきまで女子に囲まれていたのに、走ったのか少し息切れをしていた。


「うん、もうこんなに暗いのに危ないよ」


「全然、大丈夫です。川見さんもこっちなんですか?」


「いや、違うけど」


「え? 違うのに?」


「女の子なんだから」


「え?」


「危ないよ」


「危ない? いえ、大丈夫です!」


 そう言ってるのに、川見は椿の横を歩き始める。


「ファミレスでもうるさくてごめんね。みんな舞い上がっちゃってさ」


「いえ……」


「今度さ、サッカーやってみる?」


「えっ?」


 椿の驚く声に、川見はにっこり笑った。


「見てたいっていうより、プレイしたいって顔してたからさ

 うちは女子サッカー部はないし、明日でもいいから朝練においでよ」


「いいんですか……?」


「もちろん、試合もしてみる? シュート教えるよ」


ニコッと笑った川見に釣られて、椿は今日初めて

自然に笑みが出た。


「今日のゴール凄かったですね」


「見ててくれてありがとう!

 あの時はさ、パスがこうきたから」


 自分にニヤニヤと近寄ってくる男たちは嫌悪するが

 真剣に、そして楽しそうに語る川見のサッカーの話には

 つい聞いてしまう。

 気付けば、川見の身振り手振りの話を聞いて笑っていた。



 そしてマンションが近くなった交差点。


「あ」


 ばったりと、暗い夜道。

 麗音愛と美子。

 川見と椿で出会ってしまう。


「あ」


 麗音愛は美子を送る途中だったので、マンションへは向かわない。


 無意識に椿は少し後ずさった。


 何度も2人でいるのを見ているのに

 並ぶと似合う麗音愛と美子を見てジリッと椿の心臓が痛む。


 麗音愛は初めて、椿が男と一緒に歩いているところを見て

 ただただ驚き、声が出ない。


「こんばんは、椿ちゃんの従兄弟君だよね?

 俺が家まで送っていくから安心して彼女さん送ってあげてね」


 川見が言い終わる前に、椿は無理して2人にニカッと笑って頭を下げると足早に去って行く。

『彼女じゃない……』と言う麗音愛の声は風にかき消された。


「……川見先輩、椿ちゃんのこと」


 椿を好きになる男なんて、どれだけ見てきたか

 でも、椿が……。


 美子を送ってから、マンションへ急いでも

 もちろん椿の姿はない。


 マンション下から3階を見上げても

 部屋の電気も点いていない。


 携帯電話を見ても、既読にはなっていなかった。


 『今から話せないかな』


 としか送っていないので、今更読まれてもどうにもならない。


 携帯電話を見たまま固まってしまう。


 今までだったら、それでも電話していたはず。

 お菓子でも食べようって家に訪ねていたはず。

 ゲームしようって、言ってたはず。


 でも頭に過ぎるのは

 交差点で、足早に行ってしまった椿。

 朝も昼も

 ずっと話していない。


 避けられている――?


 そう考えた麗音愛はもう止まってしまった。


 今まで交友関係で

 喧嘩なんて、こじれた経験がなかった。


 見られない呪いのせいで人間関係も希薄だった。

 誰かを傷つける事もなかった。


 どうしたらいいか、わからない。





 椿もまた暗い部屋に1人、ソファに倒れ込んでいた。


 初めてできた友達。


 大切な親友。


 大切な大切な親友。


 なんでも聞いてきた親友。


 困った事があったら何でも相談してきた。


「麗音愛と……うまく話せなくなっちゃったよ……

 どうしたらいいの……麗音愛……」


 暗い、夜が、2人を包む。

 







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― 新着の感想 ―
[一言] 今辛いけど、でも、このことがお互いを意識する事に変化して、好きという感情に気づけばいい方向に変わるんだけどな。 素直になるのが一番なんだよ、二人とも!
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