同化剥がし~揺れるひまわり~
日本庭園で遊んでいる2人を眺めながら
ベンチに座る2人。
「あの、あの、ごめんなさい」
「いや……別にいいよ」
「まさか、本物だと思わなくて……」
「う、うん」
本物じゃなかったら抱きつくの? とは聞けず
「麗音愛を見たらホッとしちゃって」
「そ、そうだね」
そうだ。心細いところに来た親友。
ホッとするに決まってる。
「ごめんね」
「いいって」
この微妙な空気を変えるには本題しかないだろう。
「ここは美子の心の世界?」
「うん、多分」
「そうか……」
たたっと駆け寄ってくる顔のボケてる少年。
「お兄ちゃんも遊ぼう」
「ふふ、可愛い麗音愛」
「……タケルだよ」
「あ、ごめんね」
「いいよ、遊ぼう」
美子には、こんな風に見えていたんだ。
と少しショックな麗音愛。
今は多分継承同化もできるレベルなので
力も増えてまだマシに見えているはずだ。
よくこんな自分と一緒に遊んでくれていたものだと思う。
「ごめん、今、忙しくて」
「でも、麗……れ、玲央……くん……」
「え」
少年麗音愛の前で麗音愛を呼んではいけないと思い
玲央と呼ぼうとしたが、何故か呼び捨てに躊躇してしまった。
呼ばれた麗音愛は、なんだかまた気恥ずかしい。
「少しだけ遊んであげたら?」
「う、うん」
「お兄ちゃん、レオって言うの?
レオならカッコいいかもね!」
「行くぞー!! タケル!! 兄ちゃん!!」
そう言えば、兄も黙ってこのタケル呼びに付き合ってくれてたな、と思い出す。
少年麗音愛に連れられ
少しの間3人で不思議な球蹴りをした。
その間
椿は、舞意杖を使い
この世界を検索する。
美子の心に絡みついた、舞意杖を探す。
美子本人はどこかにいるのだろうか?
それとも、創造主として此処を見下ろしているのか。
「あのお姉ちゃん、彼女なの?」
「うるさいなぁ、違うって」
「俺もさ、最近彼女できた!隣のクラスの子」
笑う剣一の横で
ボヤケた自分がボヤケてても悲しそうな顔をしているのがわかった。
あぁ、そうだ。
剣一が彼女ができたと嬉しそうに話した日。
美子が泣いた。
きっと、その日
美子は近所の幼馴染のお兄ちゃんじゃなくて
恋をしている事に気付いたんだ。
まぁ……
そんな事は同化剥がしには関係ないか。
「椿、何かわかった?」
「うん……やっぱり美子ちゃんを探さないと」
「タケルー! 剣一君~!!」
「!」
ピンクのワンピースを着た
その頃からもう既にストレートロングの美子。
幼子らしく
可愛いピン留めをしている。
「よっちゃん
遊ぼう~!!」
元気に美子に駆け寄る剣一。
頬を染めて、剣一の元へ向かう美子。
日常の可愛い子どものじゃれ合い。
「!!」
しかし麗音愛は晒首千ノ刀を構え、
駆け出す!!
「麗音愛!?」
キィイン!!
金属音が鳴る。
麗音愛が少年剣一を脇に抱え
くるりと晒首千ノ刀を逆手に持ち替えた。
トン! と
空中に飛んだ身体を静かに着地させた美子は
槍鏡翠湖を持って、その切っ先を麗音愛に向けた。
「な!」
間髪入れずに、その槍先を麗音愛に突っ込ます。
擦れ擦れで避け、呪怨を発動させる。
呪怨の攻撃を避け美子は、
日本庭園の池の方に飛び退いた。
「美子ちゃん!!!」
少年麗音愛が叫び追いかけたが
「ダメ!!」
椿がボヤケた顔の少年麗音愛を抱き止めた。
「いらないいらない」
「美子……いや、槍鏡翠湖?」
幼子の姿の美子が
ぐぐぐ……と槍鏡翠湖に操られるように
槍を持ってまた立ち上がる。
「何故この子を殺そうとする!?」
「……うごけない……」
「なに?!」
「しばられて、しばられて……うごけない……」
震えるように、幼い美子は血の涙を流す。
「ころす……」
「!」
美子が攻撃するより前に
椿は炎を発動させる。
「剣一さん! こっち!」
麗音愛が放った剣一を、椿が抱き締め受け取った。
「椿! 美子を傷つけても大丈夫なんだろうか!?」
「……どうだろう、でも剥がされる側が負傷したことはないって」
「そうだな、それにしてもやりにくいっ!!」
躊躇なく、槍鏡翠湖は切っ先を麗音愛に向けてくる。
「! 麗音愛!」
剣一と麗音愛を抱いていた椿だったが
緋那鳥を瞬時に出して駆け出した。
「浄化結界!!」
交わした麗音愛に向けて、美子が叫んだ。
キィン!光る槍鏡翠湖。
麗音愛の学ランを思い切り
引っ張り、突き飛ばす椿。
紫の炎を使ってその衝撃で、更に遠くへ。
槍鏡翠湖は浄化の力もある。
そしてその力は最強レベル。
麗音愛と相性が悪すぎる相手。
「椿!!」
「美子ちゃんごめんね!!」
美子が相手では椿もやりにくい。
が
此処で結界で留められては椿が死ぬ。
躊躇はできない。
瞬時に力を集中させ、槍鏡翠湖を持つ手の間に爆発を発生させる。
浄化の光と、爆発の光が交差する。
「椿!!」
麗音愛は2人の少年を背に守り爆風を防いた。
揺れるひまわり。
すぐに煙から飛び出すように、美子が椿に襲いかかる。
槍と細剣の相性も悪い。
椿は弓の帰兎を発動させると、空中へ飛び上がった。
「そうか!」
空から一斉に射撃してやると、椿は思ったが
宙に浮かんだ椿を美子も飛び上がり追ってくる。
「嘘!?」
麗音愛が呪怨の槍を発動させ、美子に向けて射った。
しかし美子が円を描くように、槍を回すと
そこに浄化結界が発生し呪怨の槍は溶けていく。
そしてそのまま槍鏡翠湖を
振り回し椿を狙って突き刺す!!
「逃げろ!!」
麗音愛がすぐ呪怨の翼をまとって援護にくるのを椿には見えた。
帰兎を離し、落下する椿。
どちらを追うか一瞬迷う美子だが
椿を追って落ちてくる。
「麗音愛!! 手を出さないで!!」
「!?」
「槍に勝てないんだったら、鎌にも勝てない!!」
落ちてきた美子を細剣で追撃する椿。
リーチの短さのハンデを素早い動きで、カバーし
美子の槍を握る右手に一突き。
「そしてこの槍鏡翠湖は私が使うことになる!!」」
血が吹き出て、小さな幼女の手から槍が滑り落ちそうになる。
「だから私が、勝つ!!」
その瞬間を、椿は見逃さない。
細い緋那鳥だが、力を込め槍を思い切り払う。
「この――!!」
幼女の顔が歪む。
踏み込み、懐に入った!!
火鳥の羽ばたきのように、
緋那鳥は煌めき
美子の心臓を一突きした。
「――ごめんね」
瞬間、弾ける幼女の身体。
激しい閃光に椿の目が眩む。
抱き締められるのがわかった。
麗音愛だ。
くるっと、身体がまわるのもわかる。
目が見えなくても、こんなにも……。
ぎゅっと学ランを握る。
離れた場所に、そっと降ろされた椿。
終わった――??
「槍鏡翠湖がない!」
「え!?」
麗音愛の声でまだ見えない目をこじ開ける。
「……兄さん達もいない」
その時、季節が変わる。
雪が舞う。
一気に日本庭園には雪が積もり
2人の息も白くなる。
無意識に守るように椿を抱き寄せる。
「あれで終わりじゃなかったんだ」
「あぁ、そうみたいだ」
門の外、道路で声がする。
「玲央~お前は連れて行かないって~」
「だって兄さん……俺も行きたい」
すぐに2人で門の上に立って見下ろすと
剣一と麗音愛。
さっきより成長している。
私服だ。
「……兄さんは6年の時かな」
「小学生?」
「あぁ」
友人と雪遊びに行くのだろうか
それに一緒に行きたいという麗音愛に
ダメだと言う剣一。
「麗音愛、剣一さんの事
すごく好きなんだね」
「違うって……子どもだから」
「行きたいよー!」
「今日だけだからな……泣いたら
帰すぞ」
そういえば
友達関係が、うまくつくれない麗音愛を
なんだかんだ、かまってくれた。
「剣一さん、優しいね」
「……あぁ」
そんな事すっかり忘れていた。
「あ!」
椿が指差す方向。
積もった雪のなか
立ち尽くす女の子。
美子もまた成長している。
可愛いマフラーを巻いて
コートを着ているのに、
手には槍鏡翠湖。
剣一を睨みつけた後、すぐに門の上に立つ麗音愛達も睨みつける。
その強い眼光に、ゾクッと血の気が引いた。
「何人と戦うんだ」
愕然としてしまう麗音愛。
さっきより力も強くなっているだろう。
「何人でも――
――私がやらなきゃ」
「椿」
「強くなりたいの――!!」
少し赤みがかった
強い意志の椿の瞳。
「……わかった、俺は全力でサポートする」
うん、と頷く麗音愛。
拳を出す。
「ありがとう」
椿も拳を出して
コツンと合わせる。
2人は力を込めて門から飛び降りる。
「行くよ!!」
進む道を燃え上がらせ
雪を溶かしながら、槍鏡翠湖に椿は突っ込んでいった。
いつもありがとうございます!!
なんとレビュー!!を書いて頂きました。
アクセス、評価、感想ブクマ全て嬉しいのですが
レビューも最高の宝物でございます。
宜しければ是非レビューも読んで頂ければと思います!
流行りとは逆行している伝奇ものですが
それでも読んで頂ける皆様
ありがとうございます。
楽しんで頂けるように頑張ります!!