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同化剥がし~儀式始まり~ ◇

 

 準備室のロビーで

 椿が出てくるのを待っていた麗音愛。


 剣一と一緒に儀式用の羽織袴を着ている。


「これじゃ、戦えないよ」


「今日は妖魔は来ないって、結界班がいるから」


「何が起きるかわからないし……」


「精神的なものが起きたら

 椿ちゃん1人に頑張ってもらうしかないな」


 そうなのだ。

 舞意杖の同化の時も

 麗音愛ができたのは励ますことだけ。


 でもそれでも、

 何があっても守る。


 麗音愛の気迫を見て

 やれやれと思いながらも微笑む剣一。



「剣一君」


「ん」


 2人の後ろには、白い着物を着た美子がいた。


 昨日の夜には両親と共に挨拶に訪れ

 2人とも椿と麗音愛に深々と頭を下げ、何度も御礼を伝えてきた。


 美子の母は椿の手を握って

 謝罪や感謝など涙を流し伝え、椿は優しく微笑みながら

『必ず成功させます』と言った。



 美子の顔は緊張に縛られている。


「よっちゃん、大丈夫だって

 おわっ」


 剣一に抱きつく美子。


「怖い……剣一君」


「あは……大丈夫、大丈夫」


 あくまで子どもをあやすように

 抱きついてきた美子をポンポンと慰める。


 結局恋心は整理できなかったのか

 麗音愛は、目をそらすようにして

 椿の控え室の方へ行ってみる。


 丁度、椿が出てくるところだった。


「あ、麗音愛」


 綺麗な赤が基調の儀式服を着て

 髪を結われ

 紅をさした椿。


 また、違う雰囲気。


 心臓が動く。


 椿は椿で

 羽織袴の麗音愛を見て、ポッと顔を赤らめる。

 隣の佐伯ヶ原は涎を垂らしそうな目で見ている。


「写真に撮ってやろう椿、ささ、サラも」


「えっ」


「うん! ありがとう」


 これから何が起きるかわからないというのに

 いや、だからこそか。


 ささっと、椿が横に並ぶ。

 何もないただの白い壁。


「はいチーズ」


 上目遣いで、いひひっと椿が照れたように笑ってきたので

 麗音愛も笑い返す。


 思い出の写真だなんて

 1枚も自分では持っていなかったのに

 椿と出逢ってから、増えていく。



 ロビーに戻ると剣一と美子の2人は既に離れていた。


「お願いします」


「うん! 頑張るね」


 着飾られていても

 椿は椿。

 清らかな笑顔。


 そして、同化剥がしの儀式が始まる。





 祭壇に座る美子。


 ドーン

 ドーンと太鼓が叩かれ


 桃純家当主 椿の名が呼ばれた。


 今回、寵から椿を名乗る事も正式に承認されたのだ。


 呼ばれた約100の一族の当主が

 一斉に椿を見る。


 200の目玉の注目に

 椿の神経がピリピリと痛む。


 でも負けるわけにはいかない、と

 ギッと前を向いて

 儀式の立ち場まで、ゆっくり摺り足で歩いていく。


 篝を見た事のある者も、

 見た事がない者も、


 椿の姿に驚き、ざわつく。


 そこには

 地下鉄浄化作戦で共闘した

 釘差龍之介(くぎさしりゅうのすけ)

 鹿義梨里(かぎりり)

 の姿もあった。


「椿、めちゃマブ」


「見て、玲央もまじイケメン」


 椿の後ろから、歩いてくる麗音愛。


 今日は椿だけではなく

 使える者などいなかった

 最強の呪刀「晒首千ノ刀」を継承した

 咲楽紫千家の次男も注目の的だったのだ。


 力がある白夜団団員。

 麗音愛の美しさも多少見えるはずだが

 それ以上に麗音愛の纏う、呪怨の影にある隠れようのない殺気。


 先を歩く椿に

 一つの傷も与えぬように観衆へ恫喝する怨霊、無念の魂。


 ふっと、先に着いた椿が麗音愛を見つめた。


 冷たく、感情のないような瞳。


 でも、その奥の

 自分を守ろうとして放たれた殺気のその奥の優しさに

 椿の胸はドクンと熱くなる。


 本来は桃純家のこの同化剥がしの儀式に、咲楽紫千家が関わる事はないのだが配慮という形での同席だ。


 椿が祭壇の美子の前に立ち、舞意杖で松明に火を点ける。


 美子は剣一を見つめる。


 この同化剥がしが終われば、白夜団を抜け

 一般人に戻れる。


 恐ろしい戦いなどしなくてもいい。


 安心に安全に普通の毎日が送れる。


 でも、それは剣一との時間のさよなら。


 結局まだ好きでいてしまうけれど

 今度こそ。この恋の終わりを決意しなければと美子は思う。


 友人・椿が危険を顧みず

 決意してくれた儀式中に何を考えているのだと慌てて意識を集中させる。




「紅の夜を


 明かせよ


 白の空に


 染めよ


 白の明かりで


 紅の夜を


 明かせ 」



 明橙夜明集にも書かれている

 白夜団の信念だ。


 次に、紙に書かれた

 詠唱を始める椿。


 それを後ろから見守る麗音愛。


 どんな事が起きるのか――。


 麗音愛も少し緊張で、ぐっと手を握りしめる。


 すると椿の身体が濃い紫色の炎で包まれた。


 その色はもっと濃くなり群青色の炎になる。


 そして同じ色の炎に美子が一気に包まれた。


「!」


 瞬間に、意識を失い祭壇で倒れる美子。


 誰も駆け寄ることはできない。

 何が欠落すれば

 儀式が壊れるのか、誰にもわからない。


 剣一を見るが、剣一も首を横に振る。


 椿が詠唱を終えると同時に椿の身体はゆっくりと浮かびあがり

 気を失ったようにガクリと首が揺れ地面に倒れ込む。


「椿――!」


 麗音愛は椿に駆け寄った。


「お、おい玲央」


 ざわつく儀式場。


 椿の瞳は開いたままだったが、いつものような輝きはなく人形のようだ。


 麗音愛には椿の魂と、美子の魂が共鳴しているように見えた。


「椿」


 やはり、精神下の戦いになってしまうのか。

 自分には何もできないのか


 何か力にはなれないか――。


「椿」


 麗音愛が

 舞意杖ごと椿の手を握ると

 麗音愛も身体にも群青色の炎が燃え移った。


「!」


 これでいい!!

 自分も連れて行け!!

 その場所へ舞意杖!!


「玲央ー!?」


 激しく燃え上がる群青色の炎。


 椿を見ていた視界がブツリと暗転した。






 ミーンミンミンミーン


 ミーンミンミンミーン


 暑い。


 暑いけど、冷たい。


 固い床。


 冷たい床。


「!」


 ガバッ! と起き上がると

 そこは道場だった。


 制服姿の麗音愛。


「……俺の、家……?」


 マンションに建て替える前の道場。


 今のように、びっちりとした住宅街に建つマンションではなく

 平屋の家もあって

 広い日本庭園もあって

 麗音愛はこの家の方がもちろん好きだった。


「なんで……」


 頭を整理する。

 さっきまで同化剥がしの儀式をしていた筈だ。


 この世界は……。


 ふと、子どものはしゃぐ声が聞こえてきた。


 庭の方。


 麗音愛はまず自分のなかに晒首千ノ刀がある事を確認する。


 精神世界に来ても

 魂に絡んだこの呪刀は離れないようだ。


 しかし今は感謝する。


 具現化し、右手で携えながらゆっくりと外へ出る。


 椿はどこなのか。


 ここは安全なのか。


 何をすれば同化剥がしになるのか。


 椿もここにいるのか。


 色々と考えながら

 庭にまわると――。




「キャー!! ちょっと!! 待ってよぉ!!」


「待たない!! お姉ちゃんが鬼だよー」


 日本庭園に不釣り合いな

 大きなひまわりが揺れるなか


 同じように制服姿の椿が少年2人と遊んでいた。


「いえーい! スカートめくったりー!!」


「ギャー!! やめて!!」


「兄さんやめろよ!!」


 あの2人は。


「……椿」


「! あ、麗音愛!?

 れ、麗音愛だー!!」


 麗音愛を見ると、椿はダーッと駆け寄ってくる。


 そして、そのまま抱き締められた。


「!?」


 ふわっと椿の柔らかい身体がぶつかってくる。


 ドキーン!! と高鳴る心臓。


「今の年齢の麗音愛も、此処にいるんだね。

 心の中の麗音愛でも会えて嬉しい」


 ぎゅ~っと、ますますされ

 半分頭が混乱してくる。


 どうしたら、いいのか。


 こんな時に、こんな動悸をして

 喰われてしまう。


「麗音愛……頑張るから……待っててね」


 自分の名を囁いて抱き締めてくる。

 すりすりされている。

 頭が処理できない。

 柔らかい感触。


 どうすれば。


 片手で晒首千ノ刀を握っている。

 左手で……。

 そうだ、さっきの兄のように。


 ポンポン、と……。


「……ん? 晒首千ノ刀……」


 椿が晒首千ノ刀に気付く。


 そして、ゆっくりと麗音愛から離れていく。


 そろ、そろ……と後ずさる椿。


「ま、まさかとは思うけど……

 麗音愛……? 本物の?」


 2人のやり取りを見ている

 ニヤニヤの少年と

 顔がぼやけた少年。


「う、うん。そう、俺も来れたみたいだ」


「あ、あわわわわわ」


 どんどん顔が赤くなっていく椿。


 それに釣られて自分の顔も熱くなっていくのを感じる麗音愛。


「あはは!! ハグして顔真っ赤になってる!!

 お姉ちゃんは可愛いけど、お兄ちゃんはださいね!」


 子どもでも殴りたい、このバカ兄貴。

 と思った麗音愛だった。




挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 巫女椿ちゃんのイラストかわいい! 美子ちゃん…切ないなぁ…ほんとに馬鹿な兄貴だぜ(´;ω;`) 夢の中だと素直に抱き着ける椿ちゃん♡ でも麗音愛の背負うものがつらすぎる… 何の心配事もな…
[一言] 群青色の炎の中、意識が薄れるこれは精神の中に入ったと考えて良いんだろうか? その中に子供姿の剣一と麗音愛が居る。 これはどういう事だろう。以前に椿と麗音愛は会っている? そして! 巫女姿…
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