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プロローグ

 事務作業に区切りをつけて時計に目をやると、午後6時をさしていた。

 曇りがちな天気だったせいか、窓の外はずいぶん暗くなっている。


 開業カウンセラーをしていると、比較的自分のペースで時間配分がしやすい。

 大きな病院や診療所勤めをしていた時は、医師の指示されるがままに仕事をしているような感覚があった。


 ――とはいえ、ディスプレイと向かい合う時間が長い日は同僚の一人や二人いてほしいと思うこともある。


 パソコンの電源を落としてみたものの、すぐに帰る気分ではなかった。

 攻略中のソシャゲを起動するのもいいけれど、たまには書類の整理をしよう。


 余裕がある時は問題ないのに、忙しい時ほど片付けを後回しにしがちだ。

 心理の仕事をしていても、テストを受けたら何かしら引っかかるかもしれない。


 印刷したまま読んでいない論文、カウンセリングの参考にしようと思った資料。

 自分のだらしなさに苦笑しながら、存在さえ忘れていた書類が出てくるたびにため息が漏れた。


 一通り整理し終えたところで、机の中に無地の封筒を見つけた。

 手にとるとそれなりに厚みがあり、中にはルーズリーフの束が入っていた。 


 そのうちの何枚かに目を通してから、過去のクライアントがカウンセリング前後の出来事を振り返ったものだと思いだした。


「……Tさんか。彼女は元気にしてるかな」


 カウンセリングをしていた頃の様子が断片的に浮かんできた。

 大学を出て一流企業に勤め、男性の僕からは容姿端麗に見えた。


 一般的な感覚からすれば、不自由などしていないように見えるだろう。

 それでも、本人には本人なりの苦しみや葛藤があった。


 彼女がここを訪れたのは家族のことが大きな理由だった。

 クライアントの個人的な事情に興味を持つことは少ないものの、Tさんの身に何があったのか改めて知りたい気持ちになっていた。


 一行、また一行と読み進めるごとに、当時の彼女の様子が思い浮かんできた。

 Tさんはどんな思いでこの記録を書いたのだろう。


お読みいただきありがとうございます。

二年ぶりに夏のホラーに参加しました。


作品の内容はすべて架空であることをお断りしておきます。

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