4 基礎訓練へ向けて
もうちょっと頑張ろうと思います。
「お二人はどのようなご関係で……?」
これはただの旅商人と村長の仲じゃないだろ。もはや親戚レベルだ。
「村長は私が行商人になるのを手助けしてくれたの。この村長、こう見えて王都の学院で学んだこともあるすごい人なのよ」
それはすごいな。村といえど、村長ともなるとしっかりと学力が必要なのかもしれない。
「ほぉーん?ソフィがついに男を……」
村長がにやにや顔をしている。はぁ、、、そうなればいいですね……。
ソフィは一ミリも動揺することなく苦笑して言う。
「シンヤは旅商人志望なんです。もう、変なこと言わないでください村長」
うんうん……へんなことだよね……。現実を突き付けられると悲しくなる。
「旅商人志望か。旅商人は印象と弁舌が命ということは心に留めておくといいぞ」
茶化した雰囲気からすっと表情を引き締めて、助言をくれた。
「あ、ありがとうございます」
優しい人なんだろう。怪しまれないための建前なのが心苦しい。
「それでソフィ、薬草の評判はどうだった?」
「当然上々よ。ポーションの材料を冒険者の採集に頼らずに仕入れられるって喜んでた」
ソフィの言葉に、村長がほっと安心したように息をついた。
「そいつは良かった。どれもソフィのおかげだ」
「そんなことありませんって。育ちにくいアゲハノクサの生育を解明したのは村長なんですから」
薬草か……、薬屋が儲かるのはどの世界でも同じらしい。それはそうと冒険者というものもいるのか。元の世界のファンタジー要素は全部詰まっているって感じだな。
新しい世界の二人の話はどれも新鮮で、じっと横で聞いていた。王都で発表された農法の話や、新しく流行る服の素材という、生産側ならではの話に二人は花を咲かせている。
一通りのことを話し終わったのか、ソフィが俺の登録証のことを頼んでくれた。
「登録証を作ってくれ?」
怪訝な顔を浮かばせる村長に、俺は頭を下げる。
「いろいろあって……、ここの村で登録証を作っていただきたいんです」
「いやぁ、人はそれぞれ事情があるもんだ。登録くらいしてやるよ。ほら、頭上げて」
「ありがとうございます」
なんていい村長なんだ。これで不審者からは脱することができた。
「これからシンヤにいろいろ教えるから数日間泊まるつもりなんだけど、部屋って貸してもらえる?」
「おう、しかしなぁ……一つしか客室がないんだがいいか…?」
困ったような顔を浮かべる村長。
まじすか。こんな可愛い子と同室なんて……いや、経験がなさすぎて想像しただけで緊張するぞ。てか女子とこんなに話せているのが奇跡まである。転生後のこの謎テンションがいつまでもつかどうか。
「大丈夫ですよ村長。紐でぐるぐる巻きにしておきますから」
「え、ソフィさん……?」
「当たり前じゃない。近づいてきたり勝手に解いたら切り刻むから」
こっわ!この人こわい。
「すみません、きっちり縛ってください死にたくないです」
さっきも容赦なく気絶させられたからなソフィは。やりかねない。
「はははっ、すっかり打ち解けているんだな。登録証については心配いらない。ソフィからしっかり学べよ」
そんな俺らの様子を見て、楽しそうに笑う村長。
「頑張ります」
これから俺はこの世界で成り上がらなければいけないのだ。なにを習うにせよ、しっかりと学ばなければいけないのは違いない。ソフィという理解を示してくれた存在がいるこのチャンスを逃すわけにはいかないのだ。
「うむ、じゃあまた夕食の時に」
そういって村長は奥に行ってしまう。
「さぁ、私たちは訓練しましょうか」
「お、お手柔らかに……」
完璧な笑顔をこちらに向けて、なにも言わずに来た道をいくソフィ。
こわい……、ネイヴィーシールズも真っ青の訓練とかされないだろうか。しかし今の笑顔は反則気味に可愛かった。天国と地獄を心がシャトルランしている気分だ。
まったく、死後に神様に会えたらイージーモードってのは過去のものらしい。せっかく異世界に転生したのに、チーレムしている暇なんてないじゃないか。
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