3 物語のはじまり
投稿頻度がはじめから死んでてすみません
頑張ります、はい。
ブクマが30件を超えていました!
本当に待ってくれてありがとう。
どうやらまだ俺は命の危機から脱出していなかったらしい。
しかし緊張したのも束の間、俺のカエルがつぶされたような声を聞いた彼女は吹き出した。
「って、冗談よ。【解析】の時間が欲しかっただけなの」
「解析?」
なにかされていたのだろうか。
髪を乾かし終わった彼女はおもむろに立ち上がると、指を鳴らした。
同時にシュパッと俺の身体を縛っていたロープが、地に落ちる。どうやらなにか魔法を放ったらしい。
「本当は勝手に人に向かって使ってはいけないし……なにより使える人がとっても少ない魔法なんだから」
なんだか軽く自慢された気がする。いてて。服についた汚れを払いながら立ち上がってみると、体のあちこちが痛い。なんか投げられたからかな。
「んで、それでなにがわかったんだ?」
「ちょっとは尊敬しなさいよ――って、まぁいいけど。結果から言うと、普通の人じゃないのは分かったわ」
「というと?」
「この【解析】っていう魔法は、能力を数値として測れる魔法。今の各項目の数値とか、使える魔法とかかなり詳しくわかるはずなんだけど……」
「俺の数値は測れないってことか」
まぁ、祝福を受けた異世界の人はこの世界の理から外れてるだろうしな。説明のつかない数値とか。
「だから、ひとまず殺すのはやめるわ」
「ひとまずじゃなくて殺さないで欲しいなぁ」
「その時はその時ね。あ、まだ名乗ってなかったかしら。私はソフィアよ、旅商人をしてるわ。ソフィって呼んで、よろしくね」
「お、おう。急に優しくなったな」
さっきまで漂っていた緊張感は嘘のように消え失せていた。
「水浴びしているところに不審者が来れば誰でも怒るわよ」
「確かに。もう名乗ったけど、シンヤだ。こちらこそよろしく頼む。えっと、この世界についてまったくわからないんだ。一から教えて欲しい」
旅商人なら、世情に詳しいだろう。当たりかもしれない。いや当たりだ、可愛いし。
「分かったわ。丁度これから近くの村に、買い付けにいくところなの。その村で登録証を発行してもらうといいわ。そこへ行く間、この世界について教えてあげる」
「なにからなにまで、ありがとう。最初に会ったのがソフィで本当に良かったよ」
「こ、これくらい当たり前よ。旅は助けあいなんだから」
ふんっ、という感じでそっぽを向かれてしまう。
少しつっけんどんな口調からして、照れているのだろうか。頬も若干染まってるし。か、かわいい。
「はい、いくわよ」
「りょーかい」
この世界、楽しみになってきた。
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水場から村までは、体感で30分くらいの道のりだった。綺麗な水で体を清めたい気持ちはわかるが、さすがに女の子といったところだろうか。村へ向かっている間に、この世界についておおまかなレクチャーを受けた。
まず大きな点は、この世界は魔法があるということと他種族で構成されているということ。神様達がゲームなんかでお馴染みの設定にしたんだろう。おかげですんなりと理解できた。
そして、今いるここはリーゼ王国という国だそうだ。代々女王が統治している国で、魔法教育に力を注いでいるらしい。治安も安定していていい国だったが、この20年ほどだんだん下降傾向にあるとのこと。
周辺国は三つあり、レミナ連邦が一番大きい。しかし連邦制であり、あまりまとまってはいないらしい。これも20年ほど前から、小規模な紛争が起き始めきな臭い地域らしい。
二つ目の国は、ノーダン帝国。魔法より技術を発展させている国で、魔法も金属加工などの工業に使っているらしい。大国ではなく秘密主義なので、よくわからない国なんだそう。
三つ目は亜人たちが暮らす大森林がほかの三つを囲むように広がっているそうだ。森林の向こう側の国々とは亜人たちを介すか、海路での貿易になる。これもまた、ノーダン帝国とレミナ連邦が森林を開拓し始めて亜人たちとの紛争が絶えなくなってきているらしい。ちなみに亜人とは、エルフや獣人族などのおなじみの彼らのこと。
つまり、神々のゲームのせいでいっきに世界の治安が悪くなってるってことですね!ごめんなさい!全部20年くらい前からって絶対そのせいでしょ。この世界で高位にならなければいけなくて、その力もある人間が変な奴しかいないことになってるんだから。
聞いているうちに土下座したくなってきたのだがその結果、情報屋としての価値も含めて旅商人のソフィはかなり儲かっているそうで、ありがたいそうだ。
「村で水浴びをしようとすると、ああなるのよ」
一気に流れ込んできた情報を忘れないように整理していると、いつの間にか店の主人との交渉を終わらせたソフィが戻ってきた。
「ああなる?」
ソフィが指さす先を見る。
「あぁ~」
納得である。
夕方になっているからか、農作業を終えた人たちがの周りで数人、水浴びをしていた。そこには簡易な衝立が申し訳程度に置いてはあるが、男女が同時にである。見ようと思えば見えるし、今まさにちょっと年のいったおっさんがふざけ半分に覗いて、若い女の子がおっさんの顔面に水をぶっかけていた。
まぁ、おおらかなんだろう…。ソフィの場合は水どころでなく致死性のなにかが飛んできそうだ。
「この国は魔法教育に力を入れてるけど、その分他には手が回っていないのよね。都市部と農村部の文化面の差が大きくなってきてる」
「これはこれでいいんじゃないか……?」
日本は明治時代にかなり風紀を正したからなぁ、江戸時代とかこんなもんじゃないの。
って、そんな冷たい目で見ないでくれよ。
「さ、馬鹿な事言ってないで登録証を作りに行くわよ」
「こんな不審者でも作れるのか?」
まず登録証ってなに。
「ここの村長さんとは親しいから大丈夫よ」
「なんか、ありがとうな」
「いいわよ。一つ目の噂が正しければシンヤについていくのは面白そうだもの」
なんというポジティブシンキング。二つ目の噂は殺せっていうやつなのに。
村の居住区画を歩いていくと、一際大きい家が視界に飛び込んできた。
「あれが村長の家か?結構大きいな!」
「今の村長さんは有能なの。旅商人を使って新しい農法とかをすぐに仕入れてるのよ」
なるほど。どんな人なんだろうか、意外と若かったりするのかな。
ドアをノックすると、メイドさんが用件を聞きに来た。メイドさんである。もう一度言おうか。
メイドさんである。
だけど、可愛くない。いや、初見ならそこそこだけどソフィもう見てるからなぁ。
「旦那様は今、入浴中ですので…」
メイドさんの言葉が終わらないうちに、ぬっと現れる人影。
「ソフィじゃねぇかっ、久しぶりだなぁ」
明らかに湯上りだろう、でっかいおっさんが豪快に登場した。
「旦那様!?」
「お久しぶりです、村長」
「村長なんて呼ばないでくれや、カイルでいいって」
「はいはい、カイル村長」
やっつけのような口調で言うソフィ。
「はあ~、あんなに可愛かったのになぁ」
どうやら滅茶苦茶仲いいらしい。
「お二人はどのようなご関係で……?」
ソフィたん可愛い