一時の別れ
「なんでやめちゃうのよ〜〜〜〜〜〜!!」
「い、いや、その色々あって家を売り払うことになりまして。
だから、その、このきにどこか遠くの場所に引っ越そうかと。」
現在俺は、このアマにバイトを辞めると言ったところ、いい大人のくせに「やめないでぇ〜〜」........と駄々をこねられていた。
というかそもそも、なんでバイトを辞めるという話になったかというと..............
昨日
「すまん、俺達の問題にお前を巻き込んでしまって。」
「いえ、いいんです。
例えこの先何があっても、私は坊っちゃまと一緒です。」
「お前............ありがとう。」
しかし、これから本当にどうする。
屋敷が売り払われるとなると住む場所がなくなるし。
家を買おうにも街のやつらから........なんでレーヴァン家の坊っちゃんが家を............と、何かと面倒な事になるので、本当に手詰まりの状態だ。
「どうする、どうする。」
俺があれこれ考えていると。
「あの、坊っちゃま。」
「ん?.......何だ。」
「よろしかったら、私の実家に来ませんか。」
.........................................なぬ?
「え?、え?、え?、実家ってまさか.....お前の実家!?」
「はい、ですからそう言ってるではありませんか。」
確かに、現状ではそれしか選択肢がなく、わりといい案なのかもしれない。
............いや、でも待て。
「いきなり行って 大丈夫か?
お前の両親に迷惑がかかるんじゃ。」
「その点については大丈夫です、私に両親はいませんから。」
「..................すまん。」
「いえ、大丈夫です。」
そうだった。
こいつには父親と母親がいなかったことを忘れていた。
父親はこいつが幼い頃に亡くなり、母親は去年に病気で亡くなってしまったのだ。
...................悪い事を聞いちまったな。
「引っ越すとなると、坊っちゃま。
ちゃんとバイト先に辞めると言いにいかなきゃ駄目ですよ。」
「............あ、そういえばそうか。」
引っ越せばもう中々戻れなくなるので、バイトは辞めるべきである。
そう思い、俺の頭に浮かんだのはあの女の顔だった。
(またあの生物に会わなきゃいけんのか。)
まぁ............これで最後になるしな。
挨拶ぐらいにはいってやるか。
いくらあの女でも訳を話せば納得してくれるだろう。
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「やめないでぇ〜〜、本当にやめないでぇ〜〜、せっかく客が増えてきたのにまたあの頃の売り上げに戻りたくないわよ〜〜!」
「............」
納得してくれると思ってた数時間前の俺を殴りたい。
あぁ〜〜もう通行人からの視線が痛い。
「あの、お願いですから納得してください。」
「嫌!嫌よ!
せっかくの商売道具を逃がしてたまるものですか!」
俺のことを商売道具って言いやがったぞこいつ!
「そ、そう言われても............」
「それにね、君が引っ越したらうちの娘が悲しむんだから!」
「............え。」
どうしてそこであの娘の名前が出てくるんだ?
「あの、どうしてですか。」
「気づいてなかったの!?
あの娘はバイトが終わったらずっと君の話ばっかりで、すごい楽しそうな表情をするのよ。」
「........................」
「だれがどうみても、あの娘は君の事が好きよ。」
「............」
.........................正直、そうかもしれないと心のどこかで思っていた。
俺と話をしてる時は顔が赤くなってるし、バイト中もずっとみてくる。
気づかないほうがおかしい。
「............ねっ!
だからあの娘のためにも辞めるわけにはいかないわよね!」
....................だが、それとこれとは話が別だ。
「すいません、無理です。
話し合って決めたことですから............その、ごめんなさい。」
あの娘には悪いが、あいつと話し合って決めたことだ。
もう変えられない。
「なんで!?なんでよ!?
あの娘のどこが気に入らないの!」
「いや、そういうことじゃなくて。」
「あの娘は胸も大きいわよ!もうそれはそれは凄い大きい!」
「........................」
もはやこの人は何を言ってるんだろう。
「あっ!じゃあ触っちゃう?何だったら触っちゃう!?」
「とうとう娘まで売りやがったぞこいつ!!」
あまりにも親らしからぬ言動により、つい声に出してしまった。
「売ってないわよ!説得よ!説得!」
「いや、どう考えても売ってただろ!」
もうこの人に敬語を使うのもバカらしくなってきた。
「何よぉ!
あの娘はスタイルもいいし、かわいいし、性格もよく「もうやめて!お母さん!」
直後、後ろから声が聞こえてきて............
「グヘェ!?」
凄い勢いでその女の首もとの襟が引っ張られた。
なんというか...........ざまぁみろと思った。
「お母さんなに言ってるの!
ウタさんが困ってるでしょ!」
「ゴホッゴホッゴホッ」
よほど威力が強かったのか、引っ張られた女は立てずに咳き込んでいる。
....................................良くやった。
「あの、すいませんウタさん。
うちのバカな母親が。」
「いやいや大丈夫。
というか何かスカッしたし、ありがとう。」
本当にいい娘だ。
この親から生まれたとはとても思えない。
俺がちょっと笑っていると............
「あの............ウタさん、引っ越してしまうんですか。」
その娘は悲しそうな表情をしながら聞いてきた。
「................ああ。」
俺は応える。
「また............会えますか?」
「........................」
どうなるかわからない。
あいつの実家は遠いし、そう簡単に戻ってくることのできる距離じゃない。
会うことは難しい............だけど。
「ああ、年に数回は戻ってくるから安心しろ。」
笑顔でそう応えるしか、俺には出来なかった。
「............はい!」
その娘は満面の笑みで、元気に返事をしてくれた。
会えるという確信がないのに戻ってくるって言うのは駄目だと思うが。
そう言わないと寂しい気がして俺は嫌だった。
「それじゃあまた、ウタさん。」
「おう。」
俺の姿がみえなくなるまで、その娘はずっと手をふってくれていた。
そしてその翌日、俺とメイドは荷物の準備をし、馬車で彼女の実家へと行くことになる。
明日から2日に一話投稿になります。




