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隠れ部屋

作者: 尚文産商堂

アンダーグラウンドの紹介屋と言われている人のところで働き始めてから1週間。

住み込みだけど、彼が眠っているところを見たことがない。

もしかしたら、眠らないのかもしれないと思うほどだ。


私が部屋から起きてくると、すでに彼は仕事場にしている部屋の一室にいる。

「……いつ寝てるのさ」

私が朝ごはんのトーストとバターを食べながら聞く。

部屋は長い廊下を通った向こうにあって、そこで一日の大半を過ごしている。

「いつか、さ」

彼は朝ごはんは、さっさと済ませるタイプらしく、ゼリー飲料だけを飲んでいた。

足元の、外からは見えないところにゴミ箱があって、そこには週に1回のペースで袋を入れ替えるゴミ箱がある。

大量の紙や、何かの切れ端なんかが無造作に放り込まれていた。

「……そろそろかな」

「お客さん?」

私はこの1週間でどう動くべきなのかを知っていた。

客はいつも何か裏を抱えてここにきている。

アンダーグラウンドは都会の闇だ。

でも、その闇を晴らしたくて、恨みつらみをここで話したうえで誰かと一緒に出ていく。

それなりのお金を口止め料としてもらっているが、それを正規の収入として申告している気配は全くない。

かくいう私も、そんな闇を抱えたものの一人だ。

「査察さ」

そういって、彼は私が初めて見た床下収納への扉を開く。

「えっ」

「朝飯と一緒でいいから、さっさと入りな。面倒なことは御免だろ?」

彼が言うなり私をその床下収納の中へと入れた。

階段があったから、それを勢いよく下っていく。

「広い……」

アパートの下に、こんな空間が広がっているとは思わなかった。

思わず声があふれる。

車も数台は止まれるような大きさがあるが、なにやら段ボールや木箱が置かれている。

あとはいくらかの裸電球が、電線につながれて天井からぶら下がっている。

「しばらくはここにいないとな」

言った直後、上でドタドタと音が聞こえる。

3人くらいの足音だ。

何やら会話はしているようだが、よく分からない。

まるで遠くにいるようなくぐもった声でしか伝わってこないからだ。

「俺は、このアンダーグラウンドの自警団の団長をしているんだ。その人らが、これからの予定を伝えに来ているんだけど……」

「会うのが億劫ってこと」

私が聞くと、彼がうなづいた。


数分で足音は消え、そろそろと彼が出るとどうやら誰もいなかったようだ。

ただ、紙が一枚、カウンターの上に置いてあって、そこには自警団の1か月のスケジュールが書かれていた。

「ま、これでいいや」

彼はそういって、そのまま紙を丸めてごみ箱へと捨てていた。

それから、彼は手野新聞を手に取って、読み始めていた。

こうなれば、あとはお客さんが来るのを待つだけ。

私がここにいる意味はほとんどないが、それでも一緒に待っていた。

一応はお手伝いだからだ。

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